寄り道 暫定リーダーとは シプリ先生の授業より
聖金星学園には物理的な人数制限による区分を除いて、クラスや学年といった階級の概念がない。これは、冒険者には階級がないことに由来する。冒険者は、種族や年齢、性別といった隔たりがなく、その場ですぐにパーティを組まなければならないからだ。
冒険者は、いかなることがあっても動じてはならない。少しの判断でも遅れれば、パーティ壊滅の危機につながる。それを避けるために、冒険者はいかなる状況でも常に優れたリーダーの元で指示に従わなければいけない。しかし、冒険は危険がつきものである。リーダーが戦闘不能に陥った場合、いったい誰が次のリーダーに任命されるのか。
暫定リーダーとは、リーダーが特に指定されてなくても、命令系統が乱れないように作る仕組みである。では、誰がリーダーとなり命令権を持つのか。賢者シプリ―の授業ノートを引用しながら解説するとしよう。
・キャラクターシートによるパーティ分析と能力確認法
人の能力は様々であるが、パーティを組む際に利用する能力分析の内、よく知られているのが、体力、筋力、魔力の三分類法、それに素早さ、知力を加えた五分類法。そして信仰心やら運の良さなどといった多分類法であろう。
今回はリーダーの選出なので知力を加えた五分類法で行うとする。
まず、一般平均を10とした、生徒たちから各々の能力を提出してもらう。
ナナ 体力 16 筋力 17 魔力 7 素早さ 12 知力 10
ミユ 体力 10 筋力 8 魔力 16 素早さ 12 知力 17
ムギ 体力 18 筋力 18 魔力 6 素早さ 10 知力 12
ニニ 体力 13 筋力 13 魔力 12 素早さ 18 知力 2
(なお、上の表は自己申告も含む生徒たちによるものであるため、実際の能力とは異なる場合があり注意が必要である)
、
表の内、知力が高い順にリーダーが設定される。万が一リーダーがいなくなった場合は次の知力が高い者が自動的にリーダーとなる。つまり、リーダーが特に決められていない場合、この表ではミユが暫定リーダーとなり、第二候補はムギとなる。
これが五分類法における暫定リーダー決定方式である。
※以下はその際行われたシプリ先生による授業の様子だ。
「というわけで、今回の授業は5分類法によるシート作成です。生徒各人このシートに書き込んで出来た順に提出してください。」
シプリ先生に1人の生徒が質問する。
「先生、体力とか言われてもわからないんですが。懸垂とか1分間に何回出来るかとかならすぐ記入できますが。」
「そうねぇ、ではあなたに聞きます。懸垂は冒険にどれくらい役に立つと思われますか?」
「すいません、わかりません。」
「そう。懸垂が何回か、とは筋力を表す一つの指標でしかありません。複数の指標が絡み合う冒険者とってはこの場合どうでもいいんです。なので漠然とで構いませんよ。欲しいのは比較です。」
自分の評価。漠然ととは言うが、これが割と難しい。ナナはニニに声をかけた。
「ニニは書けた?」
「知力というものがわからないガ、すぐ書けたのダ。もう提出するゾ。」
「へー、かけたんだ、見せて。」
「いいゾ?」
紙には数字ではなく、蚯蚓が這いつくばたような絵が描かれてあった。
「なにこれ。」
「オーガ虫なのダ!」
ニニが胸を張る。そうじゃない、ここは数字を書く欄なんですけど。
「そもそもオーガ虫ってなによ。」
「オーガ虫、強いんだゾ!」
ニニは手で角を作り、頭にくっつけて示した。
「つのつき虫のことかもしれないわね。」
ミユが考察する。つのつき虫とは中型の虫系モンスターである。地域によって呼び名が違うのかもしれないし、別タイプの進化型かもしれない。
「この魔力の欄は?」
「イガイガ草だゾ。ナナは知らないのカ?むっちゃくちゃ苦いんだゾ!」
ニニは舌を出して苦そうな表情を見せた。ナナはニニのシートをひったくり、適当に数字を書きなぐった。
「これでいいわ。知力の欄も書いてあげたわ。ニニは2ね。」
「わーイ!ニニは2!」
ニニは喜びの舞をした。完成した記念だろうか。
「それは酷いんじゃないかな。ニニはもうちょっと賢いと思うけど。」
「シプリ―先生もいってたじゃん?適当でいいって。」
「それはそうだけど、2じゃニニちゃんがかわいそうじゃない?4ぐらいはないかな。」
それでも十分酷いが、当のニニは全く気にした様子もない。
「でも喜んでるよ。」
「それもそうね。」
記入については深く考えない方が正解なのかもしれない。気を取り直して、記入作業に戻ろう。
さて、ナナの腕前は戦士科の中でも上位に当たる。しかし、最強というではない。
「体力や筋力は18ぐらいあると思うんだけどどうかな。」
「戦士科の事はよく知らないから、何とも言えないわね。」
体力と筋力をひとまず18と書いておく。
「知力ねぇ」
ナナは人並みを自負しているが、最近ちょっと自信がない。おそらく9…いや、10と書いておこう。適当でいいんだから。
「ミユさ、これ嘘をついたらどうなるの?」
「適当っていってたから嘘をついてもいいかもしれないけど、おそらくパーティ配属やポジションにも関わるから正直に書いたほうがいいわよ。」
なるほどね、パーティメンバーの決定に使われるのか、とナナは想像する。嘘をついて集まったら全員前衛でしたとかありそうである。見えを張るのはほどほどにした方がよさそうだ。
素早さとは何だろうか。足の速さなら一般人より早いが、寝起きからの着替えは遅い方である。ここは戦士っぽく12でいいか。
さて、魔力についてはどうだろうか。人並みが10とは言うが、人が全員魔法を使えるわけではない。魔法の素質を持つ者だけが許されるともいわれるが、訓練さえ積めば誰でも魔法は使えるという話もある。この作業は考えるのが苦手なナナにとって、途轍もなくめんどくさいものであった。
「ねえ、ミユ。手軽に能力が見れるような便利な魔法ってないの?ステータス!とかいってさ。」
「そんなのあったら敵分析も試験もいらないわよ。」
ナナのユニークな話にミユは笑った。
「魔力の欄、ミユはなんて書いたの?」
「16。」
かなり控えめな数字である。ミユはもっと強いと思ったんだけど。
しかし、ナナは魔術科の事はよく知らない。もしかしたらミユより強い人達がいるだけかもしれない。
ナナはミユの影響もあって、戦士科の中では魔法の知識は少しあるつもりだ。5ぐらいにしておく。
これで完成である。改めてシートを見てみるようか。
体力 18 筋力 18 魔力 5 素早さ 12 知力 10
「これじゃまるで筋肉女じゃない!」
ナナは少し訂正を施して提出した。




