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174.ブラックホール

 会長室を出た後、廊下でセルと並んで歩く。


「サトウ様にお願いしたい」

「うん?」

「数日はこの街に滞在をしてくれないだろうか」

「滞在? それは別にいいけど……なんで?」

「余はこれからヤツを追い込む」


 さらにか。

 ライナスの怯えた表情を思い出す、ここまで来るとちょっとだけ気の毒にも思えてくる。


「使える手を片っ端から使っていく。内から外から追い込んでいくつもりだ」

「俺も何か手伝えばいいのか」

「いいや」


 セルは真顔で俺を見つめる。


「サトウ様はいるだけで結構だ。あなたがいるだけで相手に圧力がかかる」

「いるだけで圧力って……それは大げさ過ぎないか?」


 セルは口角を持ち上げて笑みを作っただけではいともいいえともいわなかった。


「とにかく、いてくれると助かる」

「そうか……たまに姿をくらませたりした方がいいか?」

「さすがサトウ様だ」


 尊敬の眼差しで言われた。


「そうしてくれるとなおのこといい、向こうが勝手に疑心暗鬼になってくれる」

「分かった。そういうことなら任せてくれ」


 セルの要請を受け入れ、決着がつくまで、数日はこの街、サメチレンに滞在する事にした。


     ☆


 サメチレン、9つのダンジョンを持つ栄えた街だ。

 その中の一つ、コバルトというダンジョンに入った。


 コバルト地下一階、足を踏み入れたダンジョンはびっくりするくらい広く、まるで森のようだ。

 木々が生い茂っていて、上を見あげると木に覆われてあるのかどうかわからないがが見えない。

 栄えた街の端っこからダンジョンに入ったら密林だった、というギャップが面白かった。


 ダンジョンの中に冒険者はあまりいなかった。

 ぽつりぽつりと見えてる程度だ。


 魔力嵐があるわけでもなく、ドロップが低くなる日殖の日でもない。

 でも微妙に人が少ない。


 なんでだろう……って思ってるとモンスターと遭遇した。


 サイズはほぼ人間、前屈みになってて、足と同じくらい長い腕をだらんと垂らしている。

 背中にコウモリの様な翼があって、体全体が紫っぽい色になってる。

 よく見れば目がなくて、ランダムに徘徊している様な動きをしてる。


「悪魔、か?」


 見た目の印象からそうつぶやいた俺。

 実は何も聞いてこなかった。

 街で冒険者に声をかけてダンジョンの数と名前を聞いてきたが、内容は聞かなかった。


 出たとこ勝負だ。

 これも鍛錬の一環だ。


 何も知らないでダンジョンに入って臨機応変に対応する力を実戦でつける。

 ちょっと前からの方針をここでも同じようにした。


 銃を抜いて――あっ。


「そういえば一丁になったままか。街でマグロを調達できるかな」


 グランドイーター戦でなくした銃の補充を記憶の片隅に留めておきつつ、通常弾を込めてモンスターを撃った。

 銃声と共に、通常弾が目のない悪魔の頭を撃ち抜いた。

 ヘッドショット一発、悪魔は一撃で沈んで、アイテムをドロップした。


「弱いな……まあ一階だしこんなもんか」


 鍛錬もなにもないがそういうものだと割り切りつつ、ドロップしたものを拾い上げた。

 それは長方形の鈍色の固まりだった。


「この触感と光沢……鉄の延べ棒か? 重量は……一キロってところか」


 悪魔がドロップしたものを触ったり撫でたり、中指の第二関節でノックしてみたりした。

 多分鉄で間違いないだろう。


 アウルムのダンジョンで、小悪魔を倒して砂金をドロップした。

 ここの悪魔は鉄をドロップした。


 ドロップ品の種類とモンスターの種類は傾向があきらかに存在する。

 このコバルトというダンジョンは、悪魔系のモンスターが出て、鉱物をドロップするダンジョンだろうな、と今までの経験から判断した。


 一キロ程度の鉄の延べ棒をポケットの中に入れた。

 こんなことになるとは思ってなかったから魔法カートは持ってこなかったが、グランドイーターのポケットがあるから問題なかった。


 しばらく歩いて、また悪魔とであった。

 よくみるとその徘徊のしかたはどことなくニホニウムのゾンビに似てる。肌の色とかもゾンビに近い。

 ゾンビデーモンとか、そういう名前のモンスターだろうか。


 そいつを通常弾でヘッドショットしたらまた鉄の延べ棒がドロップした。

 やっぱり一キロ程度の鉄だ。

 それを拾ってポケットに入れる。


「……二キロもの物がポケットに入っている感触じゃないな」


 男にだけ分かる話だ。

 ポケットにものを多くいれた時のあの微妙な感触。

 重たくて、変にぶらんぶらんとして、太ももにあたってやたらと邪魔なあの微妙な感触。


 当たり前だがあれがまったくない。


 ゾンビデーモンを倒していく。

 ヘッドショットをしたり、銃をやめて殴り倒したり、かみついてくる口の上下を掴んで引き裂いたり。

 コバルト地下一階でモンスターを倒して、鉄の延べ棒を集めて回った。


 無心で回り続ける、すると一つ分かった。


 ここにいる冒険者達はシクロの冒険者達と変わらない。

 周回前提の効率的な動きでモンスターを倒して、ドロップした鉄の延べ棒を魔法カートにいれるのだが、魔法カートがいっぱいになる前に引き上げていた。


 まだまだ入りそうな感じだが、押してるカートが妙にふらつく。

 体積よりも、重さの方が先に魔法カートの限界に達したみたいな感じだ。


 なるほど、鉄だとこうなるのか。

 まあ、野菜に比べると比重が圧倒的に重いしな。


 そんな感じで、俺は新しいダンジョンでモンスターを倒しつつ、この街の冒険者達の観察を続けた。


     ☆


「ここが買い取り屋か」


 コバルトダンジョンを出て、街の人からきいた買い取り屋にやってきた。

 看板には『おしどり合戦』とかかれている。

 魔法カートを押した冒険者たちに紛れて、俺は手ぶらで店の中に入った。


 『燕の恩返し』と違って、中は無駄に広かった。

 カウンターでは無く、スーパーのレジ、それを極端に広く配置したような作りになってる。

 俺は空いてるレジの一つに向かった。


「いらっしゃいませ、お客さん初めて?」


 レジの男店員が商売スマイルを浮かべて聞いてきた。


「ああ。初めてでも買い取ってもらえるか?」

「もちろんだ。この街のダンジョンでドロップしたものなら何でも買い取る……けど、お客さんなにも持ってないみたいだな」

「そうでもない」


 俺はポケットの中に手を突っ込み、鉄の延べ棒を一つ取り出してレジのテーブルの上に置いた。

 置いた瞬間、レジの機械で数字が動いた。


「なるほど、置くと重さがはかれるのか」

「そうだ。しかしお客さん、鉄を1ジンだけじゃ――」

「まだある」


 更にポケットから鉄の延べ棒を取り出して置いた。

 数字が増える、更に取り出す。

 取り出して、置く。次々と取り出して、レジに置いていく。


「えええ!?」


 途中までは「結構入ってるな」って顔をしてた男の店員が、ある時を境に驚きで開いた口が塞がらなかった。


 一キロ……向こうがジンって単位を使った延べ棒を100個くらい並べたところで聞かれた。


「ま、待ってくれ、お客さんどれだけ持ってきたんだ?」

「まだまだあるぞ」


 次々に取り出しておく。

 広く場所を取ったレジに鉄塊を積み上げていく。


 途中から俺もどれだけ入ってるんだ? って自分でも思った。


「おいおい、なんだありゃ?」

「あたらしい魔法カートの技術か?」

「それとも魔法? いや固有スキルか?」


 唖然とする店員、集まってくる冒険者達。

 それらに見守られる中出し続けていたら、最終的に数が1000を越えて、周りから歓声が湧いた。


 1トンを越える鉄塊が、俺のポケットに収まっていたのだった。

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― 新着の感想 ―
>「それとも魔法? いや固有スキルか?」 スキルの概念ってこの世界にもあるんですね…
[気になる点] >カウンターでは無く、スーパーのレジ、それを極端に広く配置したような作りになってる。 この世界に、電算機能のあるレジがあるんかいな?
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