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第29話 帝国はおしおきされました (2)

 三人称視点です。

「全員、犬の着ぐるみを着ろ。そして、しっぽで謝罪の言葉を100回書くんだ」


 東方共和国の代表は、そう言うと、ぷぷっと笑った。

 いい歳した大人である自分が、「しっぽで謝罪の言葉を書け」などと大まじめに言うのがおかしくなってしまったらしい。


 実のところ、このおしおきを考えたのは彼の息子である。

 火消坂は、おしおきについていくつか条件を出しており、そのひとつが「最初のおしおきは子供に考えさせろ」というものであったのだ。


 さて、代表は笑っていたが、帝国の村人達はというと意味がわからず、きょとんとしていた。

『蛮族ごとき』が『崇高なる帝国人』に対して、こうも露骨に無礼な言葉を言うなどということが理解できなかったのだ。

 が、徐々に代表の言葉が頭に入ってくる。飲み込めてくる。


 帝国人達は激怒した。


「ふふふ、ふざけるなあああああ!」

「な、な、何を言っているのよ! しっぽで謝罪しろ? よ、よ、よくも汚らわしい蛮族の分際でそんなことを!」

「おのれぇ! よくも我々を侮辱してくれたな! 貴様ら全員ぶっ殺してやる! 覚悟しておけよ!」


 彼らは皆、髪の毛が逆立ち、血管が浮き出るほど顔を真っ赤にして怒鳴る。


 東方共和国の代表は、そんな帝国人達を見て、やれやれと言わんばかりに首を横に振った。


「困るなあ、君達。悪いことをしたらおしおきを受ける。当たり前のことだろう?

 ましてや君達は長年、他民族への大量虐殺に積極的に関わってきたんだ。

 これくらいのおしおきは小手調べのジャブじゃないか。さあ、わかったら早く犬の着ぐるみを着たまえ」


 代表の言葉に、何人かの帝国人がとうとう怒りのあまり行動に移った。


「うおおおおおお!」

「死ねえ! 蛮族ぅ!」


 彼らは怒気を発しながら、鏡に向けて一斉に魔炎を放った。


 無論、鏡を燃やしたからと言って、どうこうなるわけではない。

 ただそれでも帝国の強さ、恐ろしさを思い知らせてやりたかったのだ。


 が、帝国人の願いは叶わなかった。

 高速で動く人形がハエでも叩き落とすかのように、魔炎をペシっと地面に叩きつけたのだ。

 魔炎はあっけなく消えてしまった。


「へ?」

「……ほわ?」


 帝国人達はわけがわからず混乱する。


 が、人形の行動はそれだけでは終わらなかった。

 魔炎を放った帝国人は全員、人形達によって首根っこをつかまれ、地面に倒された。

 そして、人形達はその首筋に、一本の針を刺したのだ。


 直後、刺された帝国人達は絶叫した。

 いや、それは絶叫なんて生やさしいものではない。魂の底から苦痛の悲鳴を上げるような、そんな声だった。


「おぎょああああああああああ!!!」

「ごぎょぐぎゃぎゃああああああああああ!!!」

「あぎぎぎぎぎぎぎあぎぐがああがががああああああ!!!」


 彼らを襲ったのは痛みだった。

 ただの痛みではない。

 生きている中でこれほどの痛みはいまだかつて味わったことがないというほどの激烈な痛みだったのだ。


 彼らは皆、激痛で転げ回った。

 大の大人達が、子供のように泣き叫び、涙と鼻水をボロボロ流しながら、耳をつんざくような叫び声を上げ、地面をのたうち回っているのだ。


 残された帝国人はあっけにとられる。


 時間にしてわずか5分のことだった。

 やがて、泣き叫んでいた帝国人達は「ひ、ひい……」「ひゅ、ひゅ……」と息も絶え絶えな様子ながらも、落ち着きを取り戻す、

 後遺症が残っている様子はない。

 ただ、よほどの苦痛だったのか、皆、茫然自失としたまま、へたりこんでいる。


「さて、帝国人諸君。これで我々に逆らうことの愚かさがわかったかな?

 わかったなら、さっさとおしおきを受けたまえ。服を脱ぐんだ。さっきの針よりはよっぽどマシなはずだ。

 じゃないとまた針を刺すよ?」


 東方共和国の代表が穏やかな顔で言う。


 針、という単語を聞いて、先ほど刺された帝国人達が「ひいっ!」と悲鳴を上げる。

 他の帝国人も、彼らが狂ったように泣き叫んでいた様子は見ているため、「ひっ……」とひきつった顔をする。


 だが、それでも彼らは帝国人だった。

 自分達をこの世界で最も高貴だと考え、他民族はゴミであり、殺してもいい……いや、むしろ積極的に殺した方が世界がきれいになっていいと考える連中であった。

 高すぎるほどのプライドがあったのだ。


 痛みへの恐怖と、高すぎるプライド。

 その両方に挟まれて、帝国人達は一歩も動けないでいた。


 沈黙の中、動いたのは村長だった。


「ふ、ふざけるな……」

「ん?」


 代表が聞き返す。


「ふざけるな、と言ったんだ! 蛮族の分際で何がおしおきだ。野蛮人は野蛮人らしく田舎に引っ込んでろ。俺達はなあ、世界で最も尊貴な帝国人なんだぞ! お前達ごときにどうこういわれる筋合いはないわ!」


 村長は怒鳴り声を上げる。

 一人が怒鳴ると、それにつられて、帝国人達は次々と罵声を上げる。


「そ、そうよそうよ! 汚らしい未開人のくせに。何言ってるのよ!」

「あ、ああ、そうだとも。だいたい、お前達は感謝が足りないんだよ。お前達の薄汚い家族を、俺たちは殺してやったんだぞ? きれいに掃除してあげたんだぞ? まずはありがとうございますだろ! それをさっきから何なんだよ!」

「そ、そ、そうだ! 世界で最も尊貴な帝国人に向かってその態度は何だ! 反省しろ!」


 針を刺されて激痛に(さいな)まされていた帝国人達も、最初はあっけに取られて何も言わなかったが、周りがこうも盛り上がると、だんだんと「自分達は高貴なる帝国神様なのだぞ」という意識がよみがえってくる。

『喉元過ぎれば熱さを忘れる』ということわざ通り、先ほどの痛みも忘れて一緒になって罵声を浴びせる。


「お、お、おお! そ、そうだ、蛮族め! 何がおしおきだ。そんなのはお前たちにこそお似合いだ!」

「あ……あ、ああ、そうだとも! しっぽで謝罪の言葉を書く? 貴様ら野蛮人にこそお似合いではないか。『生きていてすみません』って謝罪の言葉を書いたらどうだ?」


 怒声と侮蔑。

 帝国人の他民族への接し方はその1パターンであり、今まではその1パターンのみで何とかなってきた。

 だから、今のような状況であっても、帝国人達はいつものように怒鳴り、見下すのだった。


 東方共和国の代表はため息をついて言った。


「やれやれ、仕方ないなあ。じゃあ、人形さん。頼みます」


 代表が人形に向けて頭を下げると、人形はこくんとうなずき、一斉に動き出した。


「あ……」

「ひっ……」

「ちょ、ま、待て……」


 帝国人達は、突然動き出した人形達に恐怖した。


「ひ、ひい! 来るな! 来るなあ!」

「あっち行けえ!」


 帝国人たちは叫んだ。

 が、現実は残酷である。


「あぎぎぎぎぎぃあああああああああああああ!!!」

「ぎょぎゃぎいいいいいいいいいいいいいいいああああああ!!!」

「ひゃぎゃあああああああああああああああああああ!!!」


 帝国人208名は全員首筋に針を刺され、強烈な激痛に襲われ、顔中から涙と鼻水とよだれを流しながら、地面を泣き声と共に転がり回るのだった。


「ねえ、お父さん」


 代表の息子が父に話しかけた。


「ん? なんだい」

「なんであの人達、また痛い目に合うってわかっているのに、あんな強気で見下すの? バカなの?」

「うーん、たぶんだけど、『まさか高貴なる帝国人である我らに、二度も痛みを与えたりなどするまい』って本気で思ってたんじゃないかな。自分たちは世界で一番崇高な民族だから、何をやっても許されるし、ひどい目に合わせられるはずがないって」

「……正気なの?」

「正気かはわからないが、あの人たちが本気なのは確かだよ」

「……そっか。ねえ、お父さん」

「なんだい、息子よ」

「僕、生まれ変わっても、帝国人にだけはなりたくないよ」

「うん、それがいい。お父さんもがんばって帝国以外で生まれ変わるようにするよ」


 親子は、激痛でのたうち回る帝国人達を眺めながら、そっとうなずき合った。


 それから10分が過ぎた。

 痛みがおさまり、息も絶え絶えな帝国人達を見て、さあ今度こそおしおきだ、と代表は思った。

 穏やかな表情の裏に、ふつふつと煮えたぎる怒りを感じながら、そう思うのだった。

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