01-1
聖金星女学園は、地域密着型の超戦闘ミッション系冒険者養成学校だ。全寮制のこの学園では、生徒達は冒険に関する様々なことを学び、時には依頼を受け、報酬を手にしながら生活をしていた。
学科は、大きく分けて二つ。戦士科と魔術科である。戦士科は接近戦闘を主に、魔術科は戦術や魔術といった後方支援を主に学ぶ。入学した生徒は、それぞれの適性に合わせて振り分けられた。
設備は、大都市の闘技場にも負けない演習場やら、近距離、遠距離を目的とした訓練施設、魔法研究所。学習以外にも、食堂、ダンスホールなど。ダンスホールなんてどうしてあるかは不明だが、食堂のジビエを利用したランチメニューは、味もさることながら値段も手ごろで、合格点。だめ押しには、リクリエーション的な大型温泉施設なんてものもあって、文句もつけようもなく、ほぼ完璧。
だが、この学園には、大きな欠点が一つあった。それは、周りに男がいないこと――男女の出会いというものがないのであった。
「はぁぁ、どこかにいい男はいないかなぁ」
放課後、友人のミユと近くの町まで男漁り……もとい、散策に来ていたナナは大きなため息をついた。ただいま、彼氏いない歴を〇年、更新中。
学園のあるイーストエリアは農業経済が主体の小さな田舎町であり、年頃の男たちは中央に出稼ぎに行っていたり、残っていても既婚者だったり。残る男も、卒業を前に焦った先輩達による、いささか問題のある強引な手法で狩りつくされていた。
そんなこともあってか、町で囁かれている生徒たちの評判は芳しくない。「町中を徘徊する男食い」だの「現代に蘇るアマゾネス」など、そんな不名誉な通り名がつけられている。これが男性関係の疎遠の一員にもなっているのだが、当のナナたちは知る由もなかった。
改めてミユをみる。後衛職だからできる、腰までかかるロングヘア―に、男受けしそうな幼い顔立ち。これが男からしたら、保護欲をそそられる、のだろうか。ミユは少し見られてるのに気づいたのか、少し髪を触る。
一方ナナはというと、どこからどう見ても普通。……うん、普通、である。何も特徴がない顔立ちは化粧したらそれなりに見られるものの、その美しくも鍛えられた筋肉はごまかしようがなく、服の隙間から、その武骨さを無慈悲に覗かせる。
(神様って不公平よね。)
顔も、魔法も、生まれつき。努力、なんて嘘っぱち。身分だって、貴族のもとに生まれるか、宿屋の娘として生まれるか。人類平等とかいうけれども、スタートラインが違う。努力したところでどうにもならないものがある。
と、溜息をついても仕方ない。ちょっぴりダークな気持ちを飲み込むと、そんな人生を変えてくれるような素敵な男性を捕獲……出会えるようなことを願ってひたすら町を練り歩いていく。が、むなしく時間だけが経過していき、やがては賑やかな人通りも消え失せ、今日も一日、無駄に日が暮れていく。
すっかり諦めかけてた時――
「ねえ、あれ見て。なんかよくなくない?」
ナナはミユに耳打ちをする。
歳は30代前半?後半かもしれない。夕焼けに映えるシルエット。遠目からでもよく見える、端正な顔立ち。足元にある旅行鞄は、旅行者だろうか。だったら、先輩たちの毒牙にかかってない可能性は大きい。目深にかぶった帽子とトレンチコートは、この暖かい季節にはちょっと合わないかもしれないけれど、そんなことは、彼の高身長に似合いすぎて、特に気にはならなかった。
「うーん、ちょっとおじさん過ぎない?」
「ミユがショタ好きすぎるのよ!」
なんて、ぼそぼそ話してると、男は二人と視線が合った。男は恭しく頭を下げる。
「失礼ですが、お嬢様方」
もしかして、ナンパだろうか?バリトンの利いた声に、ナナはちょっと緊張して硬くなる。
「なんでございましょう?」
うっかり変な敬語が出てしまったが、ナナは自分が出せる中での最高級の笑顔を振りまくと、男はこう答えた。
「唾を……。唾液を譲ってはくれないだろうか?」




