第二話 君の名前は――!!
私が目を覚ましたとき、小百合ちゃんはもうすでに起きていた。小百合ちゃんは窓辺に立っていた。そこはちょうど日の出の方向だったので、少しまぶしかった。
「・・・おはよう・・・」
小百合ちゃんはこちらの視線に気づくと挨拶をし始めた。とりあえず私も挨拶をした。
「おはよう。」
だが、欠けていた。この二人に欠けていたもの・・・それを持っている人物は・・・
ドガァン
ドアを思いっきり開く音が聞こえた。キッチリと言うがここは病院なのだ。そんなに大きな音を出せばほかの部屋の人が困る。
そう思っていたのはギンと小百合の二人だけだった。ドアを思いっきり開けた本人はまったくそういうことを考えない。
「おっはよ~!!!!」
入ってきたのはやっぱりというか何というか沙羅ちゃんだった。
声の大きさにも問題があることは言うまでもなかった。だが、やっぱり本人は気にしていない。私は呆れてため息を一つついた。
「あんれぇ~?どうしたの?疲れてるの?」
「呆れてるの!!あんたに!!」
「・・・ギン・・・声・・・大きい・・・」
小百合ちゃんに注意されてしまった。病院というのは怪我や病気を治すのには良いがそういうところはキッチリとしている。
私はとりあえず仕切りなおしの咳払いを一つして話を進めた。
「で?沙羅ちゃんは何しに大声で突入してきたわけ?」
「見舞いに決まってるでしょ?見舞いに。」
「・・・沙羅・・・声・・・やっぱり大きい・・・」
今度は沙羅ちゃんが注意されてしまった。沙羅ちゃんは小百合ちゃんのほうを向くと右手片手でごめんのジェスチャーをした。
小百合ちゃんは無口だが、意外としっかりしている。二人の仲裁役だといっても過言ではい。
とりあえずそれから数分間、二人は部屋で会話をして帰っていった。幸い今日は日曜日。学校はないのだ。
私は二人が帰った後にベットに潜り込んでふぅ~っとため息をした。こうすると昨日の戦いが嘘の様に感じられた。だが、嘘ではいと体中の傷が訴えていた。
私は右手を出して拳を握ったり解いたりした。昨日かまれた傷のせいで上手くはできなかったが、感覚は戻ってきた。
そこへまたあの人が入ってきた。
「調子はどうだい?山城さん・・・?」
私は声で大体誰かは分かった。この声の主は高野だ。あいつ以外には考えられなかった。わたしはドアのほうに顔を向ける。案の定そこには高野がドアにもたれかかっていた。
数秒すると高野は動き出して私のすぐそばにあった椅子に座った。
「この前の犬のことはしっかりと覚えているかな?」
「あ・・うん・・・。」
「君はいろいろと知りたがっているようだから教えてあげるよ。まずはクリスタルのことだね。」
高野は首にかけてあったペンダントを見せてきた。先には私のと同じ宝石がついていたが、色が水色だった。
そのペンダントはすぐに高野の首へと戻されてしまった。
「このクリスタルは君のものとほとんど同じさ。クリスタルはそれぞれ意思を持っている。ちょっと自分勝手なところもあって、それぞれ誰につくかを生まれてくるときに決めるんだ。
そしてクリスタルにはそれぞれ系統がある。僕のクリスタルは槍。君のクリスタルは大剣みたいだね。」
そこまで言うと彼はいったん区切りを入れた。その視線には沙羅がお見舞いにともってきた果物があった。特に視線はみかんへと注がれていた。
私はみかんを取り出してそれを高野に渡した。高野は嬉しそうに笑いながら皮をむき始めた。
やがて向き終わるとまず一切れ目をほおばった。高野は幸せそうな顔をした。みかんが好きなんだろうと思う。
二切れ目を食べながら高野はまた語りだした。
「クリスタルに認められたものを一般的には『適合者』と呼ばれる。ほかには『クリスター』とも呼ばれることもある。君はその赤いクリスタルに認められて適合者の一人になったのさ。
そして最後に君に襲い掛かってきた怪物だが、通称『ティガイス』と呼ばれる。ほかには『T.G.S.』とも呼ばれることもある。ランクはDからSSまで区切られる。以下のとおりだ。D,C,B,A,AA,AAA,S,SSと分かれている。されにそれにプラスやマイナスがつくときもある。C+、B-、B、B+という感じに分けられる。プラスとマイナスはどれにでもつくからな。
君が戦った『デスデビルドック』はB+で初心者には少しきついものだった。本当は『デビルドック』というCと戦っているはずだったんだが・・・。すまなかった。」
高野は深々と頭を下げた。私はあんまり気にしていなかったけれどもね。
不意にみかんを食べ終えると高野は席を立った。
「後2~3日ほどで退院はできると思う。それまでしっかりと休んでいればいい。」
そこまで言うと高野は部屋を出て行った。高野の言ったことはほとんどが理解できなかった。
ただ・・・高野は真剣だったことにギンは気づいていた。それからは平和な日々が続くのだった。
「姉さん・・・起きてる・・・?」
暗い部屋に一つの声が響いた。ここがどこかはここにいるものしか知らない。
「起きてるよ。レイン・・・。」
姉さんとよばれた女の人は返事をした。この人は髪を腰まで伸ばした金髪の女性だった。
それに対しレインと呼ばれた少年は黒髪のぼさっとした感じの髪形をしていた。二人とも年は15歳くらい。若かった。
だが、姉さんと呼ばれたほうは少し年上だろう。見た目よりも雰囲気が物語っていた。
「あと少し・・・あと少しで・・・僕等は自由になるんだね。」
「ええ・・・後もうちょっとよ・・・我慢しましょう・・・。」
二人とも金色の目をしていて、キラリと一瞬光ったようにも思えた。
三日後私はめでたく退院できた。だが、少しの間右腕にはかなりの痛みがあるそうだ。まだ感知とはいえないのだ。
病院から出るとすぐ入り口には小百合と沙羅が待っていてくれた。二人はこちらに気づくと一目散に駆けて来た。
「退院おめでとう。う~ん・・・ギブスはやっぱり取れないのね・・・。」
そういったのは沙羅だ。小百合はこんなに長く言葉を発することはほとんどない。私は二人にお礼を言って手を借りながら家へと帰ることとなった。
そういえば・・・家の説明は全然してなかったっけ?一応お見舞いにも来てくれたけれども、全然そのことは話さなかったよね?
なんだかんだで気づけば私の家に到着した。見た目は普通な一軒家。私はドアを開けて『ただいま~』と言った。
ドタドタ
誰かが走ってくる音が聞こえる。この時私は物凄く嫌な予感を覚えた。そしてそれが見えたと同時に飛びついてきた。
「おかえり~。」
飛びついてきたのは女の子で私にそのまましがみ付いて頬擦りを何回も何回もしだした。だが、飛びついてきたときの反動で私は後ろに倒れた。ドアは開いていたのだ。その際右腕が下敷きになったことは言うまでもなかった。
「いったああああああああああああああい!!!!!!」
久しぶりに帰った家に私の絶叫が響いた。
彼女は山城 レモン(やましろ れもん)。ツインテールの金髪少女で中学三年生の私の妹。シスコン(笑)な所があって小さなころから抱きついて来る。
実を言うと私と正反対だが平和主義者。正反対すぎたね。
「うんうん。結構元気じゃないか・・・。」
奥から出てきたのは私のお父さん。山城 創英。なんか普通の人だ。ただすごいのは都道府県の名産物を全ていえることだった。どうでも良いがすごいものだった。
「と・・・父さん・・・た・・・助け・・・て・・・。」
レモンは先ほどから私にしがみ付いてきている。私の重さとレモンの重さが右腕にかかっている。さらにレモンは頬擦りのために動くからまた厄介話だった。このままでは病院に帰ってしまいそうだった。
「レモン・・・どいて・・・。」
「ミシャウ?あ!!!ごめん。痛かった?」
そりゃ痛いわ!!とは言えずに苦笑いをした。右腕は先ほどからズキズキしている。
とりあえずレモンは退いてくれた。レモンはたまに猫っぽくなる所があるのはあまり気にしないで欲しい。切実なお願いだ。
あお、それと母さんもいるのだが、ここ一ヶ月いないのだ。理由は二ヶ月ほど外国へスキーに行きます。だそうだ。今は春・・・。
スキーは日本でもうできないから外国へ飛んでいったが・・・二ヶ月って長!!とか思いながらも地道に待っている私たちだった。
「二人とも上がっていいよ。」
父さんが沙羅ちゃんと小百合ちゃんに笑顔で言った。二人は遠慮がちに我が家に入った。二人は私のうちに入るのは初めてだと思い直す。私は少し笑いながらドアを閉めた。
そこは暗闇。何もない所だが、二人の何かがいた。一人は少年、一人は女性だった。
「そろそろ兄さんも起きるころか・・・?」
「ええ。そしてあと少しで計画は発動する・・・。」
二人はニヤリと笑った。最初は気づかなかったが二人の目の前には何かがあった。それは水の音を出しながら動くことなくあった。
家の中ではレモンと共に他愛もない話をした。二人ともすごく楽しんでくれた。今私はテーブルにおいてあったおかしやコップの片づけをしている。ただの後片づけだ。
最後にテーブルを拭いて終わり。私は少し伸びをやった。腰が少し痛かった。
『聞こえるか?山城さん?』
急に声が聞こえた。私は少し驚き、そして冷静に考えればその声は高野だった。
『なんで私の頭の中にあんたの声が聞こえるのよ~!?』
『適合者は同士で頭の中で会話ができる。言ってなかったか?』
『言ってないわよ~!?』
私は眉間にしわを寄せながら頭の中で怒鳴った。
『で?急に何の用なのよ!?』
『・・・近くにティガイスの反応があったから報告しただけだ。』
『何で私に言う必要があるのよ!?』
『君は適合者なのだ。この日本・・・いや、地球を守りたいとは思わないのかね?ティガイスは倒さないといけないんだよ。』
『ならあんたが行け。』
『あ~俺は今海外にいるからよろしくね。』
『はい!?学校は!?』
『昨日からいないぞ?って、お前は今日退院したんだから知らないか・・・。とりあえず急いでくれよ。』
『分かったよ。どこに行けばいいの?』
『桜坂公園。』
え?桜坂公園・・・?確か二人は歩いて桜坂公園に行くって・・・
「急いでいかないと!!!」
私は急いで家を出た。目的地はあの公園・・・。デスデビルドックのいた所だ。
「あっ。」
私はあることに気づいて家へ戻った。急いで自分の部屋に入って机の上においてあった首飾りを手に取る。先っぽには赤いクリスタルが着いていた。
私はそれを手にとり首にかけて家を出た。そして公園へと急ぐ。ここから走れば20分程度でつく距離だった。
公園に着くとベンチに座って会話をしている二人が目に止まった。あの位置から今の場所は死角となっているはずで見えない。
私はティガイスを探した。その時スパァという音と共に右の頬が切れた。私は何が起きたか分からなかった。
私は目を丸くして自分の頬を触る。赤い血が流れていた。私は驚いて周囲を見回したが何もいなかった。ティガイスも人間の姿もなかったのだ。
「ミャァ~~~。」
猫の声がした。反射的に首を左に傾けたのが功をきした。また右の頬に傷ができたのだ。それも先ほどよりも深めに三つほど。もしも首を傾けていなければ相当深く入っていたに違いない。
私はとりあえず右を向く。やはり何もない。だが、何かがいることは間違いなかった。その時黒い何かが前を瞬時に横切った。わたしは動体視力はいいほうだからそれが何かは分かった。
黒い猫だった。黄色い目で鋭くこちらを睨んでいたようだ。だが、相当早かった。私は次はどこから攻撃してくるかを注意した。
奴・・・『ブラックキャット(危険度C+)』は後ろから仕掛けてきた。私はそれを察知するとしゃがんで避ける。素手ではかないそうにない。私は首にかけてあったクリスタルを手に取り、一言つぶやく。
「解放!!!」
クリスタルは見る見るうちに大剣へと変化した。私はその大剣を両手で持つ。そして『ブラックキャット』のいる所をそれでなぎ払う。はずれた。
さすがに大剣では攻撃速度が問題だった。振っている最中に避けられてしまうのだ。
まずかった。決定的な何かにかけている。
―私に名前を―
か細い女の人の声が聞こえた。私は誰の声か分からなかった。
―私に名前を!!―
もう一度同じセリフが聞こえ、それと同時に私は無意識のうちに目をつぶってしまった。
気づけばそこは虹色の世界だった。そこに私は一人ぽつんと立っていた。
ブラックキャットはどこにもいなかった。ただ一人少女が立っていた。髪は赤色で腰の辺りまで伸びていた。服は白っぽい服でワンピースだった。
少女は片手をこちらに向けてきた。まるで何かを求めているかのように。
「名前をいただけますか?」
少女は笑顔で語りかけてきた。私には何がなんだか分からない。だが、次の言葉で私は理解した。
「私は名のないクリスタル。あなたを選んだクリスタルです。今私とあなたは心を一つにしている。今ならあなたは私に名前をつけれます。いや、つけてください。」
いきなり言われてもつけようがなかった。だが、その時一つのビジョンが見えた。
それは森の中での出来事だった。男が一人。目の前には怪物が多数。
男は首にかけていたクリスタルをとりだした。色は赤。そして男は何かをつぶやいた。それと同時にクリスタルは大剣と化す。
男は毛縁を構える。それと同時に怪物たちも動き出した。
大剣をうまく使って敵をなぎ払っていく。すごい速さで。
そして最後に男は変な構えをした。そして一閃・・・それは竜の形をして敵を飲み込んだ。
そこで映像は終わっていた。それはクリスタルの記憶だったのだと思う。
目を開けたとき今の状況を判断する。
手の中には大剣が。目の前にはブラックキャットがいた。その先にはベンチに少女が二人いる。
私は目を閉じる。そしてつぶやく。
「クリスタル・・・私はあなたに名前を上げる。だから私に力を頂戴。」
ブラックっキャットが攻撃を仕掛けたのが分かった。何故なら左の頬が切られたからだ。痛かったが、我慢をしてクリスタルの名前を言う。
「あなたの名前は『赤竜』。」
それと同時に自分にあの髪の長い少女が重なるような感覚に襲われる。
その少女はつぶやく。
「私の名前は赤竜・・・赤竜!!!!」
私は目を開ける。曽木ほどと状況はほとんど変わってはいなかった。だが、持っていた大剣のクリスタルがついている部分は赤く光っていた。
私はクリスタルに喋りかけるように言う。
「いくよ赤竜!!!」
『はい。マスター!!』
元気のいい少女の声が聞こえた。それはクリスタルの声だと直感が物語っていた。
私は大剣をしっかりと両手で握り顔の横に構えて剣の先を敵に向けた。そして力をこめる。すると足元から赤い風が出てきて私の周りを渦巻いた。
ブラックキャットが私に飛び掛ってきた。
『赤竜閃!!!』
私はそう叫びながらそのまま怪物に向けて剣を突き刺すようにまっすぐと剣を伸ばした。
すると剣から赤い竜が出てきた。それはブラックキャットを飲み込んで天へと上って行ってしまった。
私は数分間それを見つめてその後剣をクリスタルに戻した。その時私は物凄い脱力感に襲われてひざをつけてしまった。そのことには私は物凄く驚いた。
そして目の前には誰かが立っているのが分かった。靴が見えていたから。
「そうか・・・赤竜閃を使ってその程度の疲れと言うことは・・・相当な精神力だな。」
私はぼける目を上へと向けた。そこには高野が私を見下して立っていた。
少しむかついたが体に力が入らないためにどうすることもできないのだ。
「まぁ、クリスタルの名前が決められたんだからよしとするか。よろしくな。赤竜さん。」
『はい。』
『私は翼天。よろしくね。』
高野の持っていた水色のクリスタルがしゃべった。私はそこまで確認した後に前に倒れた。完全にうつぶせの状態へと変化する。
僕は結構驚いていたりした。
初めてクリスタルと心を通わしたのに強い技が使えたり使ったわりにひざをつく程度で済んだりとかなりの精神力があると分かる。それは鍛えれば僕を完全に超えそうだった。
僕は微笑んだ。心からの優しい笑顔だったと思う。
僕はしゃがんで背中に山城を担いだ。そして道を歩いた。目的地は山城の家だった。
そこは暗闇・・・そこには三人の人型の影が合った。暗いのでそれが人間かどうかはいまいちよく分からなかった。
ただ、一人は少年、一人は女性、一人は男性だと言うことだけだ。
「おはよう。兄さん。よく眠れた?」
「・・・ああ・・・。よすぎるほどにな。」
「では、始まるのですね・・・?」
「ああ・・・。世界を手に入れるための力を集めるな・・・。」
「楽しみだよ・・・兄さん・・・」
その真っ暗な世界に笑い声が三つ響いた。
そして三人は闇に消えた。
私が目を覚ました時天井が見えた。それは見慣れた天井で自分の部屋だった。
『お目覚めですね。マスター。』
赤竜が話しかけてくる。どうやらあの後高野に連れてこられたようだ。
布団から上半身を起こすと頭に痛みが走った。
「痛!!!」
『駄目ですマスター。精神力をたくさん使いすぎて体に負担がかかっています。』
赤竜はよく分からないことを言い始める。
『私と心を通わせて使う技だと精神力を使うことになります。精神力を使うと普通の状態にはなれません。だから体力と同じように重要視しなければなりません。』
「精神力・・・。」
私は自分の右手を見つめた。力は戻り始めているのは実感できる。精神力と言うのも体力と同じで時間がたてば回復するようだ。
とりあえずその時思った事は(最近倒れること多いなぁ・・・)だった。
『マスター・・・私はいつまでもマスターと共に・・・。』
それを聞いた後にとりあえず私は寝ることにした。今は夜・・・とりあえず明日は学校に出れそうだ。
「どうだ?」
研究所の中に少年の声が響く。少年の名前は高野 宗次。高校一年生だ。
今はパソコンに面と向かって何かを記録している男に向かって声をかけている所だ。
パソコンの画面には多くの数字が書かれていた。まず右上には1835と書かれている。これは僕の数字だ。
そして左上には2565・・・これは僕の上司のあの人のものだ。違いすぎるのは残念だった。
そして下には数字がかわるがわる変化していた。これは山城ギンのものだ。今はまだ測定中・・・結果は出ていなかった。
「どうでしょうね・・・。データが少なすぎるような気もしますが・・・。」
ピッとパソコンから音が出たと思うと数字が出た数字は1632・・・。かなりの数値が出た。
「おいおい・・・すごいなぁ・・・これは・・・。」
「ええ・・・。こんなに高値が出るとは思いませんでした・・・。」
だが・・・その後ピッという音と共に・・・
「何じゃこりゃ!?」
「ありえない・・・!!!これが彼女の潜在能力だというのか・・・?」
「これはいい拾い物をしたのかもな・・・。」
翌日学校では友達たちが心配して声をかけてきてくれた。
「ふぅ~久しぶりに学校に来て疲れた~。」
私はいすに完全にもたれた。そしていすの背もたれに首を乗せた。ちょうど天井が見えるが首の付け根が痛い。
私は目を閉じると先ほどの授業の数式が出てくる。私は急に目を開けてウェっと言った。授業なんてかったるかった。だって中学のころはまったく勉強していなかったのだから・・・。自慢じゃないけれどもね。
私は後ろにもたれるのをやめて今度は前にもたれた。自分の顔が机でつぶれるんじゃないかと思えた。
とりあえず机と同化しそうな感じだった。なんか目がとろけている様な気がする。
私の目の前では人がやたらと行ったり来たりしているような気がした。そして私の前に二人の生徒が立つ。
「珍しい人が珍しくとろけてるねぇ~」
「いいじゃん沙羅。何か気持ちいぃし・・・。」
そしてどんどんとギンの顔は伸びていった。
「ギン・・・とけてる・・・。」
「いいのいいの。次はどうせ移動授業じゃないし。」
二人の女子生徒は呆れて自分たちの席へと戻ってしまった。
私は寝返りを打つかのように反対方向を向く。私の席は窓辺のほうなので空が目に入る。空の中には白い雲が流れていた。
私はその雲と同じように流されていくような気がした。
授業が終わり、私は現在公園の中央の噴水近くに来ていた。
この辺はあまり人気がなく、人通りが少ない。てか全くない。何故ここに来ているかと言われると・・・
「なんなの高野?私をこんな所に連れ出して・・・?」
そう。私は一人ではなかった。目の前には高野がいる。なんか知らないがかなりうれしそうだ。
「え?これからいいところに連れて行ってもらうんだよ。」
「いいところ?てか誰に?」
「いいからいいから。そろそろ時間だし・・・」
そこまで言ったと同時に足元に変な模様が浮かび上がる。それは円で中には六星が描かれて回っている。彼はこの中に入れといってきた。彼も中に入る。
「これは・・・?」
「『六星』って言うんだけどね。転送系の魔法だよ。」
「魔法って・・・非現実的な・・・。」
「クリスタルの適合者が言うことじゃないよね?」
たしかに。私は草思った。
それと同時に六星が上に上がってきて私たちを包み込んだ。人通りが少ないためにその光景を見る人など存在しない。
その光は次第に明るさを増していき、やがて私たちと共に消えた。後に残ったのはその光景を見ていた鳥たちだけだった。
私はあまりのまぶしさに目をつぶってしまった。光の強さが弱くなってきて、私は目を少しずつ開けていく。
先ほどの光のせいで少しぼやけて見えにくいが、しだいと目が慣れて見やすくなってくる。そこはどこかの廊下のようだった。
青っぽい壁が横一列に続いている。自分たちはその壁のくぼみに位置している所にいた。転送機だと思われる。
とにかく私は周りを見回して確認する。左右の道の先にはドアがある。その距離30メートル。ちょうど中央に位置しているのがこの転送機の様だ。天井にはいくつか電灯のような物がついている。かなり明るかった。
隣にいた高野が歩き出す。途中でこちらを向いて「ついて来て」と言っている。私は右に曲がって高野の方に行った。
少し歩くとドアが目の前の所まで近づいた。そこで高野は二回ノックをして
「適合者No.2の高野宗次です。失礼します。」
といってガチャリとドアを開けた。
ドアの先は部屋だった。テレビがあり高そうなソファがあり、そして壁にはいろんな絵が飾られている。
その部屋の中央にあるソファに一人の女の人が座っていた。
髪は少し長めで青い綺麗な髪をしていた。服は私服というよりむしろ軍服に近い。彼女はこちらに気づくと手を振った。
「お~い宗次~そこに座って良いよ~\(´∀`)/」
うっと私は思った。先ほどは顔を少し下げていたからよくは分からなかったが綺麗な瞳をしている。綺麗な水色だった。だが、うっと思ったのはそんな所ではなかった。
彼女は手を振っていた。顔が物凄くとけていた。ちょうど学校での今日の私のように。
彼はやれやれといった感じでため息を一つつくとその女の人に声をかける。
「母さん。お客さんが来てるんだからしっかりしてよね。」
え!?母さん・・・?確かに高野はそう言った。この物凄くぼけっとしたとろけてる人が・・・?(あんまり人のこと言えない)
その母さんといわれた人は少し真剣な顔つきになって私を見た。少しすると顔の形が変わっていき・・・また元のとろけた顔へと変化してしまう。それを見た高野はその女の人に近づいていった。
「母さん!!しっかりしてよ!!」
「ははは・・・宗次にもやっと恋――」
女の人はその続きが言えなかった。宗次が思いっきり足を振り上げて振り下ろしたのだ。物凄い音が部屋に響き渡った。
ダガン!!
その音と共に彼女の表情が凍る。
「母さん・・・お客さんに物凄く失礼じゃないかな・・・?」
「あ・・・いや・・・それは・・・」
「失礼じゃないかな!!?」
「・・・ごめんなさい。」
結局折れたのは女の人のほうだった。怒ったときの高野はすごい声を出すんだと私は怒らせないようにしないとと思った。
高野は満面の笑みでこちらを向いてきて「お恥ずかしい所を見させてしまい申し訳ありませんでした。」といった。だが、その裏に物凄い怒り等があることに私は気がついている。とりあえず冷や汗をかきながらハァ・・・と相槌を打つ。
「山城さんはそこに座っていいよ。」
彼がソファの一つに指を刺した。私はそれを見て場所を覚えてそこに座る。高野もほかのソファに座った。
私の席は女の人と真正面に向かい合う場所だった。高野の席はその状態がちょうど見える中央の右の所だ。高野は二人の話の成り行きを見守るような役目なのだと私は思った。
女の人は不意に真剣な顔つきとなる。それは急激な変化だった。急激過ぎて私は若干引いてしまった。(素で)
「では・・・いろいろと話をさせてもらおうかしら・・・?」
彼女は手を組んでテーブルにひじを両方ともつける。その手の上に額を乗せた。その状態では子たらから彼女の目を見ることはできない。かなり真剣な態度の予感だった。




