68話 知らない所で起きてる異変
フロムさん達の帰還によりプレーヤー3対3他ユニット多数の乱戦は俺達の領地防衛で幕を閉じた。いや、相手が撤退したの方が正しいかな?多分威力偵察でウチの領地がどの程度の戦力か見たかったのだろう。流石プレーヤー、攻める準備を着々と整えてらっしゃる。
空の方も目視した限りだと小競り合いはあるものの、派手な音は聞こえずに一時的な平穏を見せる。全体を見て今は膠着状態かな?とは言え森にいるプレーヤーは爆撃で囃し立てたし、近くの領地は戦う構えを示していると言うのは他のプレーヤーにも分かったと思う。
「食事は大切です。適度な空腹は脳の神経系や自律神経に刺激を与え、心身のパフォーマンスを高める効果があるとが分かっています。特に有名プロゲーマーの方は脳の扱いと言うモノを意識して、休息や食事管理をする頭脳アスリートと言っても過言ではなくないでしょう。しかし、マリちゃんは違いますよね?」
「申し訳ない。でもリアルタイムでゲームしてると、中々きりのいい所って見つけづらいんですよね・・・。」
もっちゃもっちゃと昼食である塩サバを食べる。豪華と言っていいのか分からないけど、半身が2尾乗せられているので普通よりは量が多いのかな?時間的に言えば14時頃とかなり遅いけど、逆を言えばまだ14時とも言える。
ローテーションでご飯を食べている関係上、あんまり長引かせたくはないけど先生の目が怖いので不用意な発言は控えよう。一応、落ちる時に多少時間かかるかもと言ってきたしね。
「それはゲーム依存症を疑う事になりますが?普段はどの様にプレーされていたのですか?」
「どの様に?基本的に仕事が終わった後に諸々やってからの息抜きって感じですよ。気分が乗らない時やら用事がある時はログインだけとか、デイリーまでとかで終わったりするし逆に楽しい時は明日に響かない程度の時間で切り上げますね。」
「ふむ・・・、他に趣味はありましたか?」
「カラオケとか旅行は好きでしたよ。思いっきり声出して歌うのは気持ちいいですし、旅行と言っても隣の県とかまでですけど、電車やらに揺られて有名じゃない所を歩くとか・・・。ほら、知らない街の人通りの少ない所ってちょっとワクワクしません?」
「割とアウトドア派だったんですね。VRMMOをされる方はその世界にのめり込んでしまって外出が減る事もありますが、マリちゃんを観察した限りではそれもないようですね。」
「外への渇望と言うよりは今後の為ですけどね。ずっと病院にいる訳にもいかないし、華澄は来いとは言うけど行っても家から出られなければここと変わらない。なら今のうち、早め早めに行動して出来る事を増やす。先生・・・、医者としては患者のその後のケアも医療項目にあるでしょう?」
先生の診断では俺は健康である。つまり、契約と言う利害関係がなくなれば俺は次の居場所を探す事になる。その居場所がどこなのか、今の俺には分からない。妖怪なんて者の話を聞いて医院長の客人と言う立場を利用して居座るのも出来るかもしれないし、配信者として細々と過ごす事も出来るかも知れないが。
或いは本当にどっかの神社で巫女とか?なんにせよ配信者はゲームのサービス終了で姿の言い訳やゲームをメインコンテンツとしては使えなくなるし、そうなるとマイクをステージに置くわけじゃないけど日常と言うかリアル配信をするかと言う点も関わってくる。なんにせよ早く動かないと手詰まり感があるのよね・・・。
「ケアと言う話なら一生ケアしていいだけの素材だと考えていますよ。しかし人として考えるなら、そんな我儘は通用しない。まぁ、マリちゃんが暗い夜道を歩く様に心細いと言うならずっといてもいいですよ?」
「妖怪は夜に出るし、狐の巫女ならやっぱり月夜に神楽舞でしょう?それに、昼より夜の方が割と好きなんですよね。」
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ツキ・・・。元雁木 真利?とか言う柊の夫と言うかテイマーと言うか理解者?の姿を見た。あぁ、狐の窓で見た。座敷がヤベェと言うだけはある。妖怪は奇形が元となり人とは違う者としてそこにある。だからこそ、人とは違う法則で生きるしその法則は境界内なら勝手に運用してもらえばよかった。
しかし人は魔法に恋焦がれどうにか使おうと試行錯誤して、現実で出来ないなら魔法を・・・、魔の法則の近くでなら使えるとVRゲームなんて言う新しい世界を作った。皮肉を言うなら脳波なんて言う無意識下に人に馴染部分を使ったのがより加速気味にさせた。
まぁ、それでもギリギリのラインで人は現実では魔法を使えないと考えているし、大多数もそれに納得する。俺達だって妖怪と物理的にやり合う事もあるが基本は言葉による対談だ。そんな中でアレだ。
「柊よぉ、お前的にはツキちゃんって敵?」
「そんなわけないでしょう?真利は真利で人側です。それを引き留める為にも私は夫婦と言っています。彼は振り向くなと言っても振り向くかも知れませんが、化け物だとしても手は離しませんから。それよりも木本さんは何を見たんですか?私は名字的に妖怪側に嫌われる者でそう言った事は苦手です。」
「相変わらず小賢しい・・・。人が進化と言うか技術躍進するのに、そのすぐ近くにいる妖怪が延々と古風な暮らしをするのか?ありあんだろう?時代が進めば近くにいる者も進むし、下手をすればそれよりも先にいる。ツキちゃんってのはそう言う者だ。」
「デジタル妖怪ですか?或いはそこまで行かない都市伝説的なものだと?」
「ちっとばかし違う。強いて言うなら境界に立つ者だな。仮にツキちゃんがあの姿ではなく例えば狐じゃなくて鬼だったとしよう。その場合、ツキちゃんはヤベェ者はなくちょっとヤベェ程度でよかった。分かるだろ?鬼、オーガ、ゴブリン、コイツ等は過去は恐れられたが今はどうだ?」
「雑魚、中ボス、或いは序盤にでる壁ですね。豆を投げれば逃げる、酒を飲んでパリピになればコブをもぐ。或いは力馬鹿で知恵が足りず人よりも1段下。まぁ、そう言った妖怪に言えば捩じ切られますが。」
「知ってて言える柊姓つぇぇ・・・。話を戻すが過去からあった奇形がそうあれかしと人が見て、そうならざるおえなかった人達が妖怪として自分の居場所を求めて境界を越えそうなったから、妖力やら魔力やらなんかの超能力的なモノを持った。どの国にも妖怪はいるが、人の中にある妖怪は平穏に暮らしているし、境界を行き来出来る程の者になればイタズラはしても本当の姿を見られるのは嫌うし、人前も嫌う。なにせ固定されるからな。しかし、ツキちゃんはちょっとばかし特殊過ぎる。」
「あんなに可愛いのに?」
「それは・・・、関係ないと言い切れねぇ所を突っ込むな。本来なら座敷なんかは高位の妖怪だが、向こうにいると弾かれるからこっちにいたくている。しかし、ツキちゃんの場合は強制的にコチラにこさせられた上に1人として完結しちまってる。わかるだろ?要はスタートからネームドなんだよ。どんな妖怪だろうとネームド、つまりは名を待たなければまつろわぬ何かだ。水神と言われて龍を思い浮かべるかも知れないが、これが鯉の姿でもいいし水蛇でもいい。しかし青龍と言われれば龍であり水の守護者。なら、ツキと言えば?」
「トラブルオンラインのカンストプレーヤーで狐娘姿の巫女ですね。認知度は高くありませんが、フレもそこそこいるみたいなので・・・、配信者として続けられると危ない?」
「危ないと言うか完結しているから他の妖怪の様に時代時代で代わりはしないだろう。その代わり全く同じ姿のツキと言う人物が外を出歩いていたら『全く同じならゲーム的な事が出来るんじゃね?』って思う。それこそ、今の時代ゲームで鍛えればメジャーリーガーにもなれるし、足が悪くて電動車椅子に乗っていても、パラリンピックなんかならモンスター車椅子レースで活躍も出来る。あ〜・・・、天野医院長とは早期に話さないといけねぇ・・・。」
「話した所でなにか変わるんですか?医院長も妖怪側の人間でしょう?それなら八百理事長の方がいいと考えますが?」
「あの人も元は尼さんだが人前は嫌う。なにせ1人で洞窟にこもって経をあげてたけど、救われないから自由にするって言って出て来た口だしなぁ・・・。と、そろそろか?」
「ええ。しかし、本当に一人暮らしの女性の家に来るんすか?そのあたりで降ろしますよ?あと、襲うつもりなら死を覚悟して下さい。私の貞操は真利のものです。」
「お前の貞操なんていらねぇよ!用があるのは座敷だ、座敷。高位妖怪である以上、様子見も仕事の内だ。」
早く帰りてぇ。でもツキを見て座敷が体調崩してるとなれば会わないわけにもいかねぇ・・・。流石に何かに当てられたって事はねぇだろうが、座敷はツキから桃貰って食ったとか言ってたしなぁ・・・。これが見舞いのフルーツ盛りから取ってよこしたと言うならいい。でもツキは桃を出したんだろう?
それって文字通り血肉を分けた依代を渡したて食わせたって事だろ?どんな古い呪いにも自分の血肉を渡して相手を使役するものはあるし、そうでなくとも日本でも骨噛みやら海外では内食いなんて言う魂を継承する儀式がある。体調が悪いのはそのあたりからか?
「戻りました。」
「邪魔するぞ。座敷どうた?」
「あ〜・・・、木本かぁ〜・・・。ちょっとこっち来い。」
煮え切らない座敷の声がする。柊と顔を見合わせ中に入ると、多少着物が乱れた座敷の野郎が腹を押さえて床に立っていた。人形の身体の座敷が腹痛?ありえんだろ。食ったものは毒だろうとなんだろうと勝手に消える様な奴だぞ?
「なんだ?ガチで腹痛か?それとも何かしらの呪いか?」
「いや・・・、うん・・・。ちょっと俺の腹を触れ。それが1番分かりやすい。」
「腹ぁ?お前の腹なんて硬てぇだけだろ?なんだ柊?綿でも詰めたか?」
「そんな事しませんよ。座敷童子はこのままが一番可愛いですから。手を加えて可愛くなくなったら憎たらしくて投げつけるかも知れません。」
「それもそうか。・・・!?!?!?」
「やっぱり感じるか?」
「オイオイオイオイ!!!」
50cm程度の人形、それが座敷の身体で依代だ。そこに臓腑はなく温もりなんてもなぁない。ないはずなんだがなぁ・・・。するりと着物の襟から手を入れたら温かった。その前に硬質であるはずの表面はプニっと柔らかい。クッソ頭痛てぇ・・・。
「どうしたんですか木本さん。」
「どうしたもこうしたも・・・、受肉か?」
「分かんねぇよ。ただ口ん中は濡れてっぞ。」




