第12話 思い出のオーク丼
「おめでとうございます。これでヨウコ様とハクア様の冒険者ランクはDに上がりました」
笑顔でカードを渡され「ありがとう」と答える。
刻まれた「D」というランクを見てすぐにしまう。
「……冒険者ギルド最速記録を達成したのに、こう……、「わ~」っと喜ばないんですね」
「まぁあれだけやったからな」
「……非常識なスピードだったことは自覚しておりますので」
タルドとの試食会を続けながらも私達は新オーク丼を開発するべく与えられた力を存分に使い依頼をこなしていった。
開発にはお金が必要なのだ。
今の所大丈夫だがハクアが受け取ったお金もそのうち底を尽きるだろ。
それを見越しての依頼の大量受注。
結果として冒険者ギルド最速でのDランク到達を達成したのだが、達成感はない。
何せ私達が目的としているのは新オーク丼の開発なのだから。
冒険者ギルドのランクアップはその通過点でしかない。
「冒険者ランクを気にさせないほどのオーク丼ですか。気になりますね」
「そうか? 」
「ええ。オーク丼は量だけというイメージがあるので。こう……パサパサしてて美味しくないというか」
「試食用のオーク丼。昼にでも食べてみるか? 」
「良いんですか? 」
「あぁ。ドワーフ族向けにはできたんだが……。幾つか作ったうち人族向けにはどれが良いのか考えていた所だしな」
「オーク丼? 」
受付嬢と話しているとレナの声がギルドの入り口からした。
振り向くとそこには見慣れた赤い髪のレナが。隣には金髪ロングのノナと黒髪ショートのブリッツがいる。
会話の内容を聡く聞いたのだろう。
レナが好奇の目をしてこちらに近付いて来る。
「オーク丼といえば高いわりにあまり美味くない料理だったはずだが……」
「ヨウコさんが作ったとなると違うかもしれませんね」
「……うちの食いしん坊達がすまな……ごふぉ! 」
ブリッツが余計なことを言って拳に沈んだ。
少し顔を引き攣らせながらも彼女達と昼を一緒にすることを約束し一度解散した。
★
時間が経つのは早いもので昼の冒険者ギルド。
早朝の喧騒もなく、完全に職員達の時間。
そんな時私とハクア、そしてレナ達は職員達が食事をとる部屋に集まっている。
「これが……」
「漂う匂いがすでに……じゅるり」
「気持ちは分かるが涎を拭け」
それぞれに渡すと全員涎を垂らしながら目を輝かせている。
私とハクアもオーク丼が入った器を手に持っている。
彼らは私達が食べるのを待っているのだろう。
ギランギランさせた瞳をこちらに向けて「早く食べよう」と訴えてきていた。
「では。いただきます」
「いただきます」
「「「恵みに感謝を」」」
我先にとレナ達がスプーンでコメをすくい、口に入れる。
ずるっと鼻をすする音がした後次々と掻き込んでいる。
そんなに慌てて食べなくても、と思いながらも顔が綻ぶ。
「肉汁が溢れる! 」
「ほくほくでやわらかいです! 」
「これ本当にオーク丼か? 」
「……うまぁ」
気に入ってもらえたようで何よりだ。
それぞれが食べる中、私も丼を口に入れる。
するとコメに浸透した肉汁が口の中を乱舞した。
「うん。私にはこっちが合う」
「私もですね」
「こっちが? 」
零れた言葉にノナが反応した。
まだドルドに本命を出していないので言っても良いのか悩むな。
言わないべきか、ともう一口オーク丼を食べながら考えているとハクアが声を上げる。
「今晩食堂でドルド建築主催の食事会が開かれます。その時にご一緒すれば、わかりますよ」
それを聞き四人は顔を合わせる。
そう。
このオーク丼は人族である彼女達の口に合った。
けれどドルド用に作ったオーク丼は私とハクアには少し合わなかった。
だけどそれが不味い訳でもなくタルドの口には合ったわけで。
「時間があれば行ってみよう」
「お前絶対に行くつもりだろ」
「ふふ。食いしん坊さんですからね」
「私も行きたいですーーー! 」
そんなやりとりをしていると昼が終わる。
一同解散した後、私はドルド建築の食事会が開かれる会場へ向かった。
★
「うっし。今回も無事仕事を終えることができた。これもお前達のおかげだ」
親方ドワーフ・ドルドが二段・三段高い所へ立ってジョッキ片手に全員を見渡している。
ここはドルド建設近くにある大衆食堂。
お祝いということで今日は貸し切って食事会を開いている。
かく言う私も椅子に座りジョッキを手にして座っている。
少し長い演説を聞きながらチラリと隣をみると、今日は前にボタンがある黒いブラウスを着たハクアがいる。
さらに遠くを見るとしれっとレナ達が座っている。
良く入れたなと思うが、聞くと彼女達も依頼を受けていたみたいで一応関係者らしい。
ドルドの話も終盤に入る。
目線を戻して前を向く。
「――といういことで今日は無礼講だ! 乾杯!!! 」
「「「乾杯!!! 」」」
次々と仲間と共にジョッキを克ち合わる。
エールが少し零れ慌てて小人達がせっせと飲む。
食事じゃないのかよと思いながらも、運ばれてくる食事を見た。
「ガハハハハ! でよ」
「おうこっちの肉も追加だ! 」
「おいねぇちゃん! こっちはエールを追加だ」
「今日は親方の奢り。飲まない手はねぇ! 」
「おうおう食え食え野郎共!!! 」
ガハハハハ、と上機嫌な親方の声が聞こえてくる。
本当に楽しそうだ。
さて。私も出すとしようか。
店員さんに目線で合図を送る。
頷いたのを確認すると席を立つ。
どうした? と聞いてくるドワーフ達を置いてキッチンの方へ、それを取りに行く。
「おうどうした。ってそりゃぁ……」
「オーク丼だ! 」
ドルドの所へ持っていくと驚いている。
それもそうだろう。
漂う甘い匂いもそうだが特に色。
「赤いが、こりゃぁ一体。いやまさか……ワイン、か? 」
「ワインを取り寄せるのに苦労したよ」
苦笑いを浮かべながらそっと置く。
困惑しているドルドから目を放すといつの間にか全員こちらを向いて場が静かになっていた。
ワインの匂いにでもつられたのだろうか。
まぁ赤ワインでコメを炊くなんて思わないだろうからな。
「さ。食ってくれ」
「だが……。いや良いのか? 」
「食わせるために作ったんだ。それとも私が開発した新・オーク丼。いらないのか? 」
と周りに目を移す。
ドルドもつられて目を移したのか、得物を狙うかのような目線で彼を見ている従業員達に少し怯んでいる。
すかさず「俺が食う! 」と言いオーク丼を庇うように腕で隠す。
そしてスプーンをさして、すくいあげ、ゆっくりと口に運んだ。
「! 」
食べた瞬間目を開く。
体は震え目線を落とした。
「こ、この芳醇な味! このふっくらとした食感! まさか」
「そのまさかだ。だが流石にイルネスと全く一緒とはいかないが、どうだ? 」
「あぁ……。うめぇ。本当に、うめぇ」
ポロポロと涙を流しながら赤いコメを口に入れる。
コメが少なくなると、肉へと移る。
「この……、この味だ。この味だ」
スプーンを器用に使い肉を口に運ぶ。
溢れた肉汁が宙を舞う。
おお、っと周りから声が漏れるも気にせず「ガッ! 」と肉を噛む。
再度コメを掻き込んで味を自分の比率に合わしていた。
「おいヨウコ。俺達にはないのか?! 」
「親方が食べているだけで腹が減ってきちまった」
「あるから待ってろ」
そう言いこの食堂の店長に目線をやる。
するとどんどんとオーク丼が運ばれてきて口にする。
感動が広がる中、ドルドはおかわりを頼んでいた。
親方はイルネスで刀鍛冶になれなかった。
ドワーフ族としてそれがどれだけショックなことだったのかは想像つかない。
けれど彼がイルネスに行ったことには意味があったんじゃないだろうか。
彼の笑顔を見て、そう思った。
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