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206.リョータらしさ

 この日はみんなでダンジョンに行かず、コロシアムに集まった。


 前から言われていた、年度表彰の日。

 街のダンジョン協会がその年で特に貢献度の高い冒険者を表彰して、それによって冒険者達のやる気を引き出すためのセレモニーだ。


 表彰は☆1から☆7までのランクがあるが、リョータファミリーは全員ノミネートされてるから、みんなしてここに来ている。


 コロシアムの奥、控え室。

 ドレス姿の仲間達と入ると、そこに見知った顔がいた。


 ネプチューン。

 ネプチューンファミリーの大黒柱、超有名な冒険者だ。


「やあやあ、久しぶりねリョータ君」

「ネプチューン――っていきなりくっつくな、肩に手を回すな」

「つれないことを言わないでおくれ。キミと僕の仲じゃないか」

「どんな仲だよ!」

「うーん、そうだね」


 ネプチューンは俺に肩を組んだまま、あごを摘まんで考えた。

 優男だが顔の作りは良い、嫌みの無いタイプのイケメン顔が間近で思案顔になる。


「宿敵と書く親友?」

「そんな関係だっけ!?」


 俺は盛大に突っ込んだ、そんな関係になった心当たりはまったく無いぞ。


「じゃあ心友。ああ、もちろん心の友の方の心友ね」

「今はじめて聞く表現だ!」

「僕としてはキミとなら一人の女性を奪い合うというのもやぶさかではないね。もちろん最後は僕が負けてキミたちの事をさわやかに祝福するんだ」

「さわやかな顔でさわやかなやりくちを語ってるけど業が深いぞ!」


 負けを望むとかちょっと信じられない。


「あはは、キミのツッコミは相変わらずだね。だから好きなんだ」

「はいはい」


 俺は呆れ混じりのため息をついた。

 ネプチューンのそれ(すき)は9割9分ネタだと分かっている。


 なぜなら彼の背後に本命(、、)がいるからだ。


 妖艶なお姉様キャラ、リル。

 守ってあげたくなる妹キャラ、ラン。


 実は大所帯なのにネプチューンが唯一引き連れてる二人、バトルスタイルから見てもおそらくは替えのきかない二人。

 リルとランの二人がネプチューンの本命だと俺は睨んでいる。


「いやあ、しかしリョータ君はすごいね」

「何がだ?」

「リョータ君自身がすごいのはもちろんだけど、ファミリー全員が表彰対象になるなんてなかなか無いことだよ」

「ああ」


 俺は背中にいる仲間達をちらっと見た。


 エミリー。

 セレスト。

 イヴ。

 アリス。


 ドレスでおめかし(何故かイヴだけいつものバニーだが)している仲間達。

 みんなで表彰を受ける、俺の大事で、誇れる仲間達。


「調べてみたけど、ファミリー全員の受賞は67年ぶりだね」

「そんなのを調べたのか」

「それだけ珍しいことだからね、すごいよリョータ君」

「……ありがとう」


 仲間達をほめられた俺は嬉しかった。

 振り向くと、みんなも同じように嬉しそうな顔をした。


「リョータさん」

「マーガレット。あんたも来てたのか」

「はい!」


 ネプチューンを押しのけて、話しかけてきたのは数日前にあったばかりのマーガレットだった。


 この部屋には様々な人間が集まっている、今日表彰を受ける人間ばかりで、全員がそれなりに正装をしている。

 その全員が霞んだ――俺も含めて。


 俺の元にやってきたマーガレットはプリンセスドレスで着飾っていた。

 見た目はどこかの王女――いや見た目だけではない。

 醸し出す雰囲気さえ、完全に王女そのものだ。


 高貴で、上品で、美しくて。


 文句のつけようがない王女。

 マーガレットはそんな存在で、周りの人間は全員が霞んでしまった。


「リョータさんのおかげで、私、☆4として表彰されることになりましたの」

「すごいな、☆4はそう何人もいないだろ」

「リョータさんのおかげですわ。あの時リョータさんにレベルを上げていただいたから」

「その後のマーガレットの頑張りが認められたんだ。レベルを上げただけじゃダメなひとはダメだろう」

「それでもリョータさんのおかげですわ。あの、リョータさん」

「うん?」


 マーガレットはもじもじして、頬を染めて俺を見た。


「ら、来年も、よろしくお願いします」

「うん? ああ宜しく」

「はい!」


 パア、と花が咲いたような笑みを見せるマーガレット。

 何を言われるのかと少し身構えたけど、よろしくって言われただけだった。そして宜しくって返したらものすごく嬉しそうにされた。


 なんでだ?


「リョータ君、キミの事は心友だと思っているけどそういう所ダメだと思うね」

「ダメね」

「最悪だね」


 ネプチューンの仲間、リルとランも口々に俺をこき下ろした。

 いや、何がだめなんだ?


     ☆


 それがわからないまま、表彰が始まった。

 セレモニーになっている感じの表彰式典だった。


 コロシアム――表では新しくダンジョン協会長になったセルが演説で一席ぶっていた。

 普段から言葉使いが尊大なセル、演説は実に堂に入って、聞き惚れる程のものだ。


 その後表彰が行われた。☆1から順にやっていく表彰だ。


 ☆1はそれなりの人数がいた。

 みんな一斉にコロシアムのリングに出て行って、司会者が名前を呼んで、軽く業績を紹介する。

 それでコロシアムにつめかけた、満席にした観客が拍手を送る。


 ☆1の次は☆2、約半分になった冒険者が表彰された。

 これも紹介されて、拍手を受けた。

 ☆3も、☆4も、☆5も。

 徐々に少なくなっていく冒険者達、それでもやってる事は同じ。


 ☆6のネプチューン、いよいよおなじランク一人になった彼が出て行ってもそれはかわらなかった。


 実の所表彰と聞いてちょっと緊張していた。

 こんなことは今までになかったからだ。


 どんなことをされるのかと身構えていたら、ある意味卒業式で「以下同文」的な扱いをされる事がわかった。

 だから、ものすごくホッとした。


 表彰が終わって、戻ってくるネプチューン。


「次はリョータ君の番だね」

「ああ、いってくる」


 これまでの事ですっかり落ち着いた俺。

 仲間達とハイタッチして、軽やかな足取りでリングに向かう。


 すると――。


『うおおおおおお!』

『きゃあああああ、リョータ様ああああ!』

『リョータ! リョータ! リョータ! リョータ!』


 突然、それまでにまったく無かった歓声が沸き起こった。

 怒号と黄色い悲鳴、そして俺の名を連呼する観客達。


 地面が揺れる、歓声の洪水が押し寄せてきた。


「な、なんだ? どうしたんだ一体」

「当たり前なのです」

「エミリー?」


 振り向く、いつの間にかやってきたドレスアップのエミリーが、腰に手を当てて胸を張っていた。


「みんなヨーダさんの事を待ってたのです」

「待ってたって、俺を?」

「はいなのです。ヨーダさんが今年した事、みんなにした事の結果がこの歓声なのです」


 驚き、またリングの方を見る。

 俺が……した事。


「ええ、そう思うわ」


 今度はセレスト、そして仲間達が集まってきた。


「低レベルのくせに生意気、でも、当たり前」

「だよねだよね。ただ稼ぐだけの人じゃないからこの歓声だもんね」

「セレスト、イヴ、アリス……」

「ヨーダさんに直接助けられた人はいっぱいなのです、間接的に助けられた人はもっといっぱいなのです。だから――なのです」


 にこり、と微笑むエミリー。

 歓声はまだ続く。歓声の洪水が、じわり、と胸に染みこんできた。


「……そうか」


 これが、この光景が。

 俺がここに来てやってきたことの結晶か。


 向こうにいた頃には考えられたなかった、何をやっても報われない日々だった頃からは絶対に考えられなかったこんな光景。


『うおおおおお!』

『リョータアアアアア!』


 俺を呼ぶ――待ち焦がれるもの達の声。

 今までもちょこちょこと報われたけど、今が一番、全て報われた、そんな気分になった。


 俺は深呼吸して、リングに向かおうとした。

 みんなの声援に応えるために、姿をさらそう――。


「た、大変だ!」


 それをとめたのは、血相を変えて飛び込んできた一人の男だ。

 男はドアを破るように入って来て、泥まみれの顔で必死に訴えた。


「セレンが! セレンでダンジョンマスターがでた!」


 控え室がざわつく、ダンジョンマスターの出現。


「おいおい、予報はずれてるじゃないか」

「大半の実力者はこのセレモニーに来てる、まずいぞ」

「セレンの生態系代わってしまうのか?」


 場がヒリついた、不穏な空気が流れた。

 そうとも知らずに、表――観客達は未だに歓声を上げている。


 俺は両方を――いや比べるまでもないな。


「エミリー」

「ハイです」

「悪いが表彰をかわりに受けてくれ、説明を頼む」

「お任せなのです!」


 エミリーは満面の笑顔で胸を叩いた。

 俺は正装の襟をゆるめ、リングとは反対方向に控え室から飛び出した。


 表彰を直に受けられなかったのは残念だが。


『うおおおおおおお!』


 背後から聞こえてきた、さっきの倍以上の歓声。エミリーの説明による歓声。

 それで全てが報われる、そんな気分になった

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >実は大所帯なのにネプチューンが唯一引き連れてる二人、バトルスタイルから見てもおそらくは替えのきかない二人。 >リルとランの二人がネプチューンの本命だと俺は睨んでいる。 ネプチューン…
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