本編4-9
そうして、ノヴァーリスとセシリアが十六歳となった年に、王宮によって招集されたアシュラム、グラハム、メイアン、カイン、レイニーの五人を交えた一人と六人が、アルカンシエル王国の新しい女王と七騎士として就任することになる。
この時にはもう、セシリアの存在を唯一絶対とし、彼女を自身の女王として居続けさせるための暗躍が、ひっそりと始まっていた。
おそらく彼女も、女王となるためにその運命を捻じ曲げられている。つまりこの国の女王として居続けることが、紛い物になってしまった彼女の唯一の存在意義のハズ。そう考えての行動だった。
まずノヴァーリスは、センティッド伯爵家の者たちを闇属性のスキルで傀儡に堕とした。禁術によって氷属性の紫を埋め込まれた際、同時に埋め込まれたのが闇属性だったのだ。
悦楽、または恐怖によって、出口のない闇色の眠りへ誘う。何度も、何度も繰り返し術を掛けられれば、甘い夢に溺れた依存者が出来上がる。時たま恐怖で染めた夢を視せれば、なおさら甘い夢を渇望し、溺れていく。
闇属性の特殊属性スキル≪夢魔の誘い≫。それが氷属性以外にノヴァーリスが持つ、もう一つの特殊属性だった。
似た属性である夢属性は≪予知≫や≪幻覚≫に特化しているが、闇属性は人の精神を≪堕とす≫ことに特化していた。
そうして、数年の時間を掛けてセンティッド伯爵家を掌握し、カゲノ国の情報を、目的を吐かせることに成功したノヴァーリスは、カゲノ国の排除に乗り出した。
彼の国が、アルカンシエル王国の結界を疎んでいることは知っていた。あの激痛の中、何度も繰り返し言われてきたからだ。この国の結界を破壊しろ、と。
人の道を外れた術式を組み上げるカゲノ国は、アルカンシエル王国の地下へ押し込めるようにしてその行動を制限されていた。
貿易もできず、国力を上げることも叶わない。土地の大部分はアルカンシエル王国の結界で封じ込められており、人の出入りも思うようにままならない。今ではおとぎ話の中に存在する、悪しき国として寓話のような存在になっている。
今代の国王は、それが我慢ならないのだろう。
一つの国家として、この大陸に返り咲く。そのためにはアルカンシエル王国の結界も、アルカンシエル王国自体も邪魔な存在だ。カゲノ国が創り出す術式と、アルカンシエル王国でしか生まれない全属性が放つ≪浄化≫は相性が悪すぎる。
この頃になると、魔物達の数は減り、代わりに≪咎モノ≫と呼ばれる化け物が、世界各地で目撃されるようになった。
あれはカゲノ国で生成された、失敗作だ。
そう、あの禁術によって色を、魔力を得られなかった子ども達の、成れの果て。ノヴァーリスは、確かに彼らが絶命した瞬間を見た。それは間違いない。だが、カゲノ国はその亡骸を使い、化け物を作り出している。そこに魂も意志もなく、ただ骨と血肉を用いられて作られた、伽藍洞の人形。それが≪咎モノ≫の正体だと知った時、さしものノヴァーリスも眉を顰めた。
「なんと醜悪な……」
もしかしたら、自分とセシリアがなっていたかもしれない姿。一つの可能性の終着点。
そんなもの、到底許せる訳がなかった。
セシリアの心にも、身体にも、ほんの一滴でも影を落とす可能性がある存在を、見過ごすことなど出来ない。この頃にはもう、セシリア以外に割く憐憫の心など、ノヴァーリスは持ち合わせていなかった。
ノヴァーリスは情報を集め、術式の解析を行った。カゲノ国が行おうとしているのは、一度世界を真っさらにして、そこに自分達の国を、大国を築くことだろう。そのためには結界の破壊ももちろんだが、国力を維持するため膨大な魔力が必要になる。
それこそ、セシリアや自身のような、膨大な魔力が。
だからこそあの狂気の実験を繰り返し、後天的に魔力量を増幅させた人間を増やそうとしている。≪咎モノ≫を世に放ったのは、あの失敗作達が魔物や人を喰らい、魔力を増やすことを期待しているからだろうか。どこまでも人の道から外れたことをする国だ。
であれば、あの≪咎モノ≫達を集約する術式も開発されているハズ。七騎士としての任務に平行して、ノヴァーリスはカゲノ国の思惑を少しずつ暴いていく。
そうして、セシリアとノヴァーリスが二十四歳となった年。女王と七騎士に就任してから、八年が経過した年。ノヴァーリスはカゲノ国の術式をすべて解析し終え、掌握する一歩手前まで来ていた。
あとは、この術式のすべての鍵を握っているカゲノ国の国王を、——自身の実兄を、殺すだけ。
アルカンシエル王国の騎紫、ノヴァーリス・センティッド……否、ノヴァーリス・ヴィ・ノアールは、カゲノ国の第三王子であった。
作者夏バテのため、この酷暑が落ち着くまで申し訳ありませんが更新お休みさせていただきます。




