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憎まれ悪役令嬢のやり直し 〜今度も愛されなくて構いません〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素


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30/74

30・反省しない女

「君は……ロレッタ?」


 彼女の突然の登場に、戸惑いを隠し切れないフェリクス。


「はいっ! ロレッタです! 今日はフェリクス様に、どうしても渡したいものがありまして!」


 ロレッタがフェリクスを見上げ、そう声を上げる。


 彼女は両肩を出した、妖艶なドレスに身を包んでいる。

 少女と大人の相反する魅力を、その身に二つとも宿らせていた。


 こいつ……っ!

 今まで姿を現さなかったのに、よりにもよってこのダンスパーティーでなの!?

 どこまで私の邪魔をすれば気が済むのよ!


 自然と警戒し、私はロレッタの前に立ちはだかろうとするが、


「心配しないで」


 それをフェリクスはさっと手で制す。


 そして私を守るようにして、ロレッタに厳しい視線を向ける。


「どういうことかな? 先日、僕には関わってくれるなと君には言ったはずだ。それなのに、この楽しいダンスパーティーで声をかけてくるとは……それがどういう意味なのか分かってる?」


 彼にしては珍しく、その声からは静かな怒りを感じ取った。


 しかしロレッタは怯まない。


「もちろんです。ですが、あんなのでフェリクス様に嫌われたままなのは、わたしも納得出来ないんです」

「あ(・)ん(・)な(・)の(・)?」


 フェリクスの米神がピクリと動く。


 彼がこんなに怒っているのを見るのは、前世から思い出しても初めてかもしれない。


「僕は君に警告したんだ。君がそれに納得するかしないかは、この際問題じゃない」

「で、でも……っ! どうしても、これを……」


 満を持してという感じで、ロレッタが後ろで組んでいた手を前に持ってくる。

 その両手にはとんでもないものが載っていた。



「親愛の指輪です! 仲直りの証として、どうか受け取ってください!」



 …………。


 はい?

 この子、正気?


「…………」


 フェリクスもロレッタのしでかした行動に、怒るというよりも唖然としている。


 そりゃそうだ。


 ヘルムートから聞いていたが──先日の一件、フェリクスは彼女との縁を切った。

 話しかけてくるだけでも、十分喧嘩を売っているというのに……今はダンスパーティー中なのよ? しかも婚約者と踊っている最中なのよ?

 それで仲直りの証だと言って、指輪を渡すバカがどこにいる。


 周りでことの成り行きを眺めていた、他の生徒たちも同じことを思っていたようで、



「あの子……バカすぎない?」

「いくら平民で貴族の常識を知らないとはいえ、これは酷すぎる。非常識だ」

「婚約者とのダンスを邪魔して、親愛の指輪? 自分勝手すぎるよ」



 と彼女のしでかした愚行に、ひそひそと話をしている。


 だが、その言葉はロレッタの耳に届いているはずなのに、彼女はフェリクスを真っ直ぐ見つめたまま。

 自分の行いが絶対に成功すると確信しているのかしら?


 しかしフェリクスは首を横に振り。


「……悪いが、それは受け取れない。クラリスとの大事なダンスも邪魔されたしね。このことは公爵家として、君と王家に正式に抗議させてもらおう」

「どうしてもですか?」

「ああ、絶対に受け取らない」


 きっぱりと断るフェリクス。

 その言葉には呆れの感情が含まれているように思えた。


 ……いやー、私もこれは呆れるしかないわ。私の出る幕がないじゃない。こんなの、誰が見たってロレッタが悪いに決まっている。

 前世じゃ、もっと狡猾だった気がする。しかし今の彼女は追い詰められ、焦っているようにも感じた。


 一体、前世と今のロレッタではなにが変わったのだろうか。


「…………」


 ロレッタの表情が一転。

 可愛らしい笑顔だったのに、急に真顔になった。



「……あっそ。だったら、もういいです」



 くるっと踵を返すロレッタ。


 あら?

 意外とあっさり引き下がるわね?


 そのことに違和感を抱いていると。


「後悔しないでくださいね! その女より、わたしの方が絶対にいいんですから! まあ──もうそんなこと、直に考えることも出来なくなると思いますが」


 とロレッタは最後に言い残して、その場を走り去ってしまった。


 そしてその際。


「あ──」


 フェリクスの口から声が漏れる。


 豪奢なドレスを着て、高いヒールの靴を履いているのに、いきなり走り出したためか。

 ロレッタが右足に履いている靴が脱げてしまった。


 それにより彼女は一瞬バランスを崩すが、すぐに持ち直して再び走り出す。

 脱げた靴を意に介している様子は皆無だった。


 フェリクスはその靴を拾い上げる。

 ロレッタを呼び止めようと逡巡するが……やめる。彼女が立ち止まらない以上、気にかける必要はないと判断したためだろう。


 嵐のような出来事を前に、ダンスホールにいるみんなは言葉を失っている。

 ただ、ダンスホールには甲高いヒールの音が不気味なくらいに響き渡っていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 片足が脱げている状態で、ヒールの音をさせて走り去るのは、かなり難しいと思うのです。 ドレスに見合ったヒールですと、低い物ではなさそうですし。 1度ご自分で確かめてみると分かり易いかと。…
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