47 ラストアタック
マサルたちが生き残っている探索者たちに声をかけて回っていた頃、Dチューバーたちもまた新しい動きを見せていた。
「な、なんなんだよあの攻撃は!? あんなの反則だろ!? どうやって防げって言うんだ!」
「お、落ち着いてください、ちょんぼるさん。あの攻撃は準備が必要のようです。次からは対応可能です」
「本当かい!? さすが藤木くん、頼りになるね!」
そのきっかけはちょんぼる――ではなく、ちょんぼるの腰巾着である藤木だ。
日本有数の★★★ランク斥候ジョブというのは伊達ではない。鋼の巨人が腕を柱と同化させて攻撃させてくることを気配から察知し、混乱するちょんぼるのフォローをしながら反撃の方法を考えていた。
「それにあの攻撃は反撃のチャンスです。柱から出てきた武器は巨人の腕についている武器と同一のものでした。あの武器を破壊すれば巨人から攻撃手段を奪い取ることが可能です」
「おお!? すごい、そんなことまでわかるんだね! よ~し、やる気が出てきたぞ~! みんな~! 作戦を伝えるから聞いてくれ~!」
先ほどの奇襲とその後の逃走の混乱で三割ほど減ったDチューバー集団だったが、ちょんぼるが指揮を執ると一応のまとまりを見せた。このままだとジリ貧という状況でちょんぼるの自信満々な様子に周りの人間が流されていく。
「攻撃が来ます!」
「みんな~、防御準備~!」
「はい!」「了解!」「押忍!」
先ほどと同じように巨人の周りを着かず離れずで移動しながら、柱の陰に隠れながら攻撃を加えていると、巨人が足を止めて左腕を柱に突き入れた。
その動作を見て防御に自信のある者――タンク役の探索者が前に出て、柱に向けて盾を構える。
直後、柱から生えてきた無数のレーザーカメラが手近な位置にいた探索者に対し、光線を発射した。
――シュババババババ!!
「【シールドガード】!」「【プロテクション】!」「【仁王立ち】!」
タンク役に何本もレーザーが突き刺さるがタイミングよく発動した防御スキルによって何とか耐える。連続で来られたらあっという間にHPが全損していただろうが、相手の攻撃にはインターバルが存在する。
「今だ~! 攻撃開始~!」
「【ファイアボール】!」「【飛空斬】!」「【オーラナックル】!!」
タンクの後ろに隠れていたアタッカーが攻撃直後の無防備なカメラに向かってスキルを放ち、数十個のカメラが破壊された。
その中でも一番活躍したのは――
「【壁走り】【疾風切り】」
――★★★ランクの藤木。
他の参加者とは一線を画す動きでスルスルと柱に向かって駆け寄ると、垂直の柱を駆け上がって瞬く間に二、三十個のカメラを破壊してしまった。
クールタイムの終わったカメラが慌てて回頭して藤木に向かって光線を発射するが、光線は藤木をすり抜けてしまった。
「――残念、それは【残像】です」
いつの間にか柱から降りていた藤木がタンクの影に隠れ、それに合わせるように柱から生えていたカメラたちも巨人の腕に戻っていったのだった。
■
「今の人、動きが凄いな」
「……そうですね」
悔しそうに紅雪が頷く。
今までは明確に格上の相手というのがいなかった――赤ずきんも紅雪と同格だ――が、あの鋼の巨人や今の忍者っぽい人など、俺たちではどうやっても敵わない存在が世界にはゴロゴロいるんだろう。
「【吸血】が使えれば私もあのくらい……」
「それは今回はなしな。HPが0になった時点で俺が弾き出されてしまう」
「はい、わかっています」
「わたしの【ブラッドコート】も使えないし、本当にこのダンジョンって相性悪いのよね」
血を吸うことで自己強化できる紅雪の【吸血】、血を浴びることで同じく自己強化できる赤華の【ブラッドコート】。
HPバリアと強制退場で怪我をしない探索者たち、血の通わない機械のモンスター。最初からわかっていたことだが今回はどちらのスキルも使いどころがない。それが二人は不満らしい。
「この戦いが終わったら今度は自然の多いダンジョンにしようか」
「はい!」
「それはいいわね、いっぱい楽しめそうだわ」
「よし、じゃあその為にも絶対に全員で生きて帰るぞ! ――全員、警戒しろ! 来るぞ!」
再び巨人が足を止めた。今度は左腕ではなくて右腕を柱に突き入れた。
それに合わせて柱から距離を取った。右腕だから生えてくるのは武器腕。剣や盾などの近接武器だ。距離さえとれば――。
「――なっ!?」
そんな俺たちの油断をあざ笑うように。
俺たちの周りを囲むようにして、大量の武器腕が床に生えてきた。
三百六十度を包囲した武器腕が唸りを上げ、鈍色の凶器が俺と二人に襲い掛かる。どの方向を向いても武器武器武器、避ける隙などどこにもない。
直撃したら間違いなく大ダメージ。俺のHPが一瞬で全損してもおかしくないし、二人だって当たる場所が悪ければ――。
――そんなこと、認められるか!!
「赤華!!」
刹那の閃きに従って赤華の名前を呼び。
「任せて! 【眷属召喚<赤>】!!」
俺の信頼に応えて赤華がスキルを発動した。
スキルによって呼び出される真っ赤な眷属たち。三体の僕が俺たちと凶器の間に出現して、その体で受け止めた。
眷属たちの体に鋭利な刃が突き刺さり、鋼鉄の塊が肉を潰す。
鮮血が舞う。
「【ブラッドコート】!!」
一瞬で致命傷を負った眷属たちの血を浴びて、全力以上を出せるようになった赤華が周囲の武器腕に襲い掛かった。
■
――その後、武器腕の奇襲も何とか生き延びた他の探索者たちと協力しながら、少しずつ巨人の両手の武器を破壊していった。何度も繰り返せばさすがに慣れる。たまに運が悪い探索者が退場しつつ、遂に俺たちは全ての武器を破壊することに成功した。
「みんな~! あと少しだよ~!」
Dチューバー集団もなんだかんだで二十人くらいは生き残っている。さすがここまで生き残っていた連中だけあって動きの切れの良く判断も早かった。まあ、中心にいるDチューバーはあの忍者っぽい人が介護しているっぽいけど。
なんであんな奴にあんな凄腕がついているんだろう。羨ましい。うちは斥候職がなくてヒイヒイ言っているのに……。
まあ、それはともかく、いよいよ大詰めだ。
「二人とも、やられないように気をつけろよ!」
相手の武器を潰したので近接ジョブも本領発揮できるようになった。大勢の人間が巨人の足元に集まりガンガン攻撃を加えていく。
俺も紅雪と赤華を送り出した。赤華は眷属たちの血が乾いてしまって【ブラッドコート】のデメリットが発動してステータスが下がってしまっていたが戦えないほどでもない。二人に負けないように俺も魔石をレーザーガンに補充してひたすら撃ち続けた。
そして全員で必死に攻撃し続けた結果。ついに鋼の巨人は地に倒れ伏した。
ようやく終わった……と誰もが気を緩めた瞬間。
「気をつけて! まだ生きています!!」
誰かの警告の声と同時に鋼の巨人――外装パーツが崩れ落ちて、中から新たなモンスターが登場した。
【外部装甲ヲ除去――最終防衛機構ヲ起動シマス――!!】
ガシャンと音を立てて地面に降り立つ人型のモンスター。
身長二メートルくらいの大きさで、全身を鋼の甲冑に包んでいる。余計な装飾を排した実用一辺倒な武骨な装甲は一種の機能美を宿していた。
装甲の隙間から銀色の輝きが覗き、このモンスターも非生物――機械だということがわかった。
「は、鋼の騎士だ~~~!! なんと、巨大ロボットの中にはパイロットが存在した~~~!! 衝撃の新事実~~~!!」
恐ろしい威圧感を放つ鋼の騎士を前に、Dチューバーののんきな実況音声が響く。あいつ戦闘中ずっと撮影していたのか……。
「だが敵は大幅にパワーダウン! さあみんな~! いよいよ最後の大詰めを――」
「危ない!!」
「――えっ? う、うわああああ!!!???」
――ガギイン!!
騒いでいるDチューバーに向かって鋼の騎士が一瞬で接近して切りかかった。隣にいた忍者っぽい人が咄嗟に庇ったが、動きが段違いすぎる。
「うわっ、こっちに来た!?」
「きゃあ!」
「は、速すぎる――!」
「み、みんな、攻撃を――」
「ダメです、味方に当たります!!」
それまでの緩慢な動きとまるで違う素早い動きと、人間並みの大きさまで縮んでしまい後衛が狙えなくなったせいで完全に前線が崩壊していた。残念ながらフレンドリーファイアを避ける機能はないので、闇雲に攻撃しても味方のHPを減らすだけだ。
周囲が手をこまねいているうちに鋼の騎士が前衛たちに次々と襲い掛かっては傷を与えていく。回復スキルが飛び交うがこのままでは後衛の魔力が尽きてしまう。鋼の騎士をどうにしかして止めないといけないが、紅雪や弱体化した赤華では対処が厳しそうだ。
「二人とも、戻って来い!」
手をこまねいていた二人を呼び戻すと、小さな体を使って器用に人の波をかき分けて戻ってきた。
「マスター、何か作戦があるんですか?」
「作戦なんて呼べるようなものじゃないけどな。紅雪、まずはこれを使え」
レーザーカメラや武器腕を破壊した時にドロップした魔石を紅雪に渡す。俺のレーザーガンの燃料にも使ったので数は二十個くらいしかないが、それでもないよりマシだろう。
「そして赤華。すまないが、頼む」
「はあ、そういうことね。わかったわ」
俺が狙っていることが理解できたようで、赤華は軽い調子で頷いてくれた。
トレードマークの赤いコートのフードを下ろし、首が見えるようにする。
「どうぞ、お姉さま。痛くしないでね?」
「……ありがとう、紅雪」
二人の体が重なる。そして。
「――ッ」
「ごく……ごく……」
【吸血】。紅雪が全力を発揮するために必要な行為。
赤華が眷属の血で【ブラッドコート】を発動したように、紅雪が赤華の血を、生命力を、魔力を吸収して己の力に変えていく。
「ごく……はぁ……もう十分です。ありがとうございます、赤華」
「……あ、も、もう終わり……? 意外と大したことないわね……あっ……」
「おっと、危ない。無理しない休んでいてくれ」
赤華が倒れそうになるのを咄嗟に支えた。今回は俺の血を吸えないから赤華に変わってもらうしかなかったが、赤華の体からは限界ギリギリまで血と力を吸われていて一人で立つことも危うかった。
「カードに戻るか?」
「ううん……お姉さまの勝つところが見たいわ」
「そうか」
赤華の小さな体を抱きかかえ、紅雪を送り出す。
「任せた、紅雪」
「わたしの分もよろしくね?」
「――はい、お任せください」
一礼した後、紅雪が走り出す。
■
ずっと戦い続けて疲弊していた体が嘘のように軽い。
マスターの血とは違った味の赤華の血。
けれど嫌いではない。
私の体の中に入った血が炎のように燃え上がり、全身の隅々にまで活力を与えてくれている。
――愛するマスターの為に
――大好きなご主人さまの為に
あの子の血が教えてくれる。
私とあの子の思いが重なりあう。
大切なあの人に為に、少しでも役に立ちたいと叫んでいる。
背に翼が生えたように人垣を飛び越え、音もなく地を滑って鋼の騎士に切りかかる。
鳴り響く金属音。刃と刃が合わさる。
奇襲が防がれたけど慌てずに。
腕に走る衝撃を逃がすように体ごと回転し、騎士が放った追撃の蹴りをステップで避ける。
速さは私の方が上。けれど力と頑丈さでは相手の方が上。ウェイトも段違い。
だからこの子とは正面からぶつからない。羽のように、踊るように動き続ける。
武骨な鉄の人形はダンスの相手には物足りない。
周りを囲む有象無象たちの視線などどうでもいい。
けれども、あの人が私に望むから。
だから今この時だけは、私が主役。
マスター。
あなたに勝利を――
■
「――【隠密】【バックスタブ】【急所突き】」
騎士と少女のダンスに割り込むように、無粋な一撃が全て断ち切った。
首元に深々と突き刺さった刃を受けて鋼の騎士が動きを止めた。
【“ガーディアン”の討伐を確認しました】
鋼の騎士が光となって消え、最後のトドメの一撃を刺した男――藤木の目の前で一枚のカードに変わる。
【五分後に強制退出を行います。退出の準備してください】
「お、おおお!? 藤木くんがボスを倒した! 倒したぞ~! やった~!!」
「あ、ありがとうございます……あの、ちょんぼるさん……よければこれどうぞ」
カメラを回しながらはしゃぐちょんぼるに、藤木が手に持っていたカードを渡した。
「え、いいの!? ってこれ【モンスターカード】じゃん!!」
「そ、そうですね」
「こ、これ、本当に僕が貰っちゃっていいの? めっちゃレアものだよ?」
「は、はい……いつも配信を楽しませてもらっているお礼です……」
「そっか~。いや~、ラストアタック取ったの藤木くんなのに悪いね~! じゃあ遠慮なく僕が貰っちゃおうかな~!」
ちょんぼるが貰ったばかりのカードを掲げ、助手のカメラに向かってポーズをする。
「というわけで、機械のダンジョンから初ドロップの【モンスターカード】、ちょんぼるがゲットしました~! ボスの撃破と合わせて今回の探索は大・大・大成功でした~!! イエ~イ!!」
歴史的快挙を成し遂げたちょんぼる。
彼の名はこの後、世界中に轟くのだった。
■
「ちょっと待ってくれよ! ボスドロップを独り占めする気なのか!?」
先ほどの様子を見ていた探索者の一人が声を上げた。
訳が分からないままにいきなり隠しボス戦に巻き込まれ、必死に戦い続けてボス撃破まで何とか生き残った青年だったが、さすがにこれは見過ごせなかった。
「今回の戦いは全員の共闘だ、ボスドロップの分け前も分けるべきだろう!」
事前に取り決めがあったのならともかく、今回は完全に想定外のアクシデントだ。ラストアタックを取ったのは藤木だったがそれ以外の参加者だってクリアに貢献しているのに何もなしというのは不公平がすぎる。
青年を皮切りに他の参加者もちょんぼるに向かって「ちゃんと分配しろ!」「独り占めするな!」「なんで勝手にドロップの権利を決めてるんだ!」と叫ぶ。
「わ、わかったから~! 落ち着いて~! ダンジョンから出たら、このカードはみんなで分配します~! だから落ち着いて~!!」
今にも一瞬即発という感じでヒートアップした他の探索者の圧力に負け、ちょんぼるは折れた。
本当は今回のカードを使った配信でさらなる視聴者を集めようと企んでいたちょんぼるだったが、このままだと他の探索者たちに襲われそうだという危機感から独り占めすることを諦めた。
おそらくオークションにかけ、売却額を分配という形になるだろう。人数が人数なので手元に残る金額は微々たるものだと思われる。
【強制退出を開始します】
探索者たちがようやく大人しくなったところで五分経過し、ちょんぼるたちもダンジョンから出たのだった。
■
ボス撃破後、戻ってきた紅雪がしょんぼりして頭を下げた。
「ごめんなさいマスター。私が至らなかったせいで……」
「全力を出したんだろ? それなら気にしないでいいさ」
紅雪はボスとの戦闘に集中していたので正確に把握しているわけではないが、どうやらボスにラストアタックを入れたのはあの忍者っぽい人だったらしい。
隠密系のスキルで気配を隠し、背後から一突きで急所を破壊する。完全に暗殺者の類だ。えげつない。
紅雪の奮闘も囮として利用されるだけで終わったしまった。完全に向こうの作戦勝ちである。
「お姉さまの戦いの邪魔をするなんて……ムカつくわ」
「そうだな」
これがお互いに了解していて協力していたのならともなく、実際には美味しいところだけ持ち逃げされた上に、ボスドロップも向こうが持って行ったのだ。これで怒るなというが無理だ。
勝手に紅雪や赤華を配信に使った件もある。あいつら絶対に許さん。
「おっと時間だ。二人ともカードに戻ってくれ。また後でな」
「はい、マスター」
「またね、ごしゅじんさま♪」
五分があっという間に過ぎて退出時刻になった。
紅雪たちをカードに戻して準備をすませると、眩い光が俺たちを包み込んだ。
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【貴方は今回のMVPです】
【スキル【特殊使役術(撃破)】の条件を満たし、モンスターカードがドロップしました】
【――貴方のカードを他の探索者が所持しています。回収します】
【――回収しました。MVP報酬とモンスターカードが与えられました】




