第27話 帝国を地上から消そう (3)
主人公の一人称視点です。
いよいよ帝国を地上から物理的に消す時が来た。
でも正直、失敗するのが怖い。
そこで僕は、本番の前に一度実験をしておくことにした。
帝国領の端に、鼻みたいな形でちょこんと突き出した半島がある。
あの半島でテストをすることにしたのだ。
僕は衛星軌道上から半島を見つめ、念じる。
(あの半島で庭作りをやらせたい。庭作りをやらせるのは現地人のうち15歳以上の大人だ。半島は、西に5000キロ、南に600キロ、上空1000メートルにゆっくり移動させること。庭作りはハードモードで具体的には……)
僕がハードモード庭作りの具体的な内容を念じ終える。
さあ、どうなる?
僕はドキドキしながら見守る。
するとどうだろう。
半島は大陸からちぎれるように離れ、ゆっくりと浮かび上がった。
そして高度を上げながら、南西にゆっくりと飛んで行ったのだ。
よし! 第一段階クリアだ!
半島(もはや島だけど、半島と呼んでおきましょう)は予定通り飛んでいる。
ちなみに、西に5000キロも飛ばしたのにはわけがある。
帝国を海の上に移動させるためだ。
単に真上に1000メートル飛ばしただけでは意味がない。
帝国との国境沿いに、高さ1000メートル以上の山があったらどうする? その山を登れば、帝国と地上とを自由に行き来できてしまうじゃないか。
それで帝国人が地上に脱出して虐殺を始めてしまったら、僕はただのバカになってしまう。
南に600キロ飛ばしたのにもわけがある。
高度が上がった分気温も下がるだろうから、その分南に移動させてやろうと考えたからだ。
気温が変わって農業が出来なくなったら、子供達が可哀想だし、それで帝国の人口が増えなくなっても困る。
ゆっくり移動するように念じたのは、帝国をロケットやジェットコースターのごとく高速で飛ばしたら、帝国が風圧でメチャクチャなことになってしまうだろう、という配慮によるものだ。
隠しスキルをゲットするためには、人口を増やさないといけないのに、帝国をメチャクチャにしてどうする。
「よし。じゃあ、高度を下げてあの半島の上空に向かってくれ」
僕は飛行船に命じた。
現地がどうなっているか確認したかったのだ。
それから僕はゴーレム達にも手伝ってもらい、たっぷり半日かけて半島を観察した。
結果、問題がないことが判明した。
半島は確かに飛んでいる。
農地に枯れている様子もない。
そして肝心のおしおきだが、半島の帝国人達は、ちゃんと僕が念じた通りのハードモード庭作りをやらされていた。
詳しくは後で話すが、帝国人達は、今、オアシス国家の庭作りとはまた異なる悲惨な庭作りを「ひ、ひいっ!」とか「ちくしょう! よくも高貴なる帝国人である俺様にこんなことを!」とか言いながらやらされている。
しかも、やらされているのは大人達だけ。子供達は自由だ。
何もかもが思い通りだ。
「オーケー! やったぞ!」
僕は笑顔でメーレムとハイタッチをした。
メーレムは、ピコッと音を立ててそれに応えてくれる。
その日はもう遅いので眠ることにした。
明日のことを思うと緊張してすぐには眠れないかと思っていたけど、気がついたらぐっすり寝ていた。
◇
翌日、いよいよ本番である。
やっぱりドキドキする。
半島で上手くいったんだから大陸でも上手くいくさ、と自分に言い聞かせても、やっぱり緊張する。
でも、ドキドキばかりしていても始まらない。
さあ、やるぞ。
飛行船の衛星軌道から帝国本土を見下ろしながら、僕は念じた。
(帝国全土で庭作りをやらせたい。ただし、『海岸から5キロ以内の土地』は庭作りの対象外とする。庭作りをやらせるのは現地人のうち15歳以上の大人だ。帝国の土地は、西に5000キロ、南に600キロ、上空1000メートルにゆっくり移動させる。庭作りはハードモードで具体的には……)
『海岸から5キロ以内の土地』を庭作りの対象外としたのは、津波を気にしてのことだ。
何しろ巨大な陸地が空に浮かび上がるのだ。普通にやったら、衝撃で海はすさまじいことになるに違いない。
下手したら世界中で大きな津波が起きて、沿岸部の住民は全滅してしまうかもしれない。
だから、そんなことが起きないよう、帝国の海岸から5キロ以内の部分は飛ばさずに地上に残しておくことにしたのだ。
図で書くとこんな感じだ。
○○○○○○○
○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○ ○○
◆■■■○○○○○○○○○○○
◆■■■○○○○○○○○○○
◆■■■○○○○○○○○○○○
◆■■■○○○○○○○ ○○
○○○○○
○○○○○○○
○○○○○○
○○○○
■が帝国の飛ばす土地。
◆が帝国の飛ばさない土地。
○が帝国以外の土地。
周りは海に囲まれている。
実際は◆の幅は5キロしかないからずっと細長いのだが、だいたいこんな感じである。
こうすることで、この◆がちょうど堤防のように、海との仕切りになってくれる、というわけだ。
ちなみに、◆にいた帝国人はあらかじめゴーレム少女達に命じて全員内陸部に強制退去させてある。
やがて、僕は念じ終えた。
「うまくいってくれよ……」
期待と祈りをこめて、僕はつぶやく。
するとどうだろう。
■の部分が、つまり巨大な帝国の領土が、ボコリと浮かび上がったのだ。
帝国はゆっくりと高度を上げ終えると、ゆるやかに南西へと飛んで行く。
「すげえ……」
僕は震えながら、眼下の光景を見下ろしていた。
大陸が飛んでいる姿を見たことがあるだろうか?
すさまじいほどに壮大な光景である。
将来、地球で完全なバーチャルリアリティゲームが作られるようになったら、是非ともゲーム内で大陸を飛ばせるようにしてほしい。
これは本当に一見の価値があるものだ。
「ふう……」
震えがおさまると、僕は一息ついた。
それから僕は、ふと思い出したように(隠しスキル)と念じた。
もしかしたら、隠しスキルを取得できているかもしれないと思ったのだ。
結果はこうだった。
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[隠しスキル]
異世界転移
[効果]
この世界と地球とを自由に行き来できる。
[取得方法]
今後50年かけて、帝国によって人類の半数が虐殺される。
この未来を阻止できれば取得できる。
具体的には、今の人類の住む星の人口が、50年後に今よりも多くなるようにする。
[補足]
スキル取得に成功しました!
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今までになかった文章が追加されている。
『スキル取得に成功しました!』である。
そう、僕はスキル取得に成功したのだ。
僕は目をパチクリさせた。
正直実感が湧かない。
いや、帝国を飛ばせばこうなるかも、という予感はあった。
でも、いざ実際にそうなってみると、びっくりしてしまって、どう反応していいのかわからなかったのだ。
「は、ははは……」
やがて、僕は笑った。
「はは、ははは……」
気がつくと飛行船の中で立ち上がっていた。
メーレムの両手を取り、踊り回っていた。
「やった! やったぞ! ははは!」
メーレムは嫌がるそぶりも見せず、むしろピッコンピコピッコンとリズミカルな音を立てて僕と一緒に踊った。
その表情は相変わらずの無表情だけれども、どこか上気しているように見えた。
そういえば、はじめて出会った時も、メーレムは踊っていたな、と思い出した。
なんとなく、この異世界での話が終わりに近づいてきているのを僕は感じていた。
でも、まだ終わってはいない。
遠足は帰るまでが遠足。
仕返しは、相手の末路を見届けるまでが仕返しだ。
すぐに隠しスキルを試したい気持ちもあるけれども、それはやることをやってからだ。
僕は飛行船に命じた。
「帝国上空に向かってくれ」
さあ、帝国の末路を見届けよう。




