43・テストの結果と魔法公団
そしてとうとう、期末テストの日がやってきた。
ヘルムートの連覇か。
それとも私、クラリスの王座奪還か。
はたまたフェリクスが悲願の一位の座を射止めるのか……といったところに次第に注目が集まっていった。
とはいえ、周囲の雑音を気にせず、私たちは各々テストに全力を注いだ。
そして、三日後……。
「やったわ!」
昇降口の廊下に掲示されたテストの順位表。
私の一位の右に『クラリス・ギヴァルシュ』という名前があるのを見つけて、振り向いてそう声を上げた。
「やったね、クラリス。一位に返り咲きだ」
「やっぱりクラリス様はすごいですわ!」
フェリクスとオレリアもそう祝福してくれる。
「くっ……負けたか」
一方、ヘルムートは悔しそうな表情。
「でも僅差だったじゃない。運がよかっただけよ」
「本当の強者には運も味方にする。それはまごうことなきお前の実力だ。もっと己を誇れ」
と声に悔しさを滲ませながらも、ヘルムートも褒めてくれた。
というわけで……今回の期末テストで、私は学年一位に返り咲き。
死に戻ったアドバンテージがあるとはいえ、相当勉強したのでこれは嬉しい。
そしてヘルムートは二位。とはいえ、本当に僅差。どっちに転んでもおかしくなかった。
「それに比べて、僕はまた三位だよ。クラリスとヘルムートにはなかなか勝てないね」
「三位も十分すごいですわ!」
とオレリアがフェリクスを励ます。
フェリクスも相当悔しいはずだけど、そんな様子を微塵も見せない。心の底から、私を祝福してくれているように感じた。
でも……死に戻った私に比べ、フェリクスとヘルムートは素の状態で、ここまでの高得点を叩き出したのだ。
死に戻り前は、フェリクスとヘルムートが成績で争っていたのは当然だったので、二人のすごさがいまいち実感出来なかった。
だけど私も頑張ってきて、あらためて二人の優秀っぷりに舌を巻くのであった。
「クラリス。次の勝負は……二学期の中間テストになるかな? 今度は負けないからね」
「ふふ、受けて立つわ。私も簡単に負けないんだから!」
「おいおい、俺を忘れてくれるなよ。三度も負ける気は毛頭ない」
そうやってお互いの健闘を讃えつつ、次のテストに闘志を滾らせていると……。
「ふんっ、呑気なもんだな」
不意に声。
そちらに視線を向けると、クラスメイトの男子が忌々しげに私たちを見ていた。
「呑気? どうしてそう感じたの? ──ケイシー」
と私は彼──ケイシーの名前を呼ぶ。
ネコナシュリア学園の制服を、きっちりと着こなしている。
すらっとした体型で、眼鏡をかけた美形男子。前髪が長くてちょっと鬱陶しいのが、もったいないと感じるくらい。
その姿からは理知的なものを感じさせる。
しかしいつも他人を見下しているような態度を取るから、クラスメイトからの評判はいまいちだったりする。
「なに、他意はない。しかし……君たちみたいな、仲良しこよしの集団に、僕が劣っているのは信じられないことだ。特に……」
そう言って、ケイシーは私たちに指を突きつける。
「君にはね──フェリクス」
「僕かい?」
急に名前が上がって、フェリクスは困惑顔だ。
「あーあ、君はいいねえ。僕に勝って良い気になっているのかい? だが、たかが三位でそこまで威張れる気持ちが分からないけど」
全然、威張ってないように見えるんだけど……。
しかしフェリクスは少したりとも表情に不快感を滲ませず、淡々とこう口にする。
「威張っているつもりないよ。そう見えたなら申し訳ない。僕は自分の至らなさに反省するばかりさ」
「ふんっ……また心にもないことを言っているな。だが……」
とケイシーは私たちに背を向ける。
「あまり調子に乗るなよ。いつか足元をすくわれるぞ」
最後にそう言い残し、彼は教室から出ていってしまった。
「……一体、なんだったのかしら?」
「さあ?」
フェリクスが首をひねる。
「ただ……何故か彼は僕に対抗心を燃やしているようでね。こうして、しばしば喧嘩を売られるんだ」
「そうだったのね」
それは初耳だ。
死に戻る前はどうだったか知らないけど……多分、同じだったと思う。
しかしフェリクスはあまり他人のことを嫌いになったりしない。敵意を向けられているとはいえ、ケイシーに対しても負の感情を抱いていないんだろう。
だから私も二人の関係性に気付かなかったし、そもそそも気付こうともしなかった。
「失礼な男だな」
「失礼さにかけては、あなたも負けてな──」
「なんか言ったか?」
「いいえ」
首を横に振ると、ヘルムートは不服そうに腕を組んだ。
「あいつ……えーっと、名前はなんと言ったか?」
「ケイシー。同じクラスメイトよ? 学期末にもなって、どうして覚えてないのよ」
「興味がない人間の名前など、覚える気にもなれん。人の記憶というのは有限だ。あんなヤツのために、俺の記憶力を使うのはもったいないだろう?」
仲良くなってきて、こういうところが目立たなくなってきたけど……そうだ。そもそも彼はこういう男なんだ。
入学式で彼にすぐに名前を覚えてもらった私は、かなり特殊な例だったみたい。
「で……そのケイなんとかは何者なのだ?」
「彼の両親は、二人とも有名な魔法使いなんだ。ルウォル魔法教団って言ったら、殿下も分かるんじゃないかな?」
私の代わりに、フェリクスが答えてくれる。
「なに? ルウォル魔法教団か。魔法の保全に努め、魔法使いのさらなる発展のために作られた組織。最近では光魔法と闇魔法の研究や、新しい魔法の開発も行っているらしいな」
「うん。そして彼の両親は、そのルウォル魔法公団の団長と副団長。ケイシーは魔法公団の次期後継と言われているね」
「なるほど……だから、あんなに偉そうにしているのか」
合点が付いたヘルムート。
ルウォル魔法公団は、この国で最も力を持った魔法公団だ。この中から、最強の魔法使いとも言われる宮廷魔導士が何人も排出されている。
ロレッタの光魔法の素質を見抜き──不完全とはいえ──彼女に光魔法を使えさせるようにしたのも、魔法公団の成果らしい。
その長は社会貢献度から莫大な富と権力があり、数代前から『魔法爵』という特殊な爵位を授かっている。
この魔法爵は公爵位とほぼ同等の立ち位置らしく、その影響力は絶大。
だからだろう。
彼らには、自分たちが今の魔法文明を築き上げてきたという自負と誇りがある。
国中の魔法使いに影響力が有し、そのために王家ですらも彼らの手綱を完璧に御することは難しい。
そのため公団の上の方の立場の人間は、他人に尊大な態度を取る者もいる。
ヘルムートが「偉そう」と言ったのも、それが原因だ。
「次期後継として、彼も期待されているはずだよ。それなのに、ヘルムート殿下だけならともかく、僕やクラリスにも成績で負けているだなんて……許され難いんじゃないかなって」
ちなみに……中間テストの際、ケイシーの成績は学年四位だった。一位〜三位は私たちだというのは分かっているけど、彼も中間の時と同じだったんだろうか?
まあその疑問をぶつけようにも、絶対に怒るだろうから聞けるわけがないけどね。
「ケイシー様……ちょっとわたくしは苦手ですわ。それにずっとクラリス様をチラチラ見てますし」
震えた声でオレリアが言う。
「え、私?」
「気付いていなかったのですか? 授業中でも、よくクラリス様の方を見ているではないですか」
「うーん、あなたの勘違いだと思うけど……」
別に見られるような理由はないしね。
「クラリスはキレイだからね。見惚れていたかもしれない」
「そうだ。お前はもうちょっと、容姿の良さを自覚しろ」
「ほ、褒めすぎよ」
私も貴族だからキレイな方だと思うけど……貴族が通うネコナシュリア学園の中にあっては、そこまで目立つ方じゃない。
なのにケイシーがわざわざ私だけを見るのは、不思議を通り越して不気味だ。
というようなことを三人に伝えると。
「クラリスが目立つ方じゃない?」
「クラリス様、それは間違っていますわ」
「はあ……先が思いやられる」
三人に揃って、否定されたのだった。
そして時は流れ、帰宅前のHR。
そこまで露骨ではないが、みんなは早く帰りたそうにしている。成績表も出てほっと一安心で、気分も高揚しているんだろう。
「期末テスト、おつかれさまでした。納得のいく成績だった者は気を引き締めて。納得のいかない成績だった者は二学期に挽回しましょう」
と担任がみんなに向けて、さらにこう続ける。
「ですが……二学期の前に、学期末には大事なことが待っています。フェリクス公爵子息、なにか分かりますか?」
「はい。国王陛下による学園視察ですね」
フェリクスがそう即答する。
みんなはそれに対して、表情を変えない。このことは事前に伝えられていたからだ。
しかし私はそれを聞き、自然と気分が沈んでいくのを感じた。
──その日に、あの事件が起こるのよね。
そうなのだ。
ヘルムートが学園生活を大きく制限され、彼が心を閉ざすきっかけにもなった事件が。
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