01-3
ナナは夜道を駆ける。幾分回り道になったが、ここから寮までおおよそ4キロル。
長い山道は少々堪えるが、きついのは相手も同じ。だが重い荷物というハンデを背負った男は、意外にもナナの速さにも付いてこられるようだ。息を切らしながらも執拗に追いかけてくる。
「はぁはぁ、ちょ、ちょっとで済むから!すぐ終わるから!待ってくれ!」
男は非常に情けない言葉を発する。その言葉、息遣い、まさに変態そのものだ。無駄にイケボなのもナナの癇に障った。好みの声で、そんな言葉聞きたくなかった――。
(やっと理想の彼氏を見つけたと思ったのに!どうしていつもこうなの!)
「あっち行け!この変態!」
ナナは男の旅行鞄をつかむと、大きく振りかぶってぶん投げる。男はあわてて、坂道を転がった荷物を追っていった。これでしばらくは撒けるだろう。
男運のなさを呪いながら、ナナは涙ながらに走る。しかし、ナナの不幸はこれが始まりに過ぎなかった。
「お姉さんたちも、鬼ごっこしているの?」
どこから来たのだろうか。一人の少年が寮までの一本道を遮った。
彼の淡い銀色の髪の毛と、女さえも羨むであろう長い睫毛。そして、それらを内包する柔和な輪郭は、月の光を受けてほのかに輝いていた。そして、肩から上腕二頭筋にかかる引き締まった小ぶりの筋肉と乳首は……ん?乳首とは?
少年の美貌よりおかしなことに気づき、ナナはそいつを二度見する。山道に、海パン一丁。上半身裸の、変態。
「2人目の変態!?」
「変態、とは失礼だね。傷ついちゃうな。」
少年は拗ねたように演技する。そう、演技。外見は子供の、だが、言動は子供をまねた大人のような、不自然さ。そもそも、こんな時間に少年一人で歩いていることも不自然なのだけども。
いったい何が目的なのだろうか、と警戒する。とはいっても変態の目的といったら一つしかないが。
背後からは別の変態も迫っていることもあり、引き返すことはできない。ナナは覚悟を決めると近くの木から小振りの枝を折って拝借した。手ぶらよりこれがしっくりくる。
そんな好戦的な態度を示すナナに対して、少年は一切動揺する素振りも見せず、木の枝を構えたナナをじろじろと眺める。
「ちょっと魅力は足らないかな。うん、決めた。お姉さんは僕の末席に加えてあげる。」
「なっ!?」
こいつは何を値踏みしているのだろうか。ナナは町で男を品定めしていたことも忘れ憤った。
「誰が末席よ!あんたこそ失礼じゃないの!」
「嫉妬かい?それは失礼した。だけどね、僕の隣はもう埋まっちゃったんだ。紹介するよ。挨拶してごらん。」
少年が声をかけると、闇夜から人影が現れた。それは、ナナが最も見知った人物であった。
「……ミユ?」




