第15話 - 2 這い寄る陰謀 ~身の丈に合った暗殺
セイ=クラーゼンは、世界統一国家思想の持ち主である。毎年、大量の餓死者を出すような貧しい国の存在。歴史上、せいぜい数十年程度が限界の戦争のない平和な世界。こうした問題の根本に、世界が複数の国家で分断されている状態があるという立場だ。
人間は常に、利害と感情で対立構造を生み出す。富の不均衡がある限り、対立は決してなくならない。富める者は永劫にそう在り続けようとし、持たざる者は奪ってでも富を得ようと考える。またそこに、富める者同士の争いも加わる。奪い合いを是とする世界では、先に奪って相手を弱らせることが、生存戦略として合理的に働く。
この疑心暗鬼の世界を変えようと、歴史上で多くの人物が力を尽くして来た。国際条約の締結、国際的な協調体制の構築、文化交流など、一定の成果は上げられたと評価できる。しかしそれはせいぜい、数十年の非戦争状態を作るのが関の山だ。対立構造は必ず深刻化し、最終的には戦争という力づくでしか解決を図れなかった。
利害と感情による対立は、人間である以上は避けられない。しかし世界の勢力図であれば、変更させられる。歴史上も今も、最も強い単位は国家である。その国家と国家とが争えば、強制的に止めさせられる術がない。そうであるなら、国家という単位を世界で一つとし、国家同士の対立を無くせば良い。国家内部の団体と個人との対立構造であれば、国家の介入によって容易く解決できる。
セイ=クラーゼンにとって、ジャミル案は手段こそ違えども、目的という点では共通する部分も大きい。しかし逆に、ジャミル案は脅威でしかなかった。確かにジャミル案が実現したなら、世界は協調を強め、戦争からも遠ざかるであろう。けれども、国家と国家から対立構造を消滅させるには至らない。
かりそめの世界協調と平和は、世界統一国家の実現を遅延させるもの。一国でもその調和を拒否したなら、容易く瓦解するもの。甘く正しいだけに、それは深刻な悪であった。
ユリア=テロニクワ王妃とセイとの間で、ジャミルは共通の敵である。裏の人物と過度な接触を持ちたくないユリアの事情と、セイのある思惑が一致した。ユリアの後ろ盾を得たセイは、コードネーム:ジョーカーとして、ジャミル暗殺の任に就いていた。
「セイよ、お前には失望したぞ」
「申し開きの言葉もございません」
セイの表情に、苦渋が滲む。
「……だが、フレイとは、そこまでの相手であったか?」
「はい」
「そうか……」
と、ユリアは天を仰いだ。
「一先ず、ジャミルはもう良い。またの機会を探れば良かろう」
それが自分への許しだと察し、セイは深々と頭を下げた。
「ではお前に、身の丈に合った任務を与えてやろう」
頭を上げ、セイは目を輝かせた。こうも早く、汚名返上の機会を頂けるとは……。
「確か、スペードを殺した学生が、お前の学校にいたな?」
「はい、面識はありませんが、トールと言う者です。先の獅子王杯で準決勝まで勝ち上がったとか」
「王立騎士団に加入でもされたら、また少し厄介になる。近いうちに、殺して参れ」
冷たい声が、セイにトール殺害を命じた。一瞬、傍らに立つコーネルが眉をしかめるが、慌てて真顔に戻す。二人には気取られていない。
「……はい」セイの承諾には、やや間が置かれた。「一つだけ王妃様に、お願いがございます」
「うん? 申してみよ」
「私は彼という人物を知りません。殺す前に、彼を知りたいのです」
「知って、どうする?」
「可能であるなら、仲間に引き入れたく……」
「まあ、よかろう。やってみなさい」
ユリアは、陰謀に手を汚す人間であっても、若者は若者なのだなと感じた。ジャミルを殺したところで、世界統一国家など訪れぬ。妾の後ろ盾が欲しいのだろうが、何をどうする気なのか……。もしやとも思うが、世界統一を目指す戦争など、正気ではないわ。
立ち去るセイの背中を眺めながら、コーネルは思った。歴史の中で、自分は名も残らぬ脇役に過ぎない。ユリア=テロニクワ王妃付きの脇役として、その責務を果たすだけだ。
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