164話 嫁取り婿取り
「お前こそ誰だ?私は名乗りを上げ友人を助けに来た!雪山に住まうそなたは誰か!」
「私は・・・。」
一応9個あった狐火は車を覆う雪に激突して消えた・・・、と思う。雪女と睨み合い結果を見れてないから、感覚判断しかできないけど、腹の減り具合的には減り続けていないから多分大丈夫。
チラリと横を見れば鞍馬さんはぬらりひょんを見ているし、雪を踏む音から敷田さんは木本さん達の安否を確認してるかな?名を聞かれた雪は顔をしかめているけど・・・、その前に俺の視線から目を逸らそうとしてる?
確かぬらりひょんの時もアストラルエンチャントを使って視られるのを嫌がった。なら、雪女も?このまま睨み合いで解決できればいいけど・・・。
「私は・・・、宇津田?」
「いや、疑問形で聞かれても私も知らないし・・・。」
「宇津田 姫?」
「いや・・・、誰よそれ?と、言うか貴女は何がしたい?婿が欲しいだけ?」
「欲しい!婿が欲しい!1人寂しく雪山にいるのはつらい・・・。冬キャンとか言って、カップルが雪山でキャッキャやるのが憎い!雪山を舐めて夫婦で登山する奴を見ると嫉妬に狂って吹雪かせる!お前も婿を横取りしに来たのか!お友達から始めましょうか!むしろ始まったから駆け付けたのか!」
感情が高ぶったせいか一気に冷え込む・・・。雪が降らない代わりに空気がキラキラと・・・。えっ、ダイヤモンドダスト?流石に尻尾で全身を包んでも寒いんだけど!?
「いや、私の妻?は車に乗ってる女性の方でして・・・。」
「なら帰れ!人の婚活を邪魔するな!!」
「いや、そう言う訳にも・・・。私が来たのは男性、木本さんから助けてくれとお願いされたからでして・・・。」
「やはり仲がいい!でも、私の方が彼の好みよ!」
そう言いながら着流し風の和服の上からでも分かる胸を見て付け来る・・・。まぁ、俺と雪女なら多分雪女の方が好きと言う男性も多いだろう。顔もモデルというよりは多少童顔のアイドル風で、その割に体はボンキュッボンで胸もお尻も大きめだし・・・。ただ、その顔は怒り狂う夜叉である・・・。
「それはまぁ、当事者同士の話し合いで・・・。って、そもそも木本さんの気持ちはどうなんです?」
「気持ち?そんなもの一緒にいればどうとでもなるわよ。これでも私は尽くすタイプで、婿殿が飯と言えば飯を用意し、風呂といえば風呂を探し、寝るといえば床を共にする・・・。」
「あ〜・・・、木本さんの日常は?」
「彼の全ては私の全て、私の全ては彼の全て。春になるまでの一時、その刹那を共に過ごし分かれる・・・。うぅ・・・。」
今度は目尻から氷の粒が・・・。確かに鞍馬さんは季節が巡る限り同じことを繰り返すと言ってたな・・・。て、ことはここで木本さんを助けても第2第3の木本さん案件が起こる?いや、伝承として伝えられたからには、何度も何度もそれを繰り返しているのだろう・・・。
「マリちゃんよぉ・・・。」
「木本さん、あんまり動かない方がいいですよ。」
「いや、俺は大丈夫だ敷田さん。柊の方を見てやっててくれ。」
「それは・・・。」
「大丈夫だ。こういった仕事をしているなら、俺も柊も覚悟はある。そして、今回はこうして助けも来たしな。」
「私を呼ぶ前に婿殿がその化け狐の名を!」
「黙れ宇津田。」
(と、大きく出るが宇津田姫だぁ?それってつまり冬の女神じゃねぇか!零落して雪女になったにしても、おみっちゃんとか、お梅さんとかでいいだろ!そりゃあ、俺の目がイカれかけるわけだわ・・・。神を視れば目が潰れる、今回はまだ運がよかったか・・・。)
「はい!婿殿。」
あっ、本当にしおらしくはなるんだ・・・。狐の窓を作ったまま雪女を視る木本さんの目からは血が流れ、それが氷柱のようになっている。
「アストラルエンチャント・・・。」
「おい!マリちゃん!」
「大丈夫です。ぬらりひょんの時も、これで電気精神体の存在感が上がりました。」
リュックを降ろし中の物をパクパク食べる。まだ、腹が減った感覚は薄い。でも、それがいつ足りないに変わるかは分からない。プロテインバーを食べつつ雪女を視るけど、視られた雪女はとても居心地が悪そうだ・・・。
「これは・・・、狐の窓を使わなくても視れる?」
「多分、大麻のおかげです。言ったじゃないですか、民俗学の基礎的なものは知ってると。それで・・・、木本さんはどう助けてほしいんですか?」
「・・・、俺はマリちゃんを呼ぶにあたり、禁忌を1つ犯した。」
「禁忌?」
「そうだ。電気精神体相手に本質を聞いて、名を問うた。」
「それは私もしましたけど・・・。」
「お前が聞くのと俺が聞くのは本質的に違う。格下の俺が格上の宇津田姫に聞いたんだ。名もない雪女ならまだ祓えた。しかし、名を持ち固定化された。いいか、よく聞け。名前とは個を表すものだ。そして、個を表されたら、それは個体だ。見た、聞いた、それに答えられた。春までは・・・、俺が山に残る。」
「それは・・・、いいんですか?」
「いいも何も他に方法がねぇ。巡る季節の度、冬になれば俺は山に籠る・・・。」
「いやいやいや・・・、それって人柱ですよね?」
「あぁ。だが、それは先輩方も幾人かは辿った道だ。」
めっちゃいい風にキリッとした顔で宇津田姫さん?を見ながら添い遂げる風な告白してるし、黙った宇津田姫さんは氷の涙を零しながら頷いている。え・・・、ここで俺って『ちょっと待ったー!』ってねるトン風に出ていかないといけないの?
お節介・・・、お節介だと分かってる。分かってるけど、それを問わずにはいられない。なにせ人一人が人柱になるか、ある程度普通に過ごせるかの瀬戸際なんだし!
「え〜・・・、狐巫女に供物を捧げる覚悟は?」
「供物?なに言ってんだマリちゃん・・・?」
「桃です。既に禁忌を犯して添い遂げる覚悟があるんでしょう?なら、婿殿じゃなくて嫁をもらいません?」
「・・・、更に禁忌を俺に犯せと?」
「カボチャでもいいですよ?その代わり、後から荒れ狂ってブリザードと言うか、スノーボールアース化しても知りませんけど。」
「俺を脅すのかよ!って、違いを知らねぇで選べと?」
「違いますよ。根本的な解決を考えるなら、添い遂げて終わりを知る必要もあるんじゃないかと。その関係性は私が決めるんじゃなくて木本さんと宇津田さんが決めるしかない。だって、私が名乗りを上げたのは巫女です。巫女は何も決めない。聞いて選択肢を出すだけ、それしかできません。」
「・・・、ちっ!やっぱりお前は狐で巫女で化け物で人だよ・・・。おい、宇津田姫!話がある!誰が嫁になる!」
「なんですか婿殿・・・、いえ!木本様!あぁ!私は宇津田姫!そうなのですね!宇津田姫と言う誰か・・・、私は宇津田姫だ!それ外は認めぬ!妾が宇津田姫なるぞ!冬の・・・、忘れられた・・・?違う!妾は!私は!今ここに!誰が!冬!閉ざす!雪!」
怖!なんかすげー荒れ狂い出して百面相してるんだけど!?って、木本さんはなんでまたそんなに冷静なの!?色々な意識が表に出ようとして、互いを蹴落とそうしつつも主体は一本のような・・・。コーンポタージュでも飲もう・・・。冷たくてちょっと悲しい・・・。
「アレは・・・、大丈夫なんですか?」
「黙っとけ。今は誰が勝つか戦ってるところだ。」




