表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

第五二話

「……長期欠席の理由は海外旅行か」

「そうだよん。連絡したと思っていたんだけど、忘れていたみたいねん」


 クリスは長期間学校を休んだ件で久しぶりの登校をすると生徒指導担当の都築圭吾教諭に呼び出しを受けた。

 呼び出しを受ける事は想定内であり、クリスは届け出などをしっかりとそろえて圭吾に渡す。

 圭吾は受け取った届け出を眺めてはいるが納得できない事があるようで眉間にしわを寄せるとクリスに確認するように聞く。

 その質問に彼女は失敗したと言いたげに舌を出して見せるが、クリスの態度は夏休み前、彼女が失踪する前とは明らかに異なるため、圭吾は違和感を覚えているようで眉間のしわは深くなっている。


「……ウェストロード、一つ、聞いても良いか?」

「教師が生徒にスリーサイズを聞くなんてセクハラだよん」

「バカな事を言うな……その言葉使いは何だ?」


 圭吾は違和感を払しょくしようとクリスに質問しようとするが、彼女は笑って誤魔化そうとする。

 その返答に圭吾は大きく肩を落とすと彼女の変わりすぎた言葉使いに付いて聞く。


「特に意味はないよん」

「そ、そうか……まあ、良い。書類関係もしっかりしているから、次からは忘れないように、後は海外旅行と言っても単位と言う物があるからな。成績は問題ないと思うがこの後の事はしっかりと考えるように」


 クリスはわざとらしく少しだけ考えるような素振りをした後、笑顔で何もないと言う。

 何もないと言われてしまうと圭吾も深い追及は出来ないようで大きくため息を吐くとクリスに簡単な注意をして彼女は頭を下げると生徒指導室を出て行く。


「何かあったと考えるのが普通だが……黒須あいつが出してきた物も信用する気にもなれないな。俺に報告する事にどれだけ真実が書かれているかわからん」


 クリスの背中を見送った後、圭吾は机への上に視線を移す。

 視線の先には彼がクリスの失踪事件で伐に依頼した事に関する報告書があるのだが、その報告書にはクリスが生徒指導室や担任、友人達に話した海外旅行に行っていたと言う事がねつ造された証拠とともにまとめられている。

 圭吾は伐の性格を知っているせいか、この資料を信用する事ができないようで大きく肩を落とすがクリス本人に誤魔化されては追及する事はできず、乱暴に頭をかいた。


「……みんなを騙すのは少し心が痛いよ」


 生徒指導室を出たクリスは廊下に誰もいない事を確認すると小さく心の内を吐露する。

 学園生活に戻る上で彼女が先日までに体験した非日常は周囲の人達に話せる事ではなく、クリスは雪の忠告を実行する事を選んだようで笑顔を作る。

 彼女の笑顔は元々、明るく友人も多い事もあり、イメージを変えたかったと言うと割とすんなりと受け入れられた。

 それでも、まだ、クリス本人が上手く割り切れていないようで人の視線が無くなると素に戻ってしまう。

 このままではいけないとクリスは考えを変えようと大きく首を横に振ると教室に向かって歩く。

 

「クリス、お勤めご苦労様」

「うむ。くるしゅうないよん」

「バカな事やってないで次、移動教室だよ」


 クリスが教室に戻ると彼女の事を待っていてくれたのか、友人達が駆け寄ってくる。

 友人達に軽口で返事を交わすと次は移動教室だと言われ、彼女は慌てて教科書類をまとめて廊下に戻った。


「伐……」

「黒須君、何をしているの!?」


 廊下に出ると先日までともに過ごしていた伐を見つけ、抑えつけようとしていた気持ちとともに彼の名前を呼んでしまう。

 伐はけだるそうに欠伸をしながら廊下を歩いており、口元が物足りないと考えたのか懐をあさり始める。

 それは未成年であるはずなのに愛煙家の彼がタバコを物色している仕草であり、クリスはその姿に小さくため息を吐こうとした時、伐の名前を呼び一人の少女が彼に駆け寄って行く。

 少女の制服の胸元にはクリスと同じ学年を示すリボンが付けられており、すぐに彼女が二年生だとわかるが少女が何者かわからないクリスの心臓は跳ね上がる。


「……何って、見てわからねえか。タバコだ」

「見たらわかるよ!? そうじゃないでしょ。ここは学校、タバコはダメだよ!! 久しぶりに学校に来たと思ったら、ただでさえ、サボりとかで出席日数も足りないんだから、停学になるような事をしたらダメだよ!! って、聞いているの!?」


 少女の顔を見た伐は特に反応する事無く、制服からタバコを取り出し、口にくわえてしまう。

 その様子に少女は驚きの声を上げて、彼の口元からタバコを取り上げようとするが伐は身体を後ろにそらせてその手を交わす。


「えーと、あれ、水瀬みなせさんだっけ? 問題児の一年生と良くやるわね」

「従姉弟だって聞いたよ。それより、行かない? このままだと遅刻だよ」


 伐と少女のやり取りは何度か目撃例もあるようであり、友人達は呆れ顔で言うと彼女の背中を軽く叩くと移動教室に向かって歩き出して行く。

 前を進む友人達の言葉にクリスは小さく頷くと後を追いかけるように足を踏み出すがその足は伐とおかしなやり取りをしている少女の背後に向かっている。


「……先輩、気を付けろ」

「何? 私の言う事を聞く気にな……う、うにゃああああ!?」

「うむん。制服に隠れているけど、思っていたより、ボリューム感はたっぷりだねん」


 伐は視線の先にクリスが居る事に気が付くと少女に向かって忠告の言葉を投げた。

 少女は伐の言葉が上手く聞き取れなかったようであり、首を傾げた時、彼女は背後から胸をわしづかみにされ奇声を上げる。

 少女の胸に伸ばされたのはクリスの手であり、クリスは少女の胸を揉みほぐしながら感想を述べて笑う。


「ちょ、ちょっと、ウェストロードさん!? な、なんで」

「気にしたらダメなのよん……でも、私は負けないよ」


 少女は何とかクリスの腕から脱出するとクリスの事を知っているようで驚きの声を上げる。

 その疑問にクリスはくすくすと笑うと友人達から彼女を呼ぶ声があり、少女とすれ違う時にクリスは彼女の耳元でささやくと急ぎ足で友人を追いかけて行く。


「負けないよ? ……私、何かした?」

「知るか……」


 クリスの言葉の意味がわからない少女は胸を揉みしだかれた恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら伐に彼女の言葉の意味を聞くが伐は自分には関係ないと言いたいのか、クリスとは反対方向に向かって歩き出す。


 一先ず、今シリーズは完結です。


 シリーズ完結までお付き合いありがとうございました。

 最後にでてきたのは他のシリーズのヒロイン水瀬優夢です。

 特別編と言う事でハッピーエンドとはいきませんでしたが、後を引くようにしてみました。

 逃げとも言いますけどね。(苦笑)


 それではしばらくノラ猫シリーズはお休みになりますが、復活する時はまたよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ