63・世界の理への問いかけ
それからの海で遊び、辺りが暗くなってきたところで別荘に戻った。
「バーベーキューをしようよ。食材は持ってきてるから」
「いいわね」
フェリクスからの提案で、私たちはバルコニーでバーベキューをすることになった。
「ほら、オレリア。そこの肉、もう食べられるわよ」
と私は鉄板から肉をトングで掴み、オレリアのお皿に取り分けてあげた。
「ありがとうございます。ああ……クラリス様に取り分けてもらったお肉、とっても美味しいわ」
「はいはい」
適当に返事をする。
彼女はいつも大袈裟なのだ。
「フェリクスも……見てないで、いっぱい食べなさいよ。それとも、食欲ない?」
「いやいや、そんなことないよ。お腹ペコペコさ」
ニコニコと笑みを浮かべるフェリクス。
「ははは、部員が少なすぎて存続危機があったのに、今年はこうやってみんなでバーベキューをするなんて夢のようですね」
「部長、そんなこと言ってないで、じゃんじゃん食べてください。まだまだお肉はあるんですから」
「ボクは元々、食が細いんですよ。そういうモニカくんはよく食べますね」
「いけませんか?」
「いや、よく食べる女の子は好きだ」
部長とモニカさんも楽しそうにいちゃいちゃしてる。
そんな二人の様子を眺めていると、早く付き合っちゃえばいいのに! と心から思う。
「ほら! ヘルムートも! なんでそんなところで、ぼけーっと突っ立ってんのよ!」
「いや……やけに張り切っていると思ってな。まるで使用人みたいだ。その上、よく食う」
「だって食べられる時に食べないと、いつか苦労するかもしれないでしょ? 食べ物っていうのは粗末にしちゃダメ。地下牢に閉じ込められたりしたら、満足にご飯を食べることも出来ないのよ?」
「どうして、地下牢に閉じ込められる際の想定もしなければならないのだ」
ヘルムートが嘆息する。
確かに……ちょっと張り切りすぎかもしれないが、それは今日という一日が楽しいから。
いつまでも終わって欲しくない一日というのがある。
こんな日がずっと続けばいいのに……って。
きっとこんなことを考えるのは、私に死に戻り前の記憶があるからだろう。
どんなに楽しい日々でも、なにかがきっかけに崩壊する。
だからこそ、そうならないために努力するし、それまで悔いが残らないくらいに楽しもうとするのだ。
そうして私たちはバーベキューを楽しんでいたが……。
ゴロゴロ……。
そんな音が空から聞こえたかと思うと、ぽつりぽつりと細い雨が降ってきたのだ。
「どうやら、爺やの予想は的中したみたいだね」
残念そうなフェリクスの声。
「そうみたいね」
「今のところは大丈夫だけど……本降りになる前に、室内に戻ろうか。残念だけど、バーベキューはここで終わりだ」
食材もほとんどなくなっている。
じゃっかん、食べ足りない感もあるが、腹八分目にしておくのが丁度いいかもしれない。
夜はまだまだ長いんだし、室内でもやれることは多いからね。
「分かったわ。すぐに室内に移りましょう。片付けは……」
「雨がやんでからでも十分だよ。ほら、雨が降らないうちに」
みんなは名残惜しそうにしながらも、バルコニーから去ろうとする。
私もその後を追いかけようとしたけど。
くらあっ。
食材を焼いていた鉄板に背を向け、一歩踏み出しだ瞬間。
目眩と共に、不思議な感覚に囚われた。
「これは……」
どうしてだろう。
こんなことは初めてだったのに、私はこれを一度経験したような気がして、思わず足を止めてしまった。
「クラリス……?」
私の異常に気付いたのはヘルムート。
彼に声をかけられたが、私はそれを意に介さず、導かれるようにみんなと反対方向に歩いていった。
「ねえ……もしかして、私がこうなった理由を、あなたは知っているんじゃない?」
誰に言うわけでもない問いかけ。
私にだって分からない。
この『あなた』というのが一体誰なのかというのも……。
しかしこの時の私は、まるでこの問いかけこそが世界の理に迫るものだという妙な確信があった。
バルコニーからは、森林を抜けた先にある崖が小さく見えた。
そこには白くて高い灯台が聳え立っている。
私は手を伸ばし、答えを求め──。
「……っ!? 危ない!」
え……?
黒くて細長いなにかが、私に向かって伸びてくるのが見えた。
一瞬のことすぎて、なにが起こったか分からない。
気付けばヘルムートが私の体を押し──彼の米神に、闇の弾丸が突き刺さったのだ。




