197.リヴァイヴとリペティション
屋敷の地下室、小山になっているもやし。
今日はこのもやしを使っての実験だ。
最初は少し待った、いつも通りの時間が経過して、もやしがハグレモノ・スライムに孵った。
それを通常弾で撃ち抜く、すると通常弾がドロップされた。
いつものやり方、この通常弾一発を獲得するのは簡単だが、待ち時間がとにかく長かった。
待つのに数分、倒すのに一秒という、とんでもない効率の悪さだ。
今まではそうしてきた、その方法しかなかったからだ。
「レイア、頼むぞ」
『わかりました』
装着してるレイアから直接頭に響く声が聞こえた。
俺は銃を構えて、もやしの山に近づく。
ハグレモノは「人間がいない所」で孵る、言い換えれば近くにいる限りは孵らないって事だ。
それを逆らって近づく、この、ハグレモノ専用にしている地下室で。
山の前に立つと、俺は一本のもやしをつまみ上げて、レイアがそれに向かって。
『リヴァイヴ』
初級クズ魔法、リヴァイヴを使った。
唱えた瞬間、ノータイムで目の前のもやしがスライムになった。
俺の手のひらの上に孵ったスライム、ドロップ品が手の中でモンスターに孵って行くという、今までになかった新鮮な触感。
そのままスライムをつぶした。
倒したスライム、ドロップに銃弾が出た。
「いい感じだ、次々と行くぞ」
『はい』
俺がもやしをとって、レイアがリヴァイヴをかける、戻ったスライムをノータイムで瞬殺。
世界が変わった。
今までは、待つのに数分、倒すのに一秒だった。
けど今は、待つのに一秒、倒すのに一秒になった。
完全に別世界、別次元の効率だった。
『マスター』
「なんだ」
『MP切れです』
「MPがFだったなレイア。無限回復弾を自分に撃ってみろ」
『わかりました』
レイアは言われた通り、アームの一本が持つ拳銃に無限回復弾を込めて、プロテクターになっている自分を撃った。
そして。
『リヴァイヴ』
もやしがまたスライムになった。
このコンボはちゃんと機能した。
HPとMPの両方を回復する回復弾、それはレイアにも効果を発揮した。
リヴァイヴをとにかく使ってもらって、MPが切れたら無限回復弾でMPを回復、そしてまたリヴァイヴを連射。
そのやり方で、小山になってるもやしを処理するまでに20分とかからなかった。
『マスター』
「どうした」
『さっきからきになっていたけど、銃弾のほかに出ているこれは何ですか』
「うん? ああ経験値の事か」
そういえばレイアはこれを見るのはじめてか。
俺も久しぶりにこれを出してる。普段はほとんどしないけど、今日はとことんやるつもりだ。
俺は、親指につけたサイズの大きい指輪を見せた。
「ニホニウムのダンジョンマスターがドロップした指輪だ、これをつけてると、レベルカンスト以降の経験値がこうしてクリスタルになって出てくる。これをカンストしてない人にあげるとレベルを上げる事ができるんだ」
前にマーガレットの時に大活躍したが、その後日の目を見る事のなかった指輪だ。
そもそも、この世界ではほとんどの冒険者が周回で勝手にレベルカンストしている。
これが必要な場面ってほとんどない。
ちょっと思うところがあるのと、今日はとことんやるためについでにつけてきたのだ。
「ヨーダさん、お待たせなのです」
地下室の入り口からエミリーの姿が見えた。
彼女の後ろから業者が、『燕の恩返し』の人間が次々ともやしを運んでくる。
「いけたのか」
「はいです、前と同じシクロの在庫ほとんど買ってきたです」
エミリーが答える、その横で次々と搬入されるもやし。
やがて地下室を埋め尽くすもやしの山・山・山。
『燕の恩返し』の人間がいなくなった後、エミリーが。
「ご注文のもやし百万ピロ分なのです」
もやし百万ピロ、それはマーガレットの時と同じ数だった。
マーガレットのレベルを上げるために経験値に変換した100万ピロのもやし、それはほぼ一日かかった。
今回はどれくらいかかるかな。
俺は腕まくりして。
「さてやるか」
「ファイト、なのです!」
「ああ。レイア、打ち合わせ通り最速パターンでタイムアタックするぞ」
『分かりました』
俺たちはもやしに向かって行った。
レイアがリヴァイヴを唱えた、孵ったスライムに俺がリペティションを唱えた。
リヴァイヴ、リペティション。リヴァイヴ、リペティション。
回復弾を挟んで、またリヴァイヴリペティション。
俺たちはほとんど動くことなく、考え得る最速の組み合わせでスライムを倒していった。
ちらっと見えたエミリーがフォローに回ってくれていた、ドロップした通常弾と精製した経験値を地下室から運び出す。
俺は集中して、無心でスライムを狩っていった。
もやしの山は目に見える程の速さで減っていく。
前回、丸一日かかった100万ピロのもやしの山を食い尽くすまでに二時間も必要無かった。
レイアのリヴァイヴによって、ハグレモノ関連の討伐生産が、革命を起こしたほどの変化――いや進化を遂げたのだった。