4・おしどり夫婦
「クラリスがリタに『ありがとう』と言った!?」
「パパ! これはすごいことよっ! 今日を『ありがとう記念日』と名付けて、急いで領内に周知を徹底しなくっちゃ!」
「や、やめてーーーーー!」
リタから話を聞いて。
年甲斐もなくはしゃぎ、勝手に話を盛り上げる両親を私は必死に止めていた。
そんな記念日作られたら、恥ずかしくて街中を歩けない!
もうっ……! 感動の再会なのに、こんなことをされたら涙も引っ込んじゃう!
生前の両親よりも少し若い。まあそれも当然で、ここは八年前だからなんだけど。
なんにせよ、二人の元気そうな姿が見れてなによりだった。
……感動の再会というわけにはいかなかったけど。
「うむ……クラリスがそう言うなら、記念日のことは一旦保留にしようか」
「残念ね」
保留じゃダメだ。未来永劫考えないで欲しい。
お父様が残念そうにしているのを、リタはニコニコと後ろから眺めていた。
「記念日のことは残念だけど、クラリスがそんなことを言ってくれて嬉しいわ。なにかあったの?」
「と、特になにもないわ。ふと思っただけ」
まさかあなたの娘さんは、八年後に冤罪にかけられ処刑にされますよ……と言えるはずもない。
「それに……それだけじゃないわ」
わざわざ宣言する必要はないと思っていた。
しかしこの調子だったら、これからなにかをやる度に記念日を作られそう。だからここでまとめて言っておくのがいいだろう。
「これからは勉強も頑張る。私は女だから跡取りになれないかもしれないけれど……伯爵令嬢として、恥ずかしくないように生きるわ。これは私なりの決意表明」
「「…………」」
お父様とお母様が目頭を抑える。
「おお……っ、クラリスがそんなことを言ってくれるなんて……」
「クラリスちゃん、今までお勉強大嫌いだったもんね」
「うむ。しかし伯爵令嬢としての自覚が出てきて、私は嬉しいよ。クラリス、大人になったね」
「そうだわ。今日という日を『クラリスちゃんが大人になった記念日』に制定して……」
「だから記念日はダメだってば!」
ほんと……どうしてお母様は隙あらば記念日を制定しようとするのだろうか。
だけどこうやって仲睦まじく、私のことを話している二人を見ているとほっこりする。
おしどり夫婦という言葉は二人のためにあるんじゃないだろうか?
そう思えるくらいに、お父様とお母様の仲は良好だった。
最初は政略結婚だったそうだけど、徐々に二人は惹かれあっていき、今ではご覧の通り。そんな両親に私は憧れていた。
だからこそ、二人の期待に応えようとするあまり気が張って、『悪役令嬢』と呼ばれるに至ったのかもしれない。
きゃっきゃっしている二人を見ていると、『真実の愛』という言葉が頭に浮かんでくる。
『クラリス、すまない。僕は真実の愛を見つけたんだ』
これは婚約破棄された時に、元婚約者から言われた言葉だ。
それを思い出すと、胸が痛くなってきた。
いけない……忘れましょう。思い出しても辛くなるだけだから。
「こほん。それよりもクラリス」
お父様は咳払いを一回してから、こう口を動かす。
「明日はお茶会だね。準備は出来ているのかい?」
「お茶会?」
「おや? もしかして忘れてたのか? ダメじゃないか。明日はアシャール公爵家が主催するお茶会だろう? そこにお前も参加することになっているじゃないか。勉強を頑張るのもいいけど、まずは目の前のことだ」
「あ」
アシャール公爵家でのお茶会──。
その言葉を聞いて、私はさーっと血の気が引いていくのを感じた。




