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レベル1だけどユニークスキルで最強です 作者:三木なずな

第三章

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211/215

211.ホワイトの社長

 セレンダンジョン、地下一階。

 今日もここで成長弾のレベル上げにいそしんでいた。
 レイアがレインボースライムを抑えて、俺が撃って、レイアがリヴァイヴをかけて、俺が復活したスライムを撃って。

 そのくり返しをしていた。

 レベルの上がりは大体二時間で1。
 最初だから上がりやすいとか、後ろになって上がりにくくなるとかそういうのはなく。

 作業化した流れて、二時間くらいでレベル1上がっている。

「回数かな」
「回数?」

 合体してる必要がないので、人間の姿のままでいるレイアが聞いてきた。

「ああ、レベルを上げるのに必要なのは回数かも知れない。
 経験値の数値でレベル上げと言うより、使った回数で熟練度上げの方が正しいのかもな」

 ゲーム的に考えれば――って言葉は呑み込んだ。

「数えます」

 レイアは感心するでもなく、俺の推測を証明するために回数のカウントを始めた。
 普段はロボットチックで、こういうカウントの作業にはとても向いているレイアだが。

「ありがとう」
「……いえ」

 ほめるとレイアはわずかに頬を染めた。

 彼女の生い立ち――魂を抜かれて人形化したという生い立ちがあって、俺は隙あらば感情を揺さぶる言動を繰り返してる。
 もちろんポジティブな方向性にだ。
 ネガティブなのは性に合わない。

 そんなレイアとレベル上げを繰り返していると、ふと、離れた所でちょっと騒ぎになっていることに気づいた。
 なにか起こったのか? と俺は手を止めた。

「ちょっとストップだ」
「はい」

 レイアと一緒に騒ぎの中心に向かって行った。

 そこは休憩所の前だった。

 新しくシクロダンジョン協会長になったセルの意向で、意味のないニホニウムをのぞいて、ダンジョンの中で休憩所が設置されている。

 冒険者が体を休めたり、傷を癒やしたりする事ができる場所だ。

 その休憩所の前に一人の若い冒険者がいて、不審そうな目で休憩所を見つめていた。

「休憩所……だと」
「おいそこの、入らないならどいてくれ。入り口のあたりに突っ立ってると邪魔だ」

 違う冒険者がやってきて、その若い冒険者を押しのけた。

「お、おい。ここって……どういう事なんだ?」
「どういう事って、お前最近ここに来たのか」
「ああ」
「なるほどな。別にどうもこうもねえよ、管轄のシクロダンジョン協会が作った休憩所なだけだ」
「一回でいくら取られるんだ?」
「タダだ」
「えっ……」

 若い冒険者が愕然としていると、答えた冒険者は軽く肩をすくめて休憩所に入っていった。
 残された若い冒険者は。

「タダでだって? そんなバカな。ダンジョンの中で回復できる場所だろ? そんなのがただって……絶対何か裏があるに決まってる」

 とぶつぶつつぶやいていた。

 そんなものはないから安心して使っていいぞ、と話しかけようとしたとき、俺の背後から別の人間が、こっちに話しかけてきた。

「サトウさん、お久しぶり」
「えっ……イーナか。久しぶり」

 そこに立っていたのは買い取り所『燕の恩返し』の店員、イーナだった。
 エルザの親友で出会ったのはシクロだが、ちょっと前からインドールにいってるはずだ。

「どうしてここに? インドールはいいのか?」
「うん、そっちはもう大丈夫だから。ここで新しい仕事をね」
「新しい仕事?」
「ダンジョンの中に買い取り出張所を作ることにしたの。ほら、サトウさんがうちに作ってくれたあの買い取りのシステムで」
「ああ」

 燕の恩返しの出張買い取り、魔法カートの転送機能を応用したものだ。
 今までは俺の屋敷だけだったのが。

「ダンジョンまで広げてくることにしたのか」
「うん。顧客の獲得と、あとダンジョンの中だと買取額を安めに出来るから、利益が上がるかも知れないってね」
「なるほど、道理だ」

 冒険者がわざわざ街まで運んで帰る事と、ダンジョンで即買い取ってもらえる事を考えれば、手間賃やら何やらですこし安めの査定でも使う人は一定数いるはずだ。

「これをはじめられたのはサトウさんのおかげだから。今度うちのマスターがお礼しに行くって」
「そうか。これってこのセレンだけか?」
「ううん、他にも立てるよ。もちろんニホニウム以外で」

 笑いながら話すイーナ。
 なるほどな、それはますます、ダンジョンでの稼ぎが便利になるな。
 俺には恩恵はないけど、他の冒険者が稼ぎやすくなるのは間違いない。
 いいことだ。

「な、なあ」

 イーナと話してると、横から声をかけられた。
 さっきの若い冒険者、休憩所を警戒してた男だ。

 彼はイーナに向かって、おそるおそる聞く。

「今の話聞いてたけど、ダンジョンの中に買い取り所作るって本当か?」
「はい、本当ですよ」

 イーナは営業スマイルを作って答えた。

「営業開始まであと何日かかかりますけど、開業したら是非ごひいきにしてくださいね」
「その……買い取ってもらうためには何か資格が必要なのか?」
「資格? いりませんよ」
「そんな馬鹿な……そんなうまい話が……」

 ショックを受ける若い男。

「でもでも、ダンジョンの中での買い取りは街でするよりちょっと安めになっちゃいますよ」

 イーナは補足説明したが、男はやっぱりショックを受けたまま、そして信じられないような表情をしていた。

 ぶつぶつと「ありえない」「なにか裏がある」と言いながら立ち去ってしまった。

「どうしたんだろ、何かおかしな事をいったのかな私」
「……多分だけど」

 俺はそれに似た現象を知っている。
 ホワイト企業――とまで行かなくても、普通の企業に再就職した元ブラック企業の社員が疑心暗鬼になってしまう現象だ。

 俺の同僚で、転職した人から聞いた話と同じ。

 新しい会社が優しすぎる、絶対何か裏がある。
 何を隠そう、俺も同僚からそのあたらしい会社のやり方を聞いたときも「絶対に何か裏がある」って思ったもんだ。

 ブラック企業に飼い慣らされた悲哀、だな。

「切ないファミリーにいて、切ないダンジョンにいたんだろ」
「それでこうなるんですか?」
「いきなり環境がよくなりすぎると疑心暗鬼になるものなんだ。ホワイトな環境に馴染むまでに時間が必要だろうな」
「へえ」

 イーナは男の後ろ姿を見送ってから、イタズラっぽい笑みで俺を見た。

「じゃあ、彼をあんな風にしたのはサトウさんのせいですね」
「え?」
「シクロとインドールののダンジョンの待遇がよくなったのって全部サトウさんのせい(、、)じゃないですか。休憩所が出来たのも私たちが買い取り所をだしたのも。周りの冒険者の質と雰囲気がよくなったのも――」

 一呼吸置いて、ニコニコと、まっすぐ俺を見つめて。

「ぜーんぶ。サトウさんのせい(おかげ)ですよ」

 と、言った。

 ……そうかもしれない。
 そして本当にそうなら。

 色々甲斐があった、と、俺は思ったのだった。
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