第15話 - 3 這い寄る陰謀 ~女子のショッピングが終わるのを待つ二人
「なあカリム、僕たちは今、何をしているんだ?」
「……女子のショッピングが終わるのを、アイスを食べながら待っているんじゃないか?」
「そうだよな。僕も、そう考えていたところだ」
トールとカリムは二人、ベンチに掛けてボーっとしていた。それぞれの手には、コーンの上にアイスがダブル。天気が良くほんのりと暖かい、穏やかな午後であった。
ここオーシア最大のショッピングモールは、祝日とあって賑わっている。家族連れ、カップルの姿なども多い。
当初、今日はメアリー、シンシアと剣術の稽古をするはずだった。教室で聞き付けたカリムが加わり、待ち合わせ場所でメアリーと合流して、何やらメアリーがパニクって、何故かシンシアと意気投合して、何だか二人に付いてきたらショッピングモールで、退屈そうにしていたらアイスを手渡されて、このベンチに座らされて、今こうしている。
うーん、メアリーとの稽古と立ち合い、楽しみにしてたんだけどな~。
「……な、なあトール」
「うん?」
何やら、カリムの様子がおかしい。明らかに、緊張が伝わってくる。話し難い何かを、打ち明けようとでもしているのだろうか?
「お前、よくシンシアと一緒にいるよな。……付き合ってるのか?」
「あ、え、付き合ってるって……」
「どうなんだ!?」
よく解らないが、カリムの気迫が凄い。これは正直に、ちゃんと話さないと収まらない。
「付き合ってるっていうか、剣術の稽古相手だよ。帰りにお茶をしたりとかはあるけど、恋人同士っていう感じじゃないよ」
……身を乗り出し、ジーっとカリムはトールの顔を凝視する。少しの表情の揺らぎも、見逃さないつもりだ。
「何だよ!? ちょっと近い!」
アイスクリームを手にした男性二人が、顔を近づけて見つめ合っている。その客観的な状況に、トールは気付いた。
「ああ、悪い! では付き合ってはないんだな?」
「ああ」
「それで、気持ちはどうなんだ? お前はシンシアを好きなのか?」
完全に、トールは気圧される。随分と、グイグイ来るな~。
「そりゃシンシアはカワイイし、親切で優しいし、前向きに頑張っているところはいつも感心して尊敬できるし、一緒にいて楽しいし……、でも正直、よく解らない」
「自分の気持ちが、か?」
「絶対に気になっているのは確かなんだけど、あんな女の子が側にいたら、男なら誰だって気になるだろ? それを好きと呼んで良いかどうか、迷うところだよね……」
こいつ、面倒くせーなー! と、カリムはイラっと来た。それはもう、好きで良いんだよ!
「シンシアの方は、どうなんだ? お前のことが好きなのか?」
「……多分、違うと思う。そうだったら嬉しいと思ったこともあるけど、僕だからな……」
「いや、お前は普通にモテるだろ!」
「一時期は、女子から声をかけられるようになって、これはモテ期が来たー! と思ったけどさ、あの一時期だけだったしなぁ」
それは、女子最強のシンシアが目を光らせているからなのだが、トールが気付けるはずもない。
「それはそうと、何でそんなに根掘り葉掘りと訊いて来るんだよ?」
「あ、あの、その……」と戸惑いの後、カリムは覚悟を決める。「俺がシンシアを好きだからだよ!」
「え、本当!?」
「ああ!」
トールは心底、驚いた。そっか、カリムはシンシアか……。ここで、トールは葛藤する。友人として、カリムにはその恋を成就してもらいたい。しかしシンシアを他の男に取られるのは、正直、良い気はしない。しかし好きだと確証を持てない自分には、何も言う権利もない。しかし自分にとってシンシアは……、しかし、しかし。
「……カリム、僕はどうしたら良い?」
今までカリムが見た中で、このトールは最も情けない顔をしていた。
「知るかよ!」
カリムはトールの頭に、右拳を乗せた。乱暴にグリグリやりながら、
「自分の気持ちも解んねーような奴が相手じゃ、ライバル宣言も応援もできねーじゃねーか!」
「痛い! 痛い! 仕方ないだろーが!」
予告: 第16話 シンシアとメアリー、友達になる
「……でもそれを微塵にも鼻にかけなくて、ずっと穏やかで優しいトールのままでいてくれて。多分ずっと気になっていたと思うんだけど、気付いたら好きになってた」
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