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鏡花水月  作者: 安達夷三郎
第四章、闇に佇む者
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14話

重治が取ってくれた宿に集まり、私達は平八の足跡を追うことになった。しかし、なんのヒントもない彼を追うのは、逃げ出した猫を捜索するのとは訳が違う(実際にミカちゃんと一緒に猫探しをしたことがあるから知っている)。猫が姿を消したら、近場の餌場に張り込めば良いが、平八の餌場など探しようがない。

「……で、どーすんのさ。あいつの行動パターンなんて、現役時代からあってないようなもんでしょ」

桃李がベッドの上に寝転がり、気だるげに天井を見上げながら呟く。

私達は知恵を絞り、三つの仮説を立てることにした。

一つは宇宙のどこの星に行ったか、地球に留まっているか、この母星にいるか。

もし前者の場合、私達にはどうしようもできない。もし平八が魔都での一件の後、すでに地球を離れて他の星へ飛んでいる場合。

平八の隠密技術と現在の資金力があれば、どこかの辺境の星に身を隠すことなど容易。しかし、この仮説は真っ先に排除することにした。なぜなら、つい先日私や二人のスマホに届いたあの極めて解像度の高いメッセージ。私達の地球での日常を正確に把握していなければ送れない文面の存在があるから。平八は確実に、私達のすぐ近くにいる。

もう一つは、地球に留まること。

地球の文明はまだ宇宙旅行が一般化されておらず、ロケットを飛ばすのにも一苦労している段階だ。そのため、宇宙船の頻繁な出入りはそれだけで目立つリスクがある。

にもかかわらず、平八は国際指名手配どころか、一般的な捜索網にすら引っかかっていない。

わざわざ関係ない地球に留まる必要もない。

こうして消去法で考えていくと、三つ目の『母星に留まっている』という可能性が濃厚になってきた。

「灯台下暗し、か……」

重治が腕を組み、静かに呟く。総督府や軍の監視の目が最も厳しいはずのこの母星で、あえて泳ぎ続けているというのか。

「確かに地球に戻るよりは、こっちの土地勘をフルに使って潜伏する方が合理的だよね」

私が地図を見つめながら言うと、桃李がベッドの上で寝返りを打ち、ふっと目を細めた。

「でもさ、それだと俺達の日常を覗き見してたあのメッセージの説明がつかなくない?あいつ、どうやって地球にいる俺達の情報を手に入れたわけ?」

その言葉に、部屋の中に冷たい沈黙が落ちる。

母星に身を潜めながらにして、地球にいる私たちの動きを完璧に把握する手段。通信の傍受か、あるいは現地に協力者がいるのか――。

「平八の性格上、あいつは一人で計画を実行するだろう」

重治が地図から目を離さずに、断定するように言った。その声には、かつて何度も修羅場を共にした戦友への確固たる理解が籠もっている。

「協力者を作るような面倒な真似はあいつの性に合わん。情報漏洩のリスクを極端に嫌う男だ。誰かを巻き込むくらいなら、端末をハッキングして直接こちらの動向を通信傍受していると考える方が自然だな」

「あー、やっぱりそっちかぁ……。ったく、どんだけ上乗せするつもりなの?怖ぇよ」

桃李が呆れたように天井を仰ぎ、ベッドの上でゴロンと寝返りを打つ。

「しかし、変だな」

「何が?」

重治は腕を組んだまま、視線を地図の上の特定のポイントに固定していた。

「平八がそれほどの電子戦能力を駆使して、こちらの端末を完全にハッキングしているのだとしたら、なぜわざわざ自分からメッセージなど送ってきた?」

その言葉に、私と桃李は顔を見合わせた。

「あいつが本当に隠密に徹して、俺達の裏をかいて何かを成し遂げたいだけなら、自分の存在をわざわざアピールする必要なんて一切ないはずだ」

「確かに……」

「試験おつかれ、なんてわざわざ送ってくるのは、少し不自然っていうか、おせっかいが過ぎるよね。本当に姿を隠したいテロリストのやることじゃないと思うし……」

私はう〜んと考え込んだ。

「そもそも、そこまでして俺達に執着する理由はなんだ?」

重治は腕を組み、静かに思考を巡らせる。

「復讐だの国をひっくり返すだの、大層な目的があるなら、俺達みたいな『刀を捨てた奴ら』なんて放っておけばいいはずだろ。現に、他の生き残った仲間には一切接触してないわけだしな」

「なんだろ......何か理由があるのかな?」

私が顎に手を当てて言うと、桃李がベッドの上で身をよじりながら、思いつく限りの理由を口にした。

「あれじゃない?寂しいんだよ。大層な計画を進めてる最中だけど、元チームメイトに『俺、今こんなすごいことやってるんだぜ』って自慢したいとか」

「平八がそんな子供じみた承認欲求で動くと思うか?桃李じゃあるまいし」

重治が即座に冷ややかな視線を送ると、桃李は「俺の扱い!」とツッコんだ。

「だが、平八が俺達を『特別視』していることだけは間違いないだろう。復讐の障害として警戒しているのか、それとも別の意図があるのか……」

「……いや、むしろ逆じゃないかな」

私の呟きに、重治と桃李の視線が同時にこちらを向いた。

「逆?」

桃李がベッドから上体を起こし、怪訝そうに眉をひそめる。

「平八は、もしかして……私達も引き入れようとしてる?」

私の口から出たその言葉に、部屋の空気が一瞬で張り詰めた。

「引き入れる……?俺達をか?」

桃李が目を見張り、重治もまた、その鋭い視線を私へと向けた。

「うん。だって、もし平八が本気で国を相手に大騒ぎを起こすつもりなら、一人よりも昔の仲間がいた方がいいに決まっている。どんなに無茶な戦局でも、私達四人が揃えばひっくり返せないものはなかったから……花火っていうのがよく分かんないけど」

私は自分の考えを言葉にしながら、あの日の平八の必死な目を思い出していた。

「だから、他の生き残った仲間達を危険に晒したくないっていうのは本当だと思うけど……」

「そうなると、本当に何しでかすか分かったもんじゃないな」

「そういや、みんな勧誘されたって言ってたもんなー。もちろん、断ったけど」

桃李がしみじみと呟き、首の後ろで両手を組んで再びベッドに深く沈み込んだ。

私達が泣き喚いて、どれだけ拒絶しようとも、平八なら外堀から埋めて戦わざるを得ない状況を作る気かもしれない。

もしかしたら、ミカちゃん達にまで被害が出るかもしれない。

もし本気で私達を戦場に引き戻すつもりなら、地球での『守るべき日常』を脅かすのが一番手っ取り早いだろう。平八がそこまで冷酷になりきれているかは分からないけど、最悪の事態を想定しておく必要はある。

……ねぇ平八。私達はどこで道を間違えたんだろうね?

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