38 チート級最強魔法、またはおかえり真夜中
「――ばにーちゃん。貴女の言い分は、現状みっつの謎……ご都合主義で成立している。けれど貴女にわからないことを、私たちがわかるとは到底思わない。だからもっと建設的な話をしたいのだけれど」
「おっと、なにかな~?」
「一日も経たないうちにエリザヴァトリがこの国を再襲撃する。そのために〈常識改変〉の具体的な能力内容を知っておきたいわ」
……そ……そうだよな。
さすがアリアさん。仮説のうえに仮説を築いてどうするんだって話だよな。
いくらばにーちゃんが有能でも、万能じゃないみたいだし。
今、一番大事なのは、エリザヴァトリをどう撃退するかだ。
「そういう割り切り方、あたしは好きだぜっ☆ じゃあ〈常識改変〉について、もうちょっと詳しい説明をしよう。
さっきの映像でもわかるように、この魔法は〈世界再構築〉を半分に割った魔法さ。実態としては半人前だけど、実質、百分の一人前になっているねっ!」
「……実態と実質って……なにがどう違うんだ?」
「そうだなぁ。たとえば常温の水を沸騰させたいとするよね?」
ばにーちゃんが真横に手を薙ぐ。
ピクトグラムが消え、かわりに鍋の絵がでてきた。
「1気圧という条件下では、水の沸点は100℃だ。……厳密にいえば99.974℃だけど、わかりやすく100℃にしておこう。そして今ここに10分経過すると水を沸騰させるだけの火力を注いだとする」
鍋のしたに火のアイコンが表示された。
鍋から煙があがり、やがて中の水が沸騰していく。
「でも、この火力を半分にしたらどうなる? 倍の時間……20分後には沸騰するかな?」
「……いや、しない」
「じゃあ30分待ってみるかい? 60分は? 180分なら? 条件はまったくおなじまま――自然蒸発や気温変化は考えないものとして、24時間経過すれば、さすがに沸騰するかな?」
「…………しないな」
「だろう? 実態は半人前、実質としては百分の一人前って、そういうことなのさっ☆」
「うーん、私にはちょっと難しいかも。結局、鍋の水は沸騰してるのよね? そこの彼は魔法が使えているんだから」
キッカさんが首を傾げた。俺も真似をする。
ばにーちゃんの理屈でいくと、俺はマジでガチな無能野郎――魔法を一切使えない一般人になってしまうんじゃないか?
「鍋の水が沸騰しているかどうか――魔法を発現できるかできないかで言えば、もちろん前者さっ。そもそもの火力たる〈世界再構築〉が強すぎるせいで、魔法の発現そのものはクリアしているんだよ。ただし百分の一人前のエネルギーしかないから、いくつか制限があるね」
「制限って……エリザヴァトリも言ってたけど、詠唱の長さか?」
「あたしはそれを制限と認識していないけど、キミがそう思うなら制限なんじゃないかな? あたしが考える制限はふたつ。まず対象だね。周囲が〝常識的に考えてそんなこと起こるはずがない〟と思っていることだけを覆せる。修練次第では〝周囲〟から〝相手〟に範囲をせばめられるかもしれない。でもエリザヴァトリは今日、明日中には来るんだろう? おなじものは効かないと思ったほうがいいね☆」
確かにそこを楽観視するのは危険そうだ。
エリザヴァトリは撤退際に、俺の正体がわかったとか、同じ轍は踏まない的なことを言っていた。
たぶん〈無冠の王〉に会ったことがあって――そのときにどういう魔法なのか、なにが弱点なのか、わかっているのだ。そして〈無冠の王〉を俺だと勘違いした。
ただし俺は〈無冠の王〉と魔法がおなじだから、対策だってきっとおなじなはずで。
あのときエリザヴァトリを追い詰めた方法。
真夜中にさえ太陽をのぼらせる、あの魔法も、二度目は――……
俺が天井を見上げた、そのときだった。
突然、広間が闇につつまれる。
「……きゃっ……!? ……ぁ、灯りが、消え……」
「守衛隊、非常灯をつけて!」
「ま、まさか、もうエリザヴァトリが……!?」
ステファニー、キッカさん、リリィが慌てふためくなかでも、アリアさんは冷静だった。
巨大な火炎球を創り、天井にかざす。
「……やっぱり」
「そう、もうひとつの制限は――時間。
キミたちは朝がきたと思いこんでいるみたいだけど、今は午後二十時をすぎたところさ」
ピクトグラムがはじけ、細長い帯がうまれる。
45/9/3675 8:13 P.M. という表示。
――最悪、いつエリザヴァトリが現れてもおかしくない。
2投稿目です! どうぞよろしくお願いします~!!!




