209.永久レベルアップ
ニホニウム、地下一階。
俺は無造作に歩き回って、スケルトンを倒して回った。
使ってるのは新しい弾丸――とりあえず成長弾と名付けたものだ。
ニホニウム地下一階なのは、セレンから「当てれば当てる程成長する」って聞いたから。
とにかく当てる、ドロップ関係なしに当てるだけ――となった場合ベストなのはここニホニウムだ。
他のダンジョンじゃどうしても他の冒険者との兼ね合いで「数」はこなせない。
その分ニホニウムだったらほぼ俺のひとりじめだ。
ダーン!
トリガーを引いて、スケルトンを一撃で撃ち抜く。
「うーん、威力も速度も通常弾以下。約7割って所か」
新しいスケルトンが現われた。
二丁拳銃を構えて、同時に通常弾と成長弾を撃った。
銃弾はそれぞれスケルトンの左肩と右肩を撃ち抜いた。
成長弾の方がはっきりと遅いし、威力も無い。
それは別に問題じゃない。
成長する弾丸だ、この手のものは育ったら強くなるのが相場だ。
最初が弱ければ弱いほど、逆に育った後の事が楽しみだ。
俺は現時点の弱さをまったく気にしないで、スケルトンを撃って回った。
見つけて、成長弾で倒して、ドロップした種はポーチへ。
それをとにかく繰り返した――けど。
「これは大変だぞ」
思わず声に出してしまった。
ポーチにたまった種の数、ステータスが1ランク上がる程の分がたまっても、成長弾のレベルは上がらなかった。
セレンが刻んでくれた文字はレベル1を示したままあがらない。
何か特殊な事が必要なのかって思ったけど、そんな事がないのはしばらくして判明した。
更に撃ち続けていき、能力が2ランク上がる程のスケルトンを倒した後、成長弾はさらっと、何事もなかったかのようにレベル2になった。
撃ってれば上がる、セレンの言うとおりだった。
ただしそれは結構ハードな回数を要求される。
「どうしたもんかな……」
レベル2になった成長弾を眺めて、俺は色々考え直すことにした。
☆
セレンダンジョン、精霊セレンの部屋。
屋敷から転送部屋を使って、レイアを連れてここにやってきた。
「よう」
「わっ、本当にまた来た」
「また来るって言っただろ?」
「言ったけどさ、本当にまた来るって思わなかった。早くても100年後くらいだって思ってた」
「100年後とか人間として死んでる。なんだったら毎日来ようか?」
「それは飽きる」
セレンは上機嫌に笑った。
綺麗で色っぽいのに、性格は結構豪快だ。
見た目グラビアアイドル、性格姉御。
セレンはそんな感じの女だった。
「で、そっちは?」
「ああ、俺の仲間だ。レイアっていう」
「マスターのものです」
「何だそのプレイ! 羨ましい!」
「いやプレイとかじゃなくて……」
なんか変な想像されてないか?
「それよりも頼みがある。俺のMP消費なしをレイアにつけてやってくれないか?」
「あれを?」
「ああ。必要なんだ」
「うーん、それは無理」
セレンにきっぱり言われて、俺は眉をひそめた。
話が分かる人だから頼みこめばいけるだと思ってたけど、そうでもなかったか?
「どうしてもか?」
「それはあんたにあげたもの、外して他人にとかは無理」
「そうか……」
MPがレイアだったらやりようがあったんだけどな、当てがはずれたか。
「外すんじゃなくて」
「え?」
「その子にもつけるっていうのならおっけー」
「そういうことか」
今度は苦笑いした。
頼めばどうにかなるってのは見当外れじゃなかったみたいだ。
「頼めるか?」
「いいよ。でもあたしに頼みごとするって事は……わかってるよね」
「ああ、分かってる」
俺がセレンに近づき、肩に手をかけて顔を近づけようとした――その時。
セレンは俺の手をひょいとかわし、背後にいるレイアに向かって行った。
「あれ?」
セレンは俺を躱して、レイアの手を掴んだ。
「なんで?」
「頼みごとする本人が相手するのあたりまえじゃない?」
「……そりゃそうか」
「ってことで、しばらく二人っきりにさせて」
「えっと……」
レイアを見る。
大丈夫、と言わんばかりにレイアは静かにうなずく。
俺は転送ゲートを使って屋敷に戻った。
屋敷でしばらく待ってから、セレンの部屋に戻る。
微妙に距離感のある二人、何故かセレンはつやつやになっていた。
「ふぅ……えがったえがった」
「いやいや……あんたどういうキャラなんだよ」
「可愛い女の子を相手にする時は心がおっさんなのよ!」
「威張って言うことか! ってか、本当に大丈夫なのかレイア」
「はい」
微妙にネタっぽいセレンと対照的に、レイアはいつもの様に淡々としていた。
「そうか、ならよかった――」
「たとえ何をされようとも、身も心もマスターのもののままだから」
「本当に何をされたのーー!?」
絶叫する俺。
「大丈夫、たいした事はしてないから。やり過ぎてあなたに嫌われたくないしね」
「なんか複雑だけど……」
その言い分を……とりあえず信じるか。
「はい、これでおっけー。彼女もこのダンジョンでMP消費なしになったから」
振り回されはしたが、ちゃんと要求は通った。
☆
セレンダンジョン、地下一階。
俺はレイアを装着した状態で、ダンジョンの奥まった所、人気の無い所にやってきた。
今からやることは別に見られてもいいが、ちゃんと生産している冒険者の邪魔になるから、ここでやる事にした。
モンスターがでた、虹色のボディをしたスライムだ。
それを成長弾で撃ち抜き、大豆をドロップさせた。
その大豆をかき集めて。
「レイア、リヴァイヴだ」
『わかりました』
レイアが目の前の大豆にリヴァイヴをかけると、大豆はまた虹色スライムに戻った。
瞬間、成長弾で瞬殺。
復活したスライムは一瞬でまた大豆に戻った。
「もう一度だレイア」
『リヴァイヴ』
リヴァイヴをかけて、成長弾で瞬殺、更にリヴァイヴをかけて、成長弾で瞬殺。
レイアのMPは無限、成長弾も回数は無限。
撃って、リヴァイヴ、撃って、リヴァイヴ。
ループをくりかえした。
『マスター』
「どうした」
『私がやります、マスターは休んでてください』
無心で繰り返していると、レイアはアームを伸ばして、銃をかざして見せた。
「気持ちは嬉しいが、そうも行かない。これがループになるのはドロップSで絶対ドロップするからだ。レイアじゃドロップが切れてしまう」
『なるほど。さすがマスターです』
俺達は成長弾の育成を続けた。
だいぶ時間はかかったがレベルが3にあがり、永久機関は完成し、問題なく稼働したのだった。