46 VS機械のダンジョン
ちょんぼると藤木を除いて、誰一人として準備が出来ていなかった。
ちょんぼるは動画のインパクトのため、ウケ狙いのために今回の詳細を参加者に教えず、藤木にも口止めをしていた。
前回の探索に同行してボスを発見した藤木もちょんぼるがそう言うのなら、と口をつぐんだ。
結果、ちょんぼると一緒に集まった百名の参加者のうち、ほぼ全てがちょんぼるの行動に虚をつかれ、まともな反応をできなかった。
それ以外の二百名はもっと酷い。通路を移動していた者、敵モンスターと戦闘中だった者、休憩中だった者、そろそろ切り上げて帰ろうとしていた者。
戦闘の心構え何か出来ていない状態で突然ダンジョンが変形し、壁や床の動きに巻き込まれて強制的にコロシアムに連れてこられたのだ。
彼らは状況を把握できないままに隠しボスと対面し――そして、無防備に攻撃に晒された。
右手に握られた鋼の大剣が探索者たちの頭上から振り下ろされる。
鋼の巨人と探索者たちの身長差の関係で斜めに振りぬかれた大剣は、軌道上に存在していた十数名の探索者たちを軽々と吹き飛ばし、コロシアムの壁に叩きつけた。
運悪く大剣の進路上に居てしまった探索者たちは訳が分からないままにHPを全損し、直後にコロシアムから強制排出されてしまった。
次いで左手の無数のレーザーライトをより合わせた銃が輝きだす。
標準が甘く広範囲にばらけるように撃たれた光線が探索者の頭上から雨のように降り注ぐ。
防御力もHPも低い後衛職はこれだけで深手を負い、前衛職でも盾などを構える暇がなかったことからHPががっつりと削られる。
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!??????」
「リーダー!? ってきゃああああああああああ!!!!!」
「ロボットだあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
そして始まる阿鼻叫喚の地獄絵図。
状況を理解しないまま仲間が吹き飛び、隊列もまともに組めておらず、目の前には人を遥かに超える大きさの鋼の巨人。
混乱に包まれた彼らに対し、ボスモンスターが手を緩めるはずもなかった。
■
“鋼の守護神”。
日本のダンジョンで初めて公式に発見された【ギミック型レイドボス】。
普段は【機械のダンジョン】の壁や床、天井に偽装しており、一定条件を満たした場合に変形・合体して姿を現す。登場時にダンジョン内の出現位置から周辺一帯を巻き込んで特殊な戦闘空間を形成し、ボスを倒すか探索者が全滅するまで脱出も不可能となる。
■
「な、なんだよあれ……!」
俺は物陰に隠れながら鋼の巨人の様子を伺っていた。
ダンジョンを出ようと通路を歩いていたところにいきなり真っ赤なランプが点灯し、サイレンが鳴り響いた。
そしてガギンガギンと響かせながらダンジョンが変形していき、気がついたらこの場所に閉じ込められていた。
最初の攻撃に巻き込まれなかったのは運が良かっただけだ。たまたま立ち位置が攻撃の範囲から逃れていた。
その後はこの場所――決闘場に無造作に設置された鋼鉄の柱の陰に隠れていた。
――ズシン……ズシン……
鋼の巨人がコロシアムの中を歩き回り、探索者たちが必死に逃げ惑う。
最初の数分でかなりやられてしまったが、今は小康状態といったところだろうか。
「みんな~! 物陰に隠れながら攻撃だ~! 敵は意外と足が遅いぞ~!」
あのDチューバーが取り巻きたちを引き連れて抵抗している。柱の陰に隠れながら魔法や遠距離攻撃スキル、武器などでチマチマ削っていた。
「あれで勝てるのか?」
「わかりません。でも攻撃しなければやられるだけです」
「それはそうなんだけど……ん?」
召喚した紅雪たちと一緒に柱の影から戦闘を見ていると、突然鋼の巨人が立ち止まった。
Dチューバーたちが隠れている柱の手前の柱に左手を向けて……柱の中に左手を埋めた?
「一体何をして――なんだあれ!?」
――わあああああああああ!?
――ぎゃああああああああ!?
Dチューバーたちが隠れていた柱の側面から大量のレーザーライトが生えて攻撃している!?
「安全地帯がないのかよ!? ――紅雪、赤華!!」
「はい!」
「わかってる!」
驚いている俺たちの目の前で、身を隠していた柱から何本ものレーザーライトが生えてきた。
Dチューバーたちの攻撃とタイムラグがあったので何とか反応でき、紅雪と赤華がすぐにレーザーライトを切り飛ばす。
破壊されたレーザーライトはそのまま光となって消え去り、その場にコロンと魔石と素材が転がった。その光景を見て、俺の脳裏にある仮説が閃いた。
「まさか……そういうことなのか…‥!?」
「どうしたの、ご主人さま?」
「このレーザーカメラ、通路にあった奴と同じなんだ! あの巨人が右手に持っている大剣も、通路の手が持っていた武器をより合わせたもの! 俺たちは今まで勘違いしていたんだ!」
「勘違いってどういうことですか?」
「このカメラも武器を持っていた腕も、【モンスターじゃない】んだよ! これはボスが使う【武器】だったんだ! だからモンスターカードを落とさなかったんじゃないか!?」
ドロップのほとんどが魔石と素材、稀にスキルカードや装備カードを少し。絶対にモンスターカードを落とさない絡繰りは【モンスター】じゃないから【モンスターカード】が最初から存在しない。恐らくそういうことだったんだろう。
「モンスターではない……なるほど、つまり、あの本体を倒さない限り【モンスターカード】をドロップしないというわけですね」
「それでご主人さま、どうやってあの巨人を倒すの? 何かいい方法が浮かんだの?」
紅雪が納得した顔で頷き、赤華が目を輝かせて尋ねる。
「そんな方法は――ない!!!」
ただ単にこうじゃないか?と思いついただけで、今の状況を解決するための素晴らしい攻略方法なんて一切思いついていない!
「マスター……」
「そんな顔をするな。いい方法は思いつかなかったというだけだ。あのレーザーライトがボスが使う武器っていうなら武器を壊していけば攻撃手段がなくなるかもしれない」
安全な物陰から逃げ出したDチューバーたちを再び鋼の巨人が追いかけ回しているのが見える。
レーザーライトを柱から生やす前にあの巨人は左手を柱に突っ込んでいた。柱からレーザーライトが生えてきたレーザーライトは巨人の左手のレーザーライトと同一の物なのだろう。
「どこかから補充されるなら最悪だけど、そうじゃないなら数には限りがある。チマチマ壊していってあいつを丸裸にしてやるんだ」
右手と左手の武器さえ取り上げてしまえば勝機がある。物陰に隠れながら俺の持っているレーザーガンで死ぬまで撃ちまくってやる。
先ほどドロップした魔石をレーザーガンに装填しながら俺は走り出した。
Dチューバーたちが囮になっている間にまだ生き残っている他の探索者たちに今の情報を共有するのだ。




