216話 スタスタ歩く
「ツキちゃんフラッシュ!クインズさん!アイテム回収して!緊急換装でその辺りにばら撒いたから!その間、私が引き付ける!」
「分かってるが、その掛け声は毎回言わないといけないのか!?」
「いや、気分!シャイニングバースト!ファイアバレット!」
御来光ヘルメットならMP消費なし、魔法ならMP計算しながらの崩し・・・。影状態の時に大麻で斬りつけたらペにょんとか気の抜ける音させやがって・・・。
モンスターの装備はどこか古めかしく、傷やらヒビも見えるけど、それが弱いとは限らない。と、言うかね?こんなところ2人で攻略できるようなもんじゃねぇよ!
クインズさんがやたらやる気になって、アイテム買い取るからギリギリまでやらせてくれって言うから、備蓄との兼ね合いで出せる分ならと言う事で手打ちにした。まぁ、クインズさん本人も緊急換装のスキルは持ってるんだろうが、温存切り札とするなら自分の分だし、攻略する確率を考えるとクインズさんに軍配が上がるからいいんだけどさ・・・。
「ちっ!やっぱり炎じゃ点でしか見えない。って、裾を掴むな裾を!緊急回避!緊急回避!くっ!視線が多すぎるぜ!ライトエンチャント!斬られろ!」
千切れ飛ぶ尻尾に薄暗い視界、なにより目玉だけギョロギョロして、モンスターと言うか供物族の体がどうなってるのかシルエットで分からない。
「くっ!踵落とし!片足でようやる!」
『避難しろ!』
『ここはもうダメだ!』
『助けて・・・。』
『また、戦える・・・。』
「静かにしろよ!この残響回想ども!」
残響回想・・・、それがこのモンスターの名前。誠にウザいことに、近寄って攻撃を受け止めたりすると声が聞こえる。普段はペにょんとか言うくせして、聞こえる声だけはどこか真に迫ってるんだよ!
「回収が終わった!どうする?また背中で回復タンクやってもいいが。」
「もういやや・・・、人の操作をダイレクトに味わうのは酔う・・・。」
「と、言ってもリソースが少ない、ぞっ!」
「なんかないんですか!なんか!闘技場殿堂入りならなんか奥の手があるでしょぉぉ!!」
「生憎とこのゲームでそんなお手軽なもんはない!知ってるだろ!?」
「知ってるから聞いた!そして今、絶望した!」
>> ツキちゃんの新年初絶望w
>> 2人だとやっぱり厳しい系?
>> 物見遊山と言いつつやってるのはガチだけどな
>> しかし、クインズがツキちゃんの動き見てるな
(その割にはツキさんはよく動くんだがな・・・。流石は神楽舞と言われただけはある。)
神楽舞とは変人である。それが俺がトラブルオンラインを始めた頃に聞いた話だ。闘技場に籠りひたすらPvPで大魔法を発動させようとする、闘技場段位持ちの最雑魚プレーヤー。
なにせ、詠唱を始めればプレーヤーは大魔法を狙っていると分かる。そして、隙を見て崩せばキャンセルできるのも、雑にノックバックを狙って崩せばいいのも分かっている。
普通にPvPすれば段位持ちとしての実力は出せるのだろう。だが、本人はそれに全く興味がなく、格下だろうが格上だろうが負けようが狂ったように神楽を舞う。そして、いつしかその顔は真正面に固定され、手足だけが自由に動き、紡がれる詠唱は淀みなく発せられるものとなっていた。
「なぁ!今は俯瞰か?それとも主観か?ライトニングマイン!デンデラリュウ!」
「それ今聞く!?主観ですよ主観!本人基準アバターだから、主観が一番に決まってるでしょう!そこ!狐火!ちっ!雷獣招来!轢け!砂上の盾!って、すぐ壊すな!ツキちゃんフラッシュ!あぁ!ミカンの汁が!」
脳波操作・・・、普通にアバターを操作するなら無言がいい。それが一番干渉が少ない。しかしこのゲームの魔法やアーツ、スキルは宣言が必要で、慣れない初心者はチグハグな動きをすることが多い。俺だって闘技場で殿堂入りしたが、不意に思考が散ればアバターの操作精度は落ちる。
ある意味静と動。勝つために口数少なく愚直に戦い続けた俺と、なぜか配信者になったツキと言うプレーヤーの違い。今もアレだけ騒がしいのに、その動きに乱れはない。まるでその舞や動きを完全に覚えて、自らの体に完全に馴染ませたような・・・。
VRゲームでメジャーリーガーにもなれる。それは間違いなく実例がある。但し、その境地に行くにはそれだけ脳に動きを覚え込ませる必要がある。そして、それを今度は自身の体に投影すると言う作業が・・・。
確かに本人基準と言うだけあって、配信のワイプに映る顔はアバターと瓜二つ。なら、やはり思ってしまう。配信でも神楽を舞い、狐の尻尾も耳もある姿なら本当に魔法が使えるのではと・・・。
「ここを一掃してくれ。そう頼んだら?」
>> クインズからの大魔法オファー
>> やれる?ここならなにを舞うんだろ?
>> その前に舞える?
「ふざけんな!舞うリソースも詠唱時間もどれだけ引き出せるか!あっ!尻尾がなくなった!こんにゃろう!シャイニングバースト!って、距離とるな!もう学習しやがったのかよ!」
「思ったよりもラーニング速度が速い!ちっ!やけに回避されると思えばそこか!なら、詰将棋で勝てる。」
「詰将棋?」
「そう。AI最大の弱点、プレーヤー同士で殴り合うのとは違うロジック格闘。あまり見せたくはないが・・・、いいだろう。ツキさん、ランダムに光らせてくれ、御来光を。ただ、無言で頼む。」
とても簡単な話だ。そもそも運営がやらせているのは光でモヤを遠ざけ、本体が出たらそこを攻撃させる。たとえその本体が硬くとも、絶対防御なんてものはこのゲームに存在しない。
それがプレーヤーとして運営を信頼する理由で、運営がプレーヤーに信用させるルール。だから、俺達は自由に遊べている。
「了解であります!ケツ持ちやってやんよ!」
そう言うと、前に出たクインズさんは無言で親指を立てた。そして、モンスターに向かって親指を下に向ける。相変わらずモンスターどもは『落ちた・・・』やら『子供が・・・』と煩い。ケツ持ちすると言うからには、ケツ持ちするだけの動きをしないとなぁ。
クインズさんが左に飛ぶ。だから、俺もクインズさんの後ろで左に飛ぶ。今までなら殴りかかるところを、今度は後ろに飛ぶから俺も後ろに飛ぶ。
「クロックアップ!パンプアップ!刹那の神速、スタック!シャイニングバースト、スタック!・・・。」
クインズさんにバフを盛りつつ、いざという時のスタック。まぁ、時間経過で勝手に発動する魔法だけど、そのカウントを見誤る者はここに存在しない。
「まずは1手。」
ランダムに飛ばされる目からのビーム。ただ、なるほど。それには確かに規則性がある。後ろから見れば分かるけど、光るビームが他の残響回想に当たればその部分が露出する。だから、モンスターの真正面だけはビームが来ない!
クインズさんがしゃがむタイミングで御来光を光らせしゃがむ。頭上をビームが通過している間に、前にいるクインズさんはモンスターの胸に一撃。それを見て殺到するモンスター、今までは回避していたのを今度は胸ぐら掴んで振り回す!
ははっ、確かにそれは今まで見せてないな。不確定に動くプレーヤー。それが詰将棋の正体か。そんな振り回したモンスターを投げつけ、クインズさんが飛び退いた。マイナーアーツや行動。その一つが投げ技やら相手を掴んでどうにかすること。
当然といえば当然だけど、これはゲームなので人よりはるかにデカいモンスターがわんさか出る。そんな相手を掴んで投げる。いくら筋力があってもほぼ無理だろう。でも、こういったアバターと同じようなサイズの敵なら、十分に通用する。
「2手。」
手近なモンスターの首を掴む。掴むだけで投げない。そうすると、モンスターからのビーム攻撃は鳴りを潜めワラワラと近寄ってくる。掴んだモンスターは当然ビームは撃つし暴れるけど、それを意に返さず掲げ続ける。
フレンドリーファイア。俺達は勝手に死んで運営の用意したPK対策を、そのままフレンドリーファイア対策として使っている。でも、本来ならビームが当たって無傷なんてことはあり得ない。
「姿を見て声を聞いて、モンスターの名を知る。なら、これならお前たちは撃てまい。」
>> 悪役ムーーブ!!!
>> 人質戦法w
>> 王道さんの気配が・・・、消えた・・・?
>> 3手目は!3手目はなんですか!?
悔しい!アレイスターの地下でモンスターを首飾りにしたりしてたのに、身長が低いからモンスターそのものを持って盾にすることを除外してた!・・・。いや、俺だと無理か。隠れるとかは出来るけど。
そんな中で御来光を光らせる。足元のモンスターなんかもよく見えるけど、やっぱり供物族だよなぁ〜。って、なんでクインズさん動かないの?モンスターと睨み合い?そんな中で今掲げているモンスターをくるりと反転させた。ちょうどモンスター同士の目が合うように、俺たちの姿が隠れるように。そして、そのまま悠々と歩き出した?えっ?なして?
無言と言われてるから話せない!でも、カラクリを知りたい!考えろ、考えろ俺!なんでだ?なんでモンスターは攻撃してこない?こちらをギョロりと見つめるモンスターの中をスタスタ歩く。そして、到頭反対側の扉までついてしまった。えっ!?マジで無傷?攻撃しないの?
・・・、同族認定?いや、姿も形も違う。なら・・・、連行?或いは避難?確かに残響回想達の話す言葉は敵対的じゃなくて、どこか仲間を思う言葉だった。なるほど、それがヒントか。
>> ロジック格闘?
>> 合気の先生が言ってた。相手と友達になれば負けないと
>> 友達=盾。或いはネックホールドするなにかw
>> ・・・、もしかしてボスヤバいからここで
いなせないように守ってた?
>> そのいなせない守りがプレーヤーを
殺す行動なんですが・・・
>> でも、プレーヤーは生き返るじゃん
NPC全員その認識だろ?




