197話 誰かが見舞いに来るようだ
年の瀬はどうお過ごしでしょうか?相変わらず病院は静かで、俺の周りとしても大きな騒ぎは多分ない。座敷童子大先生が現れて、それに対する『あのNPCなに?』コメントなんかもあったけど、その後フィールドに稀に現れる逃げ遅れたNPCがいると言う話で落ちいついた。
実際他の場所にも種族問わず、時折老人だったり子供だったりのNPCが参戦したけど、街に帰れなくなったと言う話はあるようだ。なので、座敷童子大先生はそのNPCと言う話で片が付いた。
ただそこで俺が大根芝居したせいで、実はプレーヤーツキは運営と知り合い?なんて話も出てるし、逆に大根芝居過ぎて不自然だろ!と言う話もある。ただまぁ、助けたNPCが色々アイテムくれるから戦場はより混沌として来たし、今日は12/30日でリローデッド本体が現れるのでは?と言われ、話自体は沈静化している。
「それで、とある人に会って欲しいと?名前とかは?」
『そうなのよ。座敷童子のやらかしを今回偽装してもらった見返りにね。名前は会って真利が気づけばいいとも言うし。』
朝からイベントでかぐやを走り回って、残滓やらトウモロコシを倒していたら華澄から電話が来たので、一旦ログアウトして話す。メッセージが多いけど、こうして音声で話すのもいいよね〜
「う〜ん・・・、誰かと会うっていうのはいいよ。普通の暮らしに戻るなら、結局不特定多数の人とは会うわけだし。と、言うか気づけばって、明らかに私が知ってる人だよね?」
さてはて誰だろう?少なくともトラブルオンラインに関わりのある友人と言うか、技術者としてゲーム開発してる人なんて知らない・・・と、思う。
営業マンとしてクライアントと話すことも多かったけど、それはもう今ある装置を改造して欲しいとか、こう言う仕様変更をお願いできないかと言う話であって、確かに依頼者本人の状況に合わせて提案はするものの、私生活の部分に踏み込むことは稀だった。
なにせ相手がなんの仕事をしているかは、医療器具等を買うのに対して必要のない情報でもあるし、下手に干渉されるのを嫌がる人もいる。だから距離感として、クライアントと仲介者と言う立場を崩さなかった。相手が勝手に話す分?話は聞くけど口外はしないよ。流石に個人情報を吹聴するとか怖い。
『さぁ?本人としてはそれが大切なことみたいよ?』
「う〜ん・・・、会うのはいい。でも、この姿がバレると華澄達も色々まずくない?流石に見られるだけならまだコスプレで言い訳できるけど、触られたりしたら・・・。」
『一応、私達側の関係者。』
「なら、いいのかなぁ。病院側へは?」
『天野医院長へは木本さんが連絡済み。三枝先生へも同じくね。』
「なら、私からどうこう言うことはないよ。で、いつ来るの?」
『今日の午後からよ。』
「それはまた・・・。」
時間は既に11時をまわり、清く正しく昼飯を待つ身。流石に毎回三枝先生に『時間だ、食え』と、されたくもない。と、言うか今日は姫子さんも来ないからある程度は静かなんだよなぁ。木本さんが来てるわけでもないと思うけど、どうなんだろ?
そんな姫子さんはある意味尽くすギャルと言うか、演者として配信に出たから幾ばくかのお金を渡した。適正金額と言うものは中々分かりづらいけど、少なくとも1万円で少ないということはないかな?
まぁ、それでなにをしたかと言えば格安コスメを買ってお化粧したりと、高い女子力を発揮している。動機もどストレートに、木本さんと会うならきれいな姿じゃないと嫌と言う感じだし、バイト感覚で格安コスメによるメイク動画とか撮影するかも。
なにせ尽くしたいのに元手がない、それは姫子さん的には結構考えるところで、雪山に閉じ込めて婿入りさせた側なら、そこで全部賄えたしすっぴんでも、比べる対象がいないから問題はなかった。
でも、逆に嫁入りしたから他に比べる対象ができて、変な危機感があるらしい。例えば、木本さんは否定するけど体型だけなら華澄はボンキュッボンだし、敷田さんはノリがいい。
三枝先生?残念・・・。ストンとした体型で医者然としてるから好みとはかけ離れるし、なにより姫子さんとしても相手ではないと言うような・・・。
「マリちゃん。お昼ですが・・・、とても失礼なことを考えていませんでしたか?」
「いえ、まさか。」
「そうですか。なら、いいですが今日は午後から・・・。」
「来客ですよね?その件で華澄と話してました。今更と言う感じもありますが、なにか注意事項ってあります?誰が来るか知らないもので。」
「ふむ。私も詳しくは知りませんが、マリちゃんの知り合いと言うのは確かなようです。天野医院長としても、宮内庁側と連携を深めたいと言う意向があるので、そちら関係の方だとは思いますが。」
「う〜ん、誰でしょう?少なくとも華澄の同僚と言われても木本さんしか知らないんですよね。共通の友人もいう人もいないし。」
大穴をいうなら華澄の両親とか?ウチの両親はズルズルと連絡しないままメッセージで元気と伝えるだけにとどまってるし・・・。この部分もどうにかしないといけないんだろうけど、父さんはなぁ・・・。堅い人だから経緯を話せば先ず俺を怒る。
それだけならいいけど、最悪認めずにそのまま縁切りと言う流れまで・・・。息子が娘になっただけでも大事件なのに、それが狐耳と尻尾まで生えたらなにを言われるか・・・。少なくとも、まともに仕事してたからそこで怒ることはなかったけど、ズボラが理由でこうなったと知ったら怒るよなぁ・・・。
「私からは個人の人間関係に口出しできませんよ。あくまで、医者として現状説明はできますが、それ以上のことは当事者同士で話してもらう他ありません。」
「まぁ、そうなりますよね。色々話は聞けても、聞いた後にどういう関係に落ち着くかは当事者同士の問題ですし。先生も立ち会うんですか?」
「いえ、今回は立ち会いません。身元もハッキリしていますし、華澄さんもいます。なにより知り合いと言う前提もありますから。」
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「相田部長、今日は岩戸さん休みですか?」
「そうだよ、橋田君。イベントももうすぐ後半で忙しいけど、休みを欲しいと言われて上げないほど忙しくもないし、なにより昨日は頑張ってたからね。」
「それはまぁ・・・。」
岩戸という人材ははっきり言えば大当たりの人材。流石というか国が派遣してくるだけはあり、脳波操作部分の最適化にアバターの挙動最適化、イベント運営では実装モンスターをともに作る等々。コミュ障とコンプレックスという部分がなければ、それこそどこの会社に行ってプログラマーをやると言っても通用する。
少なくとも俺の評価としてはそういう評価で、最近会いに来た背の高い女性とも知り合いなのか、ある程度話していたとは思うし、その後徹夜でなにやら新しいモノを実装していたのもしっている。中身?国からの依頼らしい。医療提携型ゲームでは、時折そういうことがある。
普段なら俺が文句言いつつキレながら、指示に即したプログラムを組んで実装するが、今回は岩戸が1人でやってしまった。確かに部長が言うように休みを認めるだけの仕事はしている。
「なんだい?行き先でも気になるかい?君は仕事のできる人がタイプだし。」
「コレはなにハラですかね?」
「おお怖い。まぁ、昨日来た柊さん。彼女と一緒に知り合いのお見舞いに行くそうだよ。」
「お見舞い・・・、ですか?」
意外じゃないといえば嘘になる。人と深く関わる以前に人とまともに話せない岩戸が見舞い?そりゃぁ、人の子だから親もいれば、今までの人生で仲良くなった人もいる・・・と、思う。
ただ想像はしにくい。データをやり取りするならいい。でも、それがペーパーになったら、その紙を持ってずっと横に立っているような女性だ。最初の頃はどうしたもんかとは思った。なにせその高身長と長い髪でデスクに影を落とし、それで気づいてくれと言わんばかりに立っているんだ。
存在感MAXの幽霊。或いは、そこにあるだけで圧迫感をもたらす大きな岩。未だに長い髪前髪に隠された素顔は見てない。ただ、その髪から出ている鼻の形はいいと思う。
「意外かもしれないけど、彼女自身が見舞いに行くと口で言ったんだよ。」
「えっ!?最近スマートレンズのメッセージばかりだったのに?」
「そう。口で話せば相変わらず、『あっ・・・』とか『で、デュフ・・・』とか言う彼女が『み、見舞いに行きます、休みます。』とね。誰のとかはなかったけど、それだけ大切な人なんじゃないかな?」
「はぁ・・・、あの岩戸さんが・・・。恋ですかね?」
「さぁ?その恋とも気づいてないかもしれないよ?恋は落ちるものというけど、落ちてる最中に自分が落ちてると気付く人は少ない。あっ!これ昔作った恋愛ゲームの名言ね。」
「さいですか。」
ニヤニヤしている部長はいいとして、実装されたデータはイベント中、フィールドに一定数の無力NPCが現れるというもの。ゲームバランスとして考えるなら多少プレーヤー側の不利要素となるが、それと同時に戦うNPCを守る方向性で動くプレーヤーに対して、保護による強制的な帰還を示すものとも取れる。
イベントのジレンマとでも言えばいいのか、長時間のゲームはAIアマテラスとしても快く思っていない。それをどうやって自然にプレーヤーに示すかと言えば、無力なNPCを保護して街に帰し、幾ばくかの報酬を貰って休むというのもいいのだろう。
「しっかし、明日まで休みか・・・。まぁ、イベント自体は問題なく進んでるし、今いるメンバーでも大丈夫だろう。」




