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46 戦いは準備が9割



 王様だっけ?

 アンタがそいつら殺してよ。


 悪逆非道だからこそ言えるのか、王様の性格を知らないからこそ言えるのか。

 どちらにせよあまりにも冷酷な言葉に、王様が震えあがった。キッカさんの服の裾(すそ)をぎゅうっとつかみ、それでも必死に声をしぼりだす。


「わ、わたしは魔法が使えません。ただの魔法少女ならともかく……魔王や魔女を殺すなんて、できるわけ……」

「そうよ! どうしても始(し)末(まつ)をまかせたいなら私が……!」

「えー? 魔法が使えないから言ってるんでしょー? アンタが魔法でそいつら殺すと見せかけて私ちゃん襲うかもしれないんだからさぁ」

「キッカはそんな人じゃありませんっ! ……それ、に、わたしも……我が身可愛さに駄(だ)々(だ)をこねていません。先ほども言ったように相手は魔王。魔法もなしにどうやって殺せと……」


「――なら、毒は?」


 不意に、思ってもみないところから声が降り落ちた。

 間一髪のところで襲撃を逃れ、民家の屋根で様子をうかがっていたリリィだ。

 ディナに跨(また)がり、エリザヴァトリへの敵(てき)愾(がい)心(しん)を隠しもせずに、颯(さっ)爽(そう)と広間へ躍(おど)りでる。


「三日三晩、月光にさらした〈猛毒草(ベラドンナ)〉なら、どんな魔獣だろうと三分以内に殺せる。非力で魔法が使えなくても、相手に飲ませさえすればいい」


〈猛毒草〉による毒殺。

 ぶっちゃけると、これはエリザヴァトリを倒すための決定打だ。だからこそ勘付かれるわけにはいかないし、本来なら出番はもっと後のはず。

 この流れは台本にない。大丈夫なのか、リリィ……!?


「ふーん? ……悪くない案だけどぉー、死んだふりなんていくらでもできるじゃん?」

「毒味役を用意したら?」

「だっからさぁ、それで死んだ演技……」

「その毒味役に、死んだふりをするメリットが一切なかったら?」


 思わぬ言葉に、エリザヴァトリの表情が引き締まった。

 逆に動揺してしまったのは俺のほうだ。そんなやつ誰かいたか……!?


「お城の地下牢に捕らえている魔獣。あれは私たちと違って、生きていくためにご飯を食べる必要はない。餌付けできないし飼い慣らせないから、このうえなく公平な毒味役になれる。……どのみち毒をとりに一度お城にもどらなきゃいけないんだから」


 うまい! わりと筋は通っているうえに、今この場には毒がありませんってアピールにもなっている。

 それでいてエリザヴァトリがこの提案を受け入れるかっていうと――


「だ、ぁ、め。……ちょー面白いアイデアだけど、魔法でそっちの味方にしてる可能性は否定できないよねー? 現にお隣のリカちんは魔獣を使役してる国なわけだしぃ」


 ――当然、それはない。

 魔獣と毒をもってもどってくると馬鹿正直に信じるなんて、超がつくほどのお人好しだけだ。普通は目の届かない場所でなにか対策を講じたり、奇襲をしかけてくるって考える。


「死んだふりをされて困るなら、王様が武器で殺しても同じことでしょ! だったら最初から自分で始末したほうが確実じゃない!」

「……!」

「あなたはさっきからあれは嫌だこれは嫌だって否定してばっかりで、そうやって私たちを困らせて優越感に浸っているつもりなんだろうけど……! 結局! ソータとお姉ちゃんにビビってるだけじゃない!」


 キッカさんが代理になる案はおろか、かなりいい線いってた毒殺案ですら、エリザヴァトリ側の自分都合で却下。

 そこを突いて、煽って、畳みかければ――


「……は? 誰が誰にビビってるって?」

「ソータの魔法で尻尾をまいて逃げ帰ったくせに、言われなきゃわからない? ――ねえ王様! キッカ! やっぱり戦おう! たったふたりにビビっちゃうような相手、全員でかかれば怖くないよ!」

「……あはっ。おとなしく聞いてれば弱いクセに言いたい放題、マヂむかつく!」


 苛(いら)立(だ)ちに顔をゆがめ、エリザヴァトリが右半身をひいた。

 この世界でもマニキュアはあるんだろうか。鮮血のごとく真っ赤な親指の爪が、小指の腹にふれる。そのまま小指から人差し指にかけて、爪で皮膚を切り裂いた。


「――ならお望み通り、みんな死んじゃえっ! 〈爬羅剔抉(スカーリング・スカー)〉!」


 瞬間、華奢な腕が揮(ふる)われた。

 裂かれた皮膚から血が滴る。その血が残り四指の爪を飾った。

 血によって強化された四爪は、四断の速攻をみせびらかす。蛇のように空間を咬(か)み裂(さ)き、鳥のように速く俺たちに迫る。


 そう、みんな死んじゃえという宣誓通り、全員だ。リリィも、魔法の使えない王様も、家屋や屋根に隠れひそむ他の魔法少女たちにも。真紅の凶刃が襲いかかる。


 だがこれで――ようやく本来の流れにもどった!


「盟約より鳴動せよ、〈地属性(ドグア)〉」


 すぐさまかたちだけの結びをほどいたアリアさんが詠唱する。

 エリザヴァトリのまさに足元――広間の大地が割れ、巨大な巌(いわお)が隆起した。


「なッ……!?」

「熾(さか)りて繚(みだ)れよ、〈火属性(アグニ)〉」


 仕掛けてあったのは土属性の記号(スート)だけじゃない。地中に巨大な丸底鍋も埋め込んでいた。

 宴会で百人規模の胃袋を満たすために用意された、馬鹿みたいにでかいやつだ。もちろんたっぷりの油をいれて、こちらには火属性の記号(スート)を付与。


 それが今、アリアさんの詠唱をうけて着火し――特大の火柱となる。


「今よ、私に続いて! 〈無窮なる塵旋風《ウィズ・ウィリーズ・ウィズ》〉!」

「颯(さ)と散るさなかに哭(な)いて泣(いさ)ちれ、〈風(リ)属(ィ)性(ン)〉!」


 燃えあがった火柱を、キッカさんを初めとした〈風(リ)属(ィ)性(ン)〉の部隊が強襲する。

 風の刃は、獄炎につつまれたであろうエリザヴァトリを切り裂きつつ、火炎をさらに燃えあがらせた。


「お願いディナ――〈オモチャの怪獣(アミューズ・グール)〉っ!」


 駄目押しにリリィが特大のディナをつくりあげる。

 そいつはエリザヴァトリどころか広場すべてを覆いつくすほどの怪獣となり――割れた大地も、炎の柱も、すべてを切り裂く旋風ごと呑みこんで。


「三(み)の旋律によりて敵を戦慄せしめる」


〈饜蝕の大驪竜《インヘイル・イン・ヘル》〉を屠(ほふ)ったときと同様に、まるで世界を絵画にかえ、絵筆で色をくわえるように、ディナの全身にダイヤ、クラブ、スペードの記号が次々と浮かびあがる。


「裂(さ)き繚(みだ)れよ――〈百花繚乱(フロート・スート)〉!」


 アリアさんの一喝が響く。

 凄まじい爆音と爆風が吹き荒れた。



本日めちゃめちゃ寒くなりましたが、みなさま元気でお過ごしでしょうか。作者の自宅は室温が6℃になりました_(¦3」∠)_ 今年は(だいぶ以前から)かなり雪が多くなる予想がでていますのでお気を付けください~

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