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レベル1だけどユニークスキルで最強です 作者:三木なずな

第一章

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08.味とは関係がない

 次の日。
 前の日と同じように朝はニホニウムの地下二階で力を上げてから、昼過ぎにテルルの地下二階でニンジン狩りをしようとやってきたおれ。

 そこでおれは、ちょっと嫌なものを目撃した。

     ☆

 テルルダンジョン、地下二階。
 男女の三人組が徘徊していた。

 一人はそこそこに身なりのいい初老の男で、エネルギッシュで、力強い顔つきをしている。
 他の二人は対照的に若く、二十代前半だろうかという若い男女だ。
 モンスターとの戦闘の激しさが見て取れるほど装備はぼろぼろで、髪にも肌にも艶がなくて、何日も徹夜した直後って感じの格好だ。

 三人は隊列を組んでダンジョンを歩いた。
 モンスター――眠りスライムが現われた!

 男女は鈍い動き出しでスライムに飛びついた。
 二人がかりでダメージを与えて、スライムの動きが弱まってきた所で、初老の男が前に出てトドメを刺した。

 眠りスライムがきえて、ニンジンがポン、とドロップした。
 初老の男はそれを拾って、魔法カートに入れる。
 カートで山積みになっている戦利品、モンスターからドロップされた野菜を眺めて満足げな顔をする。

 一方、男女は疲れ切っていた。
 ただでさえ目の下に濃いクマが出来てるくらい疲れ果てているのに、この一戦で更に消耗して、今にも倒れそうになっていた。

「さあ、次にいくぞ」
「た、隊長……ちょっと休ませてください」
「もう限界です……」

「なんだ、もうつかれたのか?」
「もう二日も籠もってて、まともに休んでないんです」
「少しだけ休ませてください」

「いかんぞその軟弱さは。この程度のダンジョンで二日籠もった程度で音を上げている様ではだめだぞ。わたしの若い頃はこの程度のダンジョン、一週間も二週間も潜っていたものだ」
「でも、まともに寝てなくて……」
「ダンジョンの中じゃ寝る場所もタイミングも」
「立って寝ればいい」

 初老の男はそう言い切った。
 言われた若い男女は本当に疲れ果てているのか、無感動に自分達のリーダーを見た。

 初老の男の目に不快な色が一瞬だけよぎった。
 それはしかし文字通り一瞬だけだった、男は拳を握って、二人に熱く語りかけた。

「おれが意味もなくお前達に鞭を入れて働かせてる、そう思ってるのか」
「そんな!」
「そこまでは思ってないです」
「いや、そう思われるのも仕方ない。たしかに他に比べれば多少(、、)厳しいのは自覚している。しかし、それも全てお前達の為を思ってのことだ」
「おれたちの……」
「……ため?」

 若い男女は互いを見た。

「そうだ。お前達の才能を信じてのことだ。人間、若いうちにしか成長しない。逆にいえば成長したければ若いうちに少しでもムリをしておくものだ。そう思わないか」
「それは……」
「そうかも」

「おれはこの目で見たいのだ。お前達に見た夢を」
「「夢?」」
「そうだ。お前達なら出来る、今でこそこのテルルの地下二階という浅い階層だが、成長したお前達ならシクロにある五つのダンジョン全てを制覇できる、農業王とも言うべき存在に成長するであろうと」
「そんな」
「わたし達なんかが」
「それにだ!」

 男女が言いかけた言葉を、初老の男が被せ気味に遮った。

「それはサクセスストーリーだ。ダンジョンに潜りたいとおもう次の世代の若者が感動するようなサクセスストーリーになる。おれはその感動が見たい、その感動を世間に届けたい!」
「た、隊長!」
「そんなに思ってくれてたんですか」

 若い男女は感激した。
 疲れ切った顔に感激が上書きされて、初老の男を見つめた。

「おれは信じてる、お前達なら出来る。二人も、おれを信じてくれないか」
「「――はい!」」

 若い男女は顔にやる気を取り戻した。

     ☆

 嫌な現場を目撃してしまった。

 三人組のパーティー、弱り切った仲間にむち打って働かせる初老の男。
 感動とか成長とか、夢とかを語るその姿に身震いした。

 ……ちょっと前の自分を思い出した。
 おれはこれとすごくよく似た会社にいた。

 社長はこの男と似たような事をいって、同僚達はそれに感動して働いてた。
 ちょっと、ヤバイ所だった。
 だからちょっと、嫌な気分になった。

「ヨーダさん。どうかしたんですか?」

 げんなりとしてた所に、背後から声をかけられた。
 振り向くと、そこに声の主のエミリー――そしてイヴがいた。

 エミリーは相変わらずちっちゃい体ででっかいハンマーと荷物を背負ってて、イヴは自前のウサミミにバニースーツとこちらもいつも通りの格好だ。

 イヴは無言でおれに近づいて、手を伸ばしてチョップしてきた。

「低レベル、嫌い」
「知ってる」
「ハリーニンジン」
「はいはい」

 どうやらイヴは少しでも早くおれのドロップしたニンジンがほしくて、それでここまで来たみたいだ。
 産地直送どころか、産地まで出向くとか、よほど気に入ったんだな。

 彼女が欲しがってるのは一本かそこらの少ない量なので、まずは彼女の分を調達してあげようと思った。
 振り向いて、エミリーに声をかける。

「やろうエミリー」
「あっ、その前に少し休んだ方がいいと思うのです」
「休む?」

 エミリーはスタスタと近づいてきて、おれの顔を見あげてくる。
 じっと見つめてから、おもむろに言い放つ。

「お昼ご飯を先に食べるのです」
「昼飯か……」

 たしかに腹は減ってる。
 午前中はニホニウムに籠もって結構頑張ったから、ちょっと疲れてもいるからな。

 さてどうしようか……って思ってると、イヴに裾を引っ張られた。

「ニンジン」
「わかった、まず一本――」
「イヴちゃんも休憩するのです」

 エミリーが提案する、イヴはちょっと迷惑そうに、ついでに唇を尖らせた。

「休憩いらないよ?」
「今ならキャロットプリンがつくのですよ」
「ふおおおおお!」

 目を輝かせて、聞き慣れた奇声をあげるイヴ。
 キャロット……ニンジンのプリンって事か。

 エミリーはニコニコしながら準備を始めた。
 色々荷物から取り出して、中でも、ニンジンの色をしたプリンがあった。

 さすがはエミリーだ、プリンにしてはあまり見かけない色だけど、そんなの関係なく見た目からしてうまそうだ。
 おれでもそう思うのに、当然、ニンジン大好きっ子のイヴは目を輝かせた。

「ニンジンプリン、早く」
「はい、どうぞ。ヨーダさんもはい、お弁当です」
「ああ、ありがとう」

 おれは弁当を受け取って、エミリーが敷いたござの上に座った。
 弁当をあける。
 色とりどりのおかずが見えて、かぐわしい香りが広がった。
 見た目も香りも、多分栄養的にも完璧な弁当だ。

 が、そのバランスは一瞬にして崩れた。
 横からとんでもない速さで小さい手が伸びてきて、弁当のニンジンを奪っていった。

 横を見ると、イヴはモグモグと咀嚼しながら明後日の方角を向いていた。

 ――♪

 口笛を吹いた。いや、ごまかし方下手すぎだろそれ。
 まあいい、ニンジンを持ってかれるくらい構わん。ニンジンも好きな子に食ってもらった方が幸せだろう。
 おれは気を取り直して、手を合わせて頂きますと言った。

「おお、これはすごいな。このチキンカツ? みたいなのもすごいな。香りがすごいし、この衣もほんのり甘くて最高だ」
「サツマイモの粉を衣に使ったです、スパイスはちょっと秘密なのです♪」
「サツマイモの粉? 干して粉にしたってことか。そんなものがあるのか……」

 言われてみれば、確かに衣は噛めば噛むほどサツマイモ的な風味がした。
 それがジューシーな鶏肉と渾然一体となって、うま味が口の中をいっぱいにした。

 仕事前の食事、エミリーの手料理でおれはだいぶ幸せになった。

 そこに、さっきの三人組が通りかかった。

 若い男女はますます疲れた顔をして、物欲しそうな顔でこっちをみた。
 一方で初老の男はひどく不愉快な表情をしている。

「お前達、ああはなるなよ」
「「え?」」

 驚く若い男女。

「神聖なダンジョンであんなだらけきった姿をさらすとは言語道断だ。あのような姿勢で生産されたものは人々の心に響かない」
「う、うん」
「そうですね……」

「ドロップされたものには魂が宿る。我々のがんばりがそのまま品質に、味になって現われる。その頑張りが手に取ってくれたもの達に感動を与えるのだ」

 初老の男はさっきとまったく同じ調子で部下達に語りかけていた。
 正直聞いててつらいから、おれはここから立ち去ろうとした。

 と、思っていたら。
 イヴがどこかにいって、すぐに戻ってきた。
 このテルル地下二階のモンスター、眠りスライムを捕まえて戻ってきた。
 手ごわいモンスターを、しかも抵抗するモンスターをまるでぬいぐるみの様に事もなさげに抱きかかえているイヴ。
 思ってた以上に強いみたいだ。

 そのイヴはスライムを連れて、おれの前に戻ってきた。

「倒す」
「え?」
「これ、倒す」
「ああ、そか、お前のニンジンか」

 よほどニンジンが待ち遠しいんだな、スライムを実際に捕まえてきておれに倒せとせがむくらいには。

「ふっ」

 初老の男は鼻で笑った。
 なんとなく、「そんな楽なやり方では……」と言われた気がした。

 気にしないようにして、イヴの手の中にいる眠りスライムを倒した。
 がっちり固定されてて、おれも今日のニホニウムで力をCまであげたから、一撃で倒せた。
 ポン、とニンジンがでて、イヴはそれを空中でキャッチした。

 さてこれでこっちのノルマは終わり、つぎは――と思っていたら。
 イヴはニンジンを持って、三人組の所にむかった。

 戸惑う三人組に、ニンジンを突き出す。

「食べる」
「え?」
「ニンジン食べる」
「いやしかし……」

 若い男は彼らのリーダーを見た、初老の男はますます不機嫌そうになった。
 こめかみで青筋がヒクヒクしてる。

「いいから食べる」

 イヴは手刀でニンジンを真っ二つにわって、男女の口にそれぞれ突っ込んだ。
 いきなりの事で避けきれず口の中にニンジンを突っ込まれた二人だったが――。

「うまい!」
「これ、本当にニンジンなの!」

 一瞬で目を輝かせて、ニンジンを絶賛した。
 そして生であるのにもかかわらず、(実は)皮を剥いただけのニンジンをむしゃむしゃかじり出した。

「ニンジンの味は、苦労と関係ない」

 イヴは静かに言いはなった。
 そういうことか……って理解したけど、「ニンジンの」は余計かも知れない。

 余計な枕詞でも、それは効いた。
 初老の男はますます青筋がヒクヒクしている。
 天使に侵食されたチルドレンっぽい感じだ。

「お前――!」

 口論するために突っ込んでくる男に、イヴは先制して、手刀ののど元に突きつけた。
 喉からつー、と血が流れた。

 息を飲んで動きがとまる男。
 イヴは静かに言い放った。

「ニンジンの誤解は嫌い」

 誤解というか間違った知識をうえつけてたんだけどな、この男は。
 それでも、ニンジンの事だからイヴは口を挟んだということだった。

「苦労しなくてもニンジンは美味しい。低レベルのニンジンは美味しい」
「おれの名前覚えてないなお前。あとなんでお前が威張る」

 指摘すると、イヴはいそいそとおれの背後に移動して。
 体を押しつけてきて、おれを前に出すような格好で。

「低レベルのニンジンは美味しい」

 すげえ! おれの声そっくりじゃん! そんな特技あったのかよ!
 おちょくられた初老の男はますます青筋をひくつかせて。

 ちょっとだけスカッとした、と思ってしまったのだった。
面白かったらブクマ、評価してくれるとすごく嬉しいです!

■書籍版一巻、おかげさまで重版です!

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