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獣は慙愧に吠える  作者: 蛇丸


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9/11

9. 力

 風は冷たく、冬の様相を見せていた。今回の派遣の目的は二つ。表向きの理由として最近増えている魔物による被害の対策、もう一つ、団外部と協力者以外には秘匿されていた理由として元英雄アレックスの息子の確保。最初私はこの二つ目の理由に納得は出来ていなかった。如何なる英雄とは言えど数十年前線から離れていたわけだ。その腕はさび付くものだ。まして、その子供にその才能が受け継がれるとは限らない。魔物は恐ろしいものだ。それを上回る龍はもっと。しかし、その恐れは実感のない恐れであった。未だ私は龍討伐に参加したことはない。経験と実力の二つがあって選抜される。私には経験が足りていなかったという。最下層の個体でそれだけ慎重を期して行われる討伐、彼の元英雄殿がなしたのは単身で最上位の個体の討伐。神すらも殺しうる伝説殺し・・・らしい。残念ながら、想像もできない。すごいというのは分かってもそれ以上の納得ができなかった。

「ピエトロ殿、彼を連れてくるのにあなたが直接出てくる必要があるのでしょうか」

「なんだ。突然。・・・アレックス殿は約束をたがえるような方ではないが、万一ということもある。誠心誠意相対して、納得していただくしかない。そうなれば一番顔なじみかつ上のものが出張るのが良いだろう」

そう言いながらパンに手を付ける。

「その点では彼ら自身にその気があった上で、もしかしたら程度の要望まで通ってしまった。こんな有難いことはあるまい」

「アレックス殿の噂は聞いております。それでも二十年近く前線を離れた身。私にはとても・・・。いかに体格が良くともその技術は落ちていましょう」

マメのスープとパンこれがこの村に来てからの基本的な食事であった。それでも目の前の男性、現騎士団総長はそれを美味しそうに頬張る。

「そうだろう。されど、その程度大した差にはならないのだよ。全盛期の彼を見たのならわかる。あれは無理だ。着いていけぬ。だから、今がちょうどいいのだ。長年の戦いから離れ年老いた今、我々が彼に教えを請える状態だ。疑問に思うのであれば、明日から彼のもとで少年たちとともに腕を磨くと良い」

食事を終え、早々と就寝準備を始める我らの英雄の言葉を持っても未だ実感はわかない。明日、少年たちとともに・・・。目の前の英雄ですら委縮する伝説とはいかほどのものなのであろう。


「というわけですので、本日より私も共にさせていただきます」

「はぁ、構いませんが。未だ私も十全の身ではなく、貴女に何かをお教えできるかはわかりませんが」

以前と変わらず、その体躯に見合わず低姿勢で迎えられた。

「よろしくお願いいたします」

一時とは同じ相手に教えを乞う同門のようなものである少年たちにも挨拶を行う。身長は高く艶のある黒髪、碧眼の少年、英雄の子であるアレッシオ。栗色の乱れ髪と以前の儀式の影響で顔に痣を残す少年、ダニロ。二人ともこの村にいる間、よくともにいるところを見かけた。周囲から孤立しているわけではなかったが、大抵の時間はともに行動しているようだ。アレッシオがダニロを条件に従うと話してきたことも考えるに正に兄弟、家族のように育ってきたのだろう。

「はい、よろしくお願いします」

「よろしく、お願いします」

「ここにいる限りはそこまでかしこまらずとも問題ありません。私も同じような出自ですから」

二人を見ていると年近い弟を思い出す。私はあまり裕福とは言えない雇われの漁師の娘だった。農村と漁村。ものは違うが今いる都市部との差異から懐かしさを覚える。


筋力で負けるのは想像できていた。体格差、性別の差からそれは明白であったからだ。しかし、それは獣騎士にとってはどうにでも差と考えていた。技術ももしかして負ける可能性はあるかもしれない昨日の話から考えなかったわけではない。少し手合わせしてわかる。すべてで負けていた。わずかな差ではなかった。圧倒的に。一手目、筋力などからただ受けずに流し、突きへの連携を考えた。まず流しきれなかった。木剣で受けた瞬間、他の感覚が失せる。すぐさま切り替え、次の件へと対応しようとし、胸倉をつかまれた。そのまま、片手で引きずり倒される。

「マルティナさん、貴女はどちらから祝福をいただきましたか」

「・・・海と風の神です」

「なるほど。ならば、肉体への恩恵はあまり大きくないでしょう。分かりました」

そういうとそのまま起こされる。

「私相手に制限をする必要はありません。すべてで持ってきください。でなければ意味はありませんから」


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