207.妖気の弾
セレンダンジョン、最下層。
普段と違う空気の中、「純潔を汚すもの」、ダンジョンマスター・バイコーンが徘徊してた。
何度目かの遭遇、やっぱり珍しいモンスターだよな。
バイコーンと、ユニコーン。
ユニは1の意味、バイは2という意味だ。
バイコーンはその名の通り、一本角のユニコーンと対をなす、二本角のモンスターである。
そのバイコーンを。
「リペティション」
で瞬殺した。
全魔力を一瞬で使い果たし、無限回復弾の連打で回復。
ダンジョンマスターは修行とか鍛錬とか悠長な事をいってられない、リペティションで瞬殺だ。
長引けばそれだけほかの冒険者が稼げなくなるし、万一の事があったらダンジョンの構造がかわってしまう。
リペティションで瞬殺するのが最善で、現実的に考えて唯一の選択肢だ。
「ふう、これでよし。今年の仕事もこれでおしまいかな」
疲労感から回復した俺がつぶやく。
しかしどうやら終わらなかったようだ。
倒されたバイコーンはドロップした、セレストが使ってるバイコーンホーン二本目か、って思っていたが違った。
階段だった。
セレン最下層、そこにあらわれた更に下に続く階段。
ダンジョンの精霊に続く階段。
「……ダンジョンマスターでもでるのか」
つぶやきながら、一応警戒する。
何があっても良いように二丁拳銃には特殊弾を全種類詰め込んだ。
階段を降りる――降りきったら階段はすぅと消えた。
そこは何もない、「白」が広がる不思議な空間。
「ここまでは一緒か」
白い空間は道になっていた。道なりにしばらく進んでいくと、開けた広大な空間にでた。
そこにモンスター(?)らしきものがいた。
身長は160センチってところか、やや長身の女だった。
髪が長く、クールな雰囲気が漂う美女。
その美女の周りにソフトボールサイズの光る玉が飛びかっていた。
まるで恒星の周りを飛ぶ惑星みたいだ。
玉の数は七、それぞれ色が違う。
七色の玉……光り方と妙に実体のない見た目からして、魔力の玉で間違いないだろう。
「話は通じるか? それとも――」
口を開いた瞬間、女が手をかざした。
透き通った肌、白魚の様な指。
その指先から業炎が放たれた!
「ですよね!」
うなりを上げて飛んでくる業炎を横っ飛びで躱して、まずは小手調べの通常弾と追尾弾を撃つ。
まっすぐ飛んでいく通常弾、明後日の方角に撃ったが弧の軌道を描いて飛んでいく追尾弾。
直線と曲線、両方を同時に放った。
女は更に手をかざす、蒼い魔力玉が氷の盾になって銃弾を防ぐ。
氷の盾ならば――と火炎弾、そして斬撃弾を同時に撃った。
途中でぶつかって融合、火炎斬撃弾になって女の氷の盾をとかす切れ込みをいれた。
すかさず追撃――。
「ぐはっ!」
真横から衝撃が来た、とっさに横っ飛びしたが衝撃を受け流しきれず吹っ飛ぶ。
「ぐあああああ!」
全身を灼く痛撃が二段構えで来た。
これは――電撃!?
着地して一回転、膝と手をついてすぐに起き上がる。
女の周りを飛び回っていた玉が、俺が立っていた場所でバチバチと放電していた。
息つく暇もなく女が飛んできた。
魔力の玉じゃない、本人だ。
魔力玉の一つに触れて、握りつぶすようにすると。
『斬人剣、召喚』
声が聞こえた様な気がしたけどそれどころじゃない。
女は魔力の玉が変化した剣で鋭く斬ってきた。
とっさの事で躱しきれない、腕をクロスさせてガードする。
「――っ!」
奇妙な現象が起こった。
剣は上着の袖を切れなかった、しかし切ったところ、服の下が裂けて血を吹き出した。
一呼吸遅れて皮膚を灼く痛み、斬撃の痛み。
驚愕しつつ通常弾を連射しつつ、地面を蹴って距離を取った。
回復の前に切られた箇所を見る。
服はやっぱりなんともない、だけど皮膚はぱっくり裂かれている。
回復弾を連打、傷口を塞ぐ。
女は剣を構えて更に突進、構えもスピードもかなりのもの、モンスターだが達人の域だ。
裂けていない服、もしかしてとおもい通常弾を連射、後にクズ弾も連射。
高速で飛んでいく通常弾を剣ではじきつつ直進した女、のろのろと進むクズ弾も剣で弾こうとするが。
「!!」
「残念それは動かないものだ」
何があってもマイペースを崩さない超スロースピードのクズ弾、女の剣はそれをはじけなかった。
そして推測通り、斬れもしなかった。
斬人剣、確かにそう聞こえた。
服は全くの無事で、しかし肌だけぱっくり切り裂かれている。
人間だけを斬る――人間しか斬れない剣だ。
それを解明した――が。
「時間はかけられないな」
俺を斬った直後からほかの魔力玉が更に輝きをました。
何かがある、直感でそれを思った。
長期戦は不利、一気にケリをつけないと。
俺は虎の子の加速弾を自分にうった。
瞬間、世界が静止する。
加速した世界の中で女に肉薄、思いっきりクロスカウンターを叩き込む。
女は吹っ飛ぶ、しかし手応えが曖昧だ。
吹っ飛んでる女に追いついていく魔力の玉、魔力の光が一瞬膨らんで、さっきより弱くなった。
「防御? 身替わり? どっちにしろそれからやった方がいいか」
加速弾は三十秒、時間をかけていられない。
俺は再突進、今度は魔力玉からやった。
女はさすがだ、この空間を守るモンスターなだけある。
俺だけが加速する世界の中でも反撃をしてきた。
それはもう大分おそいものだった、人間で言うと三歳児程度の動きしかない。
剣を避けて、高速で――しかし加速中はよく見える、背後に回る魔力の玉の攻撃を避けて。
至近距離から貫通弾を全ての魔力の玉に打ち込んだ。
加速した世界の中、魔力の玉はほぼ一斉に砕け散った。
女の表情が強ばる中、俺は銃口を突きつけて、ゼロ距離からの通常弾でトドメを刺した。
「ふう……手ごわかった……」
加速が切れたあと、肺にたまった空気をまとめて吐き出す。
倒された女が徐々に消えていくのを待った。
何があっても対応出来るように銃を構えたままにしたが、それは杞憂に終わった。
女が消えた後、そこに現われたのは一発の銃弾と、更に下に続く階段。
階段はきっと精霊の部屋へ続く道、今までがそうだった。
セレンダンジョンの精霊、セレン。
それがこの下にいる。
「っていうか、今度はストレートに銃弾ドロップなんだな」
アウルムの時は既存の弾丸をパワーアップするものだったけど、今落ちてるのははじめてみる弾丸だった。
ジャケットにミミズの這うような文字や紋様が刻まれている、今までのものとははっきりと違う。
俺はそれを手にした瞬間、迷いなく銃に装てんした。
持った瞬間分かった、これは無限系の弾丸だ。
今持ってる雷弾と回復弾、この二つと一緒。
撃ってもなくならないタイプの、無限系の弾丸。
だから俺はそれを込めて、すぐに何もないところに試し撃ちした。
撃った後、シリンダーが一瞬光った。
もう一回撃つ、シリンダーの、新しい弾丸を込めたところが光った。
弾自体は通常弾よりちょっと遅い弾速のもので、今の所特殊効果があるようには見えない、が。
もう一度撃つ、やっぱりシリンダーの中で光る。
何となくさっきのモンスターを思い出した。
俺を切った後魔力の弾が輝きを増したが、それと今の光が似ている。
そして輝きと共にモンスターが強くなったような雰囲気を感じた。
「……撃つ度に強くなる弾丸?」
俺の頭の中に、人の生き血をすすって強くなる妖刀、そんなものが浮かび上がってきたのだった。