ママにとっての光
起床して服を着替え終え下の階に続く階段を降りる。
「おはよう、奏」
キッチンでフライパンを器用に動かして調理をしているパパがいた。
「おはよう〜パパ」
「ん〜、相変わらず今日も可愛いな」
高校生になった今だから思うけど
パパは相当な親バカだったと思う……ママもだけど。
「壮ニ(そうじ)、手がお留守になってるわよ」
ママがパパを注意する……パパの名前は山岸直史という。これでも、有名会社の社長を兄に持つ人でパパ自身もその会社で働いてるエリートなんだけど……
今の姿からはその威厳は感じられない。
「おっと、いけない。奏には美味しいベーコンエッグをパンで挟んだサンドイッチを食べて欲しいのに……焦がしたものを食べさせるわけにはいかないっ」
そう言って、真剣な顔でフライパンの中身を菜箸で突くように動かしている。
私はパパの姿を見つめる。
別段カッコいい顔立ちでも可愛らしい顔立ちをしてる訳でもない。
なんでママがパパを選んだんだろうって不思議に思うときがある。
ある時私はママに聞いた。
「ねぇママ」
「どうしたの? 奏」
笑顔で問いかけてくるママ。
「ママはどうしてパパと一緒になったの?」
そう問いかける私にママは驚愕の表情を浮かべる。
あの時ママ……何も言わなかったけど小学3年生の子がそんな質問をしたから驚いてたんだと思う。でもママはすぐに笑顔になって
「パパはね、ママにとっての光なの」
「ママにとっての光?」
私が繰り返すとママは満面の笑みで頷く。
「そう……パパはね、ママがどんなに暗い場所にいても明るく照らしてくれるの……」
そういったママの目はどこか遠くを見るような目をしていた。
昔何かあったのかもしれないけど、今となってはもう聞くこともできない……でも、ママが幸せならそれで良いとこの時の私は幼いながらもそう思っていた。
「さて、じゃあご飯を食べよう」
そう言ってたった今調理したベーコンエッグをパンで挟んだ物と牛乳がテーブルの上に並べられる。
「「「いただきます」」」
3人が席についてから同じタイミングで言ってからサンドイッチを食べる。
パパは料理が得意でいつもおいしい料理を振る舞ってくれる。
ママは料理は出来るけど、パパより上手くはない……その代わり掃除が大得意。だから家ではママが掃除、パパが料理と分担されている。
食べ終わって私は、そばに置いてあるランドセルを担ぐ。
「それじゃあ、行ってきます」
私は満面の笑みでそう告げると
「行ってらっしゃい」
「気を付けるんだぞ……パパ心配だな、ママ近くまで送って行っていいかい?」
ママも私と同じく満面の笑みで挨拶をし
パパは一人で学校に行く私を心配してママに小学校の近くまで送って行っていいか許可を取っている。
ママがパパを叱りつけてる姿を微笑ましく眺めながら私はその場を後にする。
――これが、私と両親が最後に会話をした内容……。