第13話 動き始めるヨウコ
翌日の朝、食事会でお世話になった大衆食堂へ行き店主にレシピを渡した。
コメの在庫はエヴァンス商会に多くあったから有効活用してほしい。
「本当にレシピをもらって良いのかい? 」
「構わない。あ、エヴァンスホテルにも教えようと思うんだけど大丈夫か? 」
「もちろんさ。それこそ私達が口出しできることじゃないね」
恰幅の良い女性が腰に手をやり少し呆れた口調で言う。
呆れられて当然だとは思うがこちらとしても目的合っての事。
神様君の依頼をこなすにはこうした一般の底上げも必要だと思う。
しかし焦るものでもない。
ゆっくりといこう。
「はぁ。とんだお人好しだね」
「そうか? 」
「このレシピ一つでどれだけ金を稼げるか。こりゃぁ独占してたら恨まれるね。皆集めて公開しようと思うけど、構わないかい? 」
大衆食堂の女店主モリアナの言葉に大きく頷く。
すると更に大きく溜息をついて「助かるよ」と言ってくれた。
呆れられているが表情はにこやか。
新しく出来たメニューに心躍らせているのかもしれない。
「今度食べに来な。当分はタダにしておくからさ」
「それは嬉しいな。高いものを注文し放題だ」
「はは。それだけじゃ足りないかもね」
笑いつつも瞳は真面目。
本当に注文するぞ?
「良いが……本当に売れるかわからないぞ? 」
「売れるさ」
「何で言い切れるんだ? 」
「何せあのドワーフ達が酒を忘れて食べる程の食事だ。売れるに決まってる」
「売れなかっても責任はとれないぞ? 」
「心配いらないよ。売れ行きが悪かったら「ドワーフも酒を忘れるオーク丼!!! 」って触れ込むから、さ」
過大広告でないので、ツッコめない。
確かにそうだなと思いつつ、今日の所は他に行く所があるので、モリアナに手を振り食堂を後にした。
大衆食堂を出てエヴァンス商会の商会館へ。
いつもと同じように銀色に光るカードを出してトトさんに面会を申し込む。
流れるように職員が移動したかと思うと、超笑顔のトトさんが走って来て軽く頭を下げた。
「ヨウコ殿。今回はありがとうございました」
何事かと思っていると頭を上げて事情を説明してくれる。
「ヨウコ殿がコメの新たな可能性を開拓してくれたおかげでドワーフ達や冒険者ギルドからコメの注文が殺到しておりまして。現在山積みだったコメ樽が砂の様に消えているのです」
「食堂にコメの炊き方とか教えたからもっと注文が来るかもな」
「なんと! 」
トトさんが瞳を大きく開けて驚く。
この国、というよりもこの町でコメが普及しなかった主な原因はその味や食感である。
それを私は味の付け方、風味の付け方、コメの炊き方等を工夫することで今の味に辿り着けた。
あまりコメ料理が美味しくないはずである。
何せご飯の炊き方すらも、こちらにまで伝わっていなかったのだから。
今回食堂に渡したレシピは人族のものとドワーフ達のもの。
流石に出会ったことのない種族の食事までは作れない。
あとは思考錯誤してもらおう。
「むむ。これは更に入荷を考えねば」
「コメを手に入れるのは大変なんじゃ? 」
「確かに大変ですがそれを上回る利益が見込めそうですね」
大袈裟な、と苦笑するもトトさんは至って真面目。
早くも損得勘定を始めたようだ。
私としてはこの町、この国にコメが広がるのは嬉しい。
普通にコメを食べることができるようになるのなら、他にも試してみたい料理があるし。
「ではわたし達は行きましょうか」
ハクアの言葉に頷きトトさんを見る。
彼を現実に戻してコメ樽を三つほど確保しておく。
そして私達は倉庫から出た。
「今回の事で異能の使い方が大体わかってきた」
今日、冒険者業はお休みだ。
こちらを見上げるハクアの頭を軽くモフりながら話を続ける。
「効果はハクアに説明してもらった通りだったが、それ以上に応用が効いた」
交換はともかくとして、「料理」と「模倣」。
料理は自身の料理の腕前を上げるだけではなくレシピを得ることができた。
そして自分で作った料理のレシピも、まるで完全記憶能力の様に頭に保存される。
重要なのは食べた時に得ることができるレシピ。
良く言えばこれは一般の最適解、悪く言えば普通のレシピということ。
料理で得られた一般レシピを「模倣」を用いて再現することができた。
けど再現できるのは寸分のたがいの無い普遍的な味。
確かに美味しいのだけれど個性を出すにはここから足し引きが必要としみじみ感じた。
今の所、口にしなくても発動することができる模倣の使いどころは、特定の個人の味を再現したい時くらいだろうか。
異能「料理」で得られた一般レシピを「模倣」で再現し、そこから様々なアレンジを行う。
これを実践することができたのは、今回の大きな収穫だ。
――食べて、知って、料理する。
これが一先ずの流れになりそうだ。
「これからどこへ向かうのですか? 」
歩きながらモフっているとハクアが赤い瞳で見上げて聞いてくる。
そう言えば言ってなかったな。
「ここに来て忙しかったからな。二人で町を見て周ろう」
「良いですね! 」
私がそう言うとハクアがぎゅっと腕に抱き着いて来る。
見下ろすとハクアがニコニコ顔で先を急かす。
まず、どこを周ろうか。
★
日本にあるマンションの一室にて。
中性的な顔立ちをした人がカカカと箸を使ってどんぶりを搔き込んでいた。
「やっと見つけましたル・エキナ様!!! 今日こそはお仕事を……って何を食べているんですか? 」
誰もいないはずの空間にスーツ姿の女性が突然現れる。
彼女が驚いたように聞くとル・エキナはどんぶりを置いてグビっとお茶を飲み女性の方へ顔を向ける。
「ボクが管轄している世界で作られた料理の一つさ」
「ル・エキナ様の世界で作られた料理? 」
スーツ姿の女性は大きく首を傾げて疑問に思う。
これは仕方ない。
なにしろ千年以上にわたって文化の発展が無かった世界なのだから。
「そ。ちょっと前にね。転生させた娘が早速働いてくれたみたいでね。白亜がこっちにお裾分けしてくれたんだ。これが美味しくて美味しくて……」
「白亜を向かわせたのですか?! 」
「いいじゃん。彼女の希望なんだから」
スーツ姿の女性は「白亜」と聞いて額に手をやり天を仰ぐ。
「となると転生させたのは神守一族の誰か、ですか」
「ご名答」
「あぁ~。お腹痛い」
「胃薬飲む? 」
「加減を知ってください! この駄神!!! 」
「……いっつも思うけど皆ボクに対して酷くない? 」
不満を口にするも瓶に詰められたタブレットを彼女に差し出すル・エキナ。
それをガバっと飲んでギロっと睨む。
「……転生させてしまったことはどうしようもありません。一先ず仕事をしてください」
「え? 」
「さぁ行きますよ! 」
「い~や~だ~!!! 」
スーツ姿の女性は必死に逃げようとするル・エキナの襟を掴み何か唱える。
するとそこには誰もいなかったかのような空虚な部屋が残された。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




