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09.街を守った男

 三人組が去っていった。

 初老の男は舌打ちして忌々しげにおれを睨んでからさったが、他の二人は後ろ髪を引かれる思いって感じの顔をした。


 イヴも立ち去った。

 険悪なムードになった理由を作った張本人だが、それをまったく気にすることなく、マイペースにニンジンをガジガジしながら去っていった。


 残ったおれとエミリーは働いた。

 テルル地下二階の眠りスライムを倒して、ドロップしたニンジンを集めていた。

 エミリーと一緒に、ゲームでいうとパーティーを組んだ状態で効率よく狩れた。

 結果、定時よりちょっと早く、昨日と同じもう一往復するには足りない時間で。

 二人でギリギリ持ち帰れる程度のドロップになった。


 本日の収入は20000ピロになった。


     ☆


「そういえば魔法カートを持ってないんですね」


 燕の恩返しで、今日の分の買い取り額を受け取った後、エルザがそんな事を言い出した。


「魔法カート?」

「皆さん結構持ってる必須品ですよ?」


 エルザはそう言って、他の買い取り客に目を向けた。

 言われてみると、確かに大半の冒険者はカートの様なものを引いてる。

 というか、さっきあった三人組も同じものを引いてたっけ。


 みんなもってる、って事はそれが魔法カートなんだろう。

 どこが魔法なのかいまいち分からなかった。


「なんでそれが必須品なんだ?」

「魔法カートにはいくつか便利機能があるんです。まず見た目の大体倍以上はものを収納できます」

「あれの倍?」

「あれの倍です」


 頷くエルザ。

 おれは一番近くにあるカートをみた。

 ホームセンターのカートと同じくらいの大きさのヤツだ。

 ただでさえパッと見てものがいっぱい入るのに、これの更に倍か。

 結構いいな。


「それから持ち主しか取り出しが出来ない機能で盗難防止、モンスターのあらゆる攻撃を防ぐ破壊防止、積んだドロップ品は重量を感じさせないとか。他にも色んなタイプとか、色々オプション機能をつけられますけど、基本はこんな感じです」

「ダンジョンを潜るのに便利な機能ばかりだな」

「はい、だから必須品だって言われてるんです」


 なるほど。

 それらの機能があれば確かに必須品だな。

 というか、ほしい。


 昨日も今日も、持てる量がいっぱいになったんだけど、定時上がりをしようと思ったら往復する時間が足りなくて早めに切り上げた。


 重量関係なく、いっぱい運べるようになったらもっと稼ぐ事ができる。

 ちょっと頭の中でシミュレートしただけでも、そいつが「必須品」って言われてる理由が分かる。


「それはどこで手に入るんだ?」

「街中にカート屋さんがあるから、そこで買えますよ」

「わかった、ありがとう」


 エルザにお礼を言って、店を出た。

 夕焼けの中、エミリーがおれを待っていた。


「お待たせ」

「お疲れ様なのです」

「帰る前にちょっといいか? 魔法カートを見ていきたい」

「ヨーダさん、魔法カート買うですか?」

「話を聞くとあった方が便利そうだからな。エミリーは魔法カート使った事は?」

「一回だけあるです。前に他の人と一緒にダンジョンに入ったとき、その人が持ってたです」


「へえ、どうだった?」

「その人のはすごく高級車だったのです。パーティーが徐々にMP回復する効果付きなのです」

「そんなのもあるのか!?」


「そういうオプションもあるみたいです。すっごく高いですけど」

「ああ、そういえばオプションがどうのっていってたっけな」


 エミリーと一緒に歩き出しながら、考える。

 そうなるとやっぱりほしいな、魔法カート。


 今聞いた話の他にも、きっと色々オプションがあるんだろう。


「やっぱり冒険者にはありがたい効果がおおいんだよな」

「はいです。完全に趣味なものもあるですけど、冒険者がダンジョンでモンスターを倒してドロップさせるための補助が多いです。この世界のものは全部ダンジョンで生産されるですから」

「そうか」


 ますますほしくなってくる。

 そして気になって、街を歩きながら行き交う人々を観察した。

 一旦気になってくると、やたらと目につくようになる。


 魔法カートを引いたり押したりしてる冒険者はかなり多い。

 中には動物に引かせたり、人が上に乗ったりするものもある。


 本当、いろいろあるんだな。

 うん、ほしくなったぞ。


     ☆


 世の中ほしいだけじゃどうしようもないことが分かった。


「げ、元気をだすのです」


 肩を落としてると、エミリーに慰められた。

 魔法カート屋に行ってみたはいいが、その高価さにあえなく敗走してきた。


 だって、どれもこれも百万ピロとか二百万ピロとか、そんな値段なんだもん。

 モンスター感知とか能力チェックとか、そういうオプションをつけたらつけた分高くなって、最新車種にオプションマシマシしたら軽く一千万ピロを超えた。


 ぶっちゃけ、車を買うのとまったく同じ感覚だ。


「あの、ちゅ、中古もあるのですよ」

「中古か。……でも中古だとなんか落とし穴がありそうだな」

「えっと、はいです。実はアイテムを乗せる量は使ってるうちに徐々に減っていくのです。それにたまに、入れたものが飲まれてしまうのもあるのです」

「怖いな中古って」

「でもでもすごく安いのですよ。ものによっては十万ピロもしないのです」


 いくら安くたって、問題ありじゃ意味ないんだよな。

 この辺もやっぱり車を買うのと同じ感覚だな。


「まあ、コツコツ溜めてそのうちちゃんとしたのを買おう」

「はいです」


 まっ、強くなってって、ダンジョンの深い階で高い物を生産できるようになる――のに期待しよう。


 それよりも、とおれは気分を切り替えた。

 これからエミリーと帰宅する。


 あの、エミリーが整えてくれた、温かくて優しい家に帰る。

 意識をそこに向けた途端、うきうきしだした。

 早く帰ってマッタリしよう、明るくて温かい家でのんびり休もう。


 そう、思った。


「ハグレモノがでたぞー」


 ふと、街がざわつきだした。

 遠くから悲鳴と轟音が飛びかって、人々が慌てている。

 よく見ると音のする方から人が逃げてくる。

 おれはエミリーに聞いた。


「ハグレモノってなんだ?」

「街に現われたモンスターのことです、ダンジョンを離れたモンスターは中にいるときよりも凶暴になって、手当たり次第に人を襲うです」

「まずいじゃないか――って、なんで冒険者達までにげてるんだ?」

「ハグレモノは一切アイテムをドロップしないので、割りに合わないから戦いたくない人が多いです。モンスターはダンジョンの中でしかアイテムをドロップしないのです」

「おいおい」


 そんな馬鹿な話があるのかよ。

 アイテムをドロップしないからといって戦わないのかよ。


 逃げ惑う人々をみた。

 離れた先で家が一軒崩れたのが見えた。

 そこにいたのは、巨大なゴリラ。

 家ほどもあるゴリラだ。


「放っておけん。いくぞエミリー」

「――っ! はい!」


 エミリーと一緒に走って行った。

 人の流れに逆らって走って行って、あっという間に現場にたどりついた。


 建物がいくつも崩れているそこにモンスターがいた。

 遠目で見えた巨大なゴリラが――なんと二頭も!


 まずいな、二頭もいるなんて。

 どう戦おう、と、思っていると。


「ひゃっはー!」

「フォーメーション・スマレカ、行きますよ」

「んなのねえだろうが!」

「……」


 反対側から四人組が現われて、ゴリラのうち一頭に攻撃をしかけた。


「あれは……」

「イヴちゃんなのです」


 現われたのはイヴと、いつぞや遭遇した彼女の仲間(?)たちだった。

 四人組は息の合った攻撃で、ゴリラに攻撃をしかけていく。


「すごい……あの人達、みんな強いです」

「そんな事よりも! おれ達はこっちをやるぞ!」

「――! はいです」


 向こうはイヴ達に任せて、おれはエミリーと一緒にもう一頭のゴリラに攻撃をしかけた。

 まず突っ込んでいくと、ゴリラはこっちに向かってぶっとい――丸太よりも太い腕でハンマーパンチを振り下ろしてきた。


「ヨーダさん!」


 受け止めた、ずしりときた。

 足元の地面がひび割れて陥没するくらいの強烈な一撃だった。


「大丈夫だ! それよりも反撃!」

「はいです!」


 エミリーと組んで、ゴリラと激闘を繰り広げた。

 ゴリラは図体通り強かった。

 地面をえぐりとり、崩壊した建物をつかんで投げつけてくる程のパワー。

 全力で戦って負けたら、更にものすごい被害とか出るだろう。

 そう思ったら負けられない気になった。


 全力を出してゴリラを叩いた。

 攻撃は全部おれが受けて、エミリーが巨大ハンマーを振りかぶってくるときにあわせてゴリラを拘束して攻撃が当たるようにフォローする。


 それ以外の時は自分でも攻撃する。


 それを繰り返して、最後におれの全力のボディーブローが突き刺さって、なんとかゴリラを倒した。

 巨体が崩れ落ちて、ずしん! と倒れて、地面が揺れた。


「ふう、なんとかなったな」

「お疲れ様なのです」

「お前は大丈夫か?」

「はいです」


 フォローをしたおかげで、エミリーは無傷だった。

 その事におれはホッとした。


 ふと、思いだしたようにイヴ達の方をみた。


「けっ、割りに合わねえぜ。こいつダンジョンの中にいたらマグロ一頭をドロップしたのによ」

「それでも割りに合いませんよ、こいつのつよさでマグロは」

「知ってるわそんなことくらい。絶対になにも落とさねえよりはマシだって話だ」


 イヴら四人はとっくの昔にゴリラを倒してて、仲間が悪態をついてたり、イヴがぼーとしたりしていた。

 誰一人傷をおった様子もない、こっちよりもかなり楽勝だったみたいだ。


 つよいなあ、と思った。

 そんな事を思ってると、まわりから歓声と、お礼の言葉が飛びかった。

 ゴリラに襲われて逃げてた街の人々が感謝してきたのだ。


 人助けをして感謝される、ちょっと気持ちよかった。


「ヨ、ヨーダさん、早く帰るのです」


 感謝慣れしてないのか、エミリーは所在なさげにおれを促してきた。

 かわいいな、そんなところも。


 まあでも、これ以上の面倒ごとは確かにいやだな。早く帰って、温かい部屋で休みたい。

 そう思って帰ろうとしたら。


 なんと、おれの前で。

 ハグレモノのゴリラがドロップしたのだった!

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[一言] やっぱ落とさないんじゃなくて、確率が低いのか
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