153.それでも俺は
朝起きて、洗面所で身だしなみを整えた後食堂にやってくると、セレストがテーブルに突っ伏して、へばりついてるのが見えた。
黒髪の長身美女で、いつもはキリッとしている美人なのに、それが見る影もなくへばっている。
「おはようセレスト、どうしたんだ?」
「おはようリョータさん。今日は午前中だけ魔力嵐で参ってるのよ」
「ああ、そうなのか。大丈夫なのか?」
「ええ、屋敷の中にいれば大丈夫よ。さっきうっかり外に出たからそれでやられちゃっただけ」
「そうなのか……」
「大丈夫よ」
セレストは体を起こして、いつものキリッとした美人のたたずまいに戻った。
「この屋敷の中にいる限りは遮断されてるし、昼からは元に戻るって予報もあったわ」
そう話すセレスト。
大丈夫のようだし、そもそもどうしようもないことだ。
俺も元の世界にいた時は割と低気圧で頭痛を起こしてたから、こういう時大人しくしてるしかないってのは分かる。
幸い午前中ですむようだし。
「それもこれもリョータさんのせいだわ」
セレストはにっこりと笑顔を作って、おどけた感じで言った。
心配掛けまいと冗談で言ってるのはわかるけど、俺のせいってのは?
「リョータさんと一緒にいてカンストさせられたもの。魔力嵐は魔法使いとしての能力が高ければ高いほどつらいのよ」
「おお、それは確かに俺のせいだ」
「でしょう」
「それならお詫びをしないとな。何かしてほしい事はあるか?」
「そうね……それなら今度一緒に外でお茶でもしない? 街でいい店を見つけたの。そこに二人で」
「分かった。今度行こう」
そう話すとセレストは嬉しそうに微笑んだ。
少しでも魔力嵐のつらさを誤魔化せてあげれたらいいなと、俺は思ったのだった。
☆
ニホニウム、地下六階。
転送部屋でやってきた瞬間俺は違和感に気づいた。
側頭部がズキズキしていたい、ダメージとかじゃなくて、頭の奥から響くようないたさ。
セレストや他の人たちから聞いた、魔力嵐の日のつらさだ。
なんで? って思ったその時。
「あっ……知性S……」
一瞬で理解できた。
魔法使いの体調に異変をきたす魔力嵐。魔法使いとして強ければ強いほど影響をもろに受けるって言われたばかりだ。
俺の知性はS、魔法攻撃力のパラメータである知性をSまであげたのだ。
そりゃあ影響を受けるよな。
その場にたって、体の調子をチェック。
つらいけど動けないほどではない、それに。
アブソリュートロックの石を使って無敵モードにすればそれが大分軽減される。
うん、狩りに影響はないみたいだ。
そう結論つけて、俺は狩りをはじめた。
ニホニウムダンジョン地下六階、ポイズンゾンビ。
今日もそれを狩り続けた。
サルファダンジョンが出てきてますます必要性を感じるようになった、ステータス以外のテクニック。
狙撃したり、四肢を撃ち抜いたり。
いろんな方法を練習しつつ、ポイズンゾンビを倒して種をドロップさせていく。
アクシデントはなく、昼頃になると予定通りの分量の種が集まって、知性がSSになった。
知性も……SSになった。
―――1/2―――
レベル:1/1
HP SS
MP SS
力 SS
体力 SS
知性 SS
精神 F
速さ SS
器用 F
運 F
―――――――――
ポータブルナウボートを使ってチェックしたステータスは綺麗にSSが揃っていた。
これで六つ目、残り三つ。
ゴールまで後少しだ。
それに……そろそろあれも手がかりなり出てくるだろう。
剣、鏡、勾玉。
三つの内の最後が出てきそうな気がする。
あわよくば……を狙って下の階に向かった。
ニホニウムダンジョン、地下七階。
ダンジョンスノーも毒霧もない、一から四階までと同じ場所だった。
必要無いようだから、アブソリュートロックの無敵モードを解除した。
「あれ?」
思わず声に出た。
解除した途端、頭の奥からくる痛みを感じたのだ。
魔力嵐の痛み。
今朝ダンジョンに入った時と同じ痛みだが。
「昼間までじゃなかったっけ?」
クビをひねりつつ、六階に戻った。
毒霧が充満する六階は体力を削られるダメージがあるけど、頭痛はしなかった。
地下七階に戻る、頭痛がする。
六階、しない。
七階、する。
「ウインドウカッター」
魔法を詠唱する、不発だった。
なるほど、どうやら七階の特殊地形のようだ。
ダンジョンは五階を境に色々特殊な地形や効果があることが多い、そのため6階以降は免許が必要になる。
ニホニウム地下七階は魔法が使えない階層みたいだ。
まあ、どうと言うことはないがな。
鈍い頭痛はするが、耐えきれないほどじゃないし、魔法なしでも俺は戦える。
銃を抜いて、弾丸を込めてから進んだ。
すぐにモンスターとエンカウントした。
地下七階のモンスターは包帯をまいたミイラ、マミーだった。
しかしただの包帯じゃない、首の後ろあたりが妙に逆立ってて、全身がバチバチ帯電しているミイラだ。
ミイラは意外と俊敏な動きで襲ってきた。
図体の割りには速いけどレッドスケルトン程じゃない、サッとよけてまずは通常弾。
弾丸はまっすぐ飛んでいき――バチバチしている電気に消されてしまった。
「アーマーになるのかあれ」
間髪いれず今度は貫通弾、そして銃弾をさっと入れ替えて強化弾ましましの通常弾。
両方とも消された。
やっぱりなと思った。
魔力嵐で魔法禁止の階層だ、ついでに物理が通らないようになる可能性も大いにあり得る。
だから通常弾、貫通弾、そして強化通常弾から入ってみた。
結果、予測通りそれは雷のアーマーっぽいのに全部消された。
マミーは突進してくる、豪腕をぶん回して殴ってくる。
ガードしつつ後ろに飛んで威力を受け流す。
それなりにいたかった。パワーは見た目相応のものでガードした腕がヒリヒリする、その上稲妻の追加ダメージもあってビリビリする。
飛び退きつつ今度は何も足さない火炎弾と冷凍弾をうった。
弾丸は着弾して、魔法陣が広がってマミーの腕を燃やして、足を凍らせた。
怒号と悲鳴の合いの子を叫ぶマミー。こっちはきくみたいだ。
魔法禁止の階層、物理耐性が高くて、魔法にはよわい。
わかりやすいな。
待て、もう一つあるぞ。
無限雷弾をセットして、うった。
着弾した弾丸は強力な稲妻を産み出して――マミーを回復させた。
こっちもやっぱり想像通りだった。
包帯がバチバチ帯電してるからもしやと思ったけど、雷属性は吸収するようだ。
これで大体分かった、攻略法もおおよそつかめた。
火炎弾を数発まとめてぶち込むと、マミーは焼かれて崩れ落ちた。
地下四階のように復活もしてこない、普通に倒れた。
攻略法が完全に確立された瞬間だった。
マミーが消えた後、そこに種がドロップされた。
俺だけがドロップする、ステータスをあげる種。
――精神が1あがりました。
地下七階は精神の種がドロップする様だ。
さて、今日はFからEまであげてしまおう。
そう思った直後、足元からマミーが生まれてきて、俺に奇襲してきた。
いきなりの奇襲、慌てたおれは一番確実な倒し方を脊髄反射で選んだ。
「リペティション」
魔法を唱えるが、何も起こらなかった。
一度倒したモンスターを絶対に倒す魔法――なのだが。
「魔力嵐か!」
最強魔法といえど、それはこの世界に元から存在するもの、だから世界の理には逆らえない。
最強魔法は魔法禁止されるとそもそも使えないのだ。
反撃にそれを選んで、不発したタイムロス中にマミーが俺に組み付いた。口が裂けるほど大きく開けてかみついてきた。
引き離そうとするが、ガッチリ掴んでて離れない。
「こ……れしきのこと!」
マミーの頭を掴んで、ボディを蹴った。
それでもガッチリ掴んで離さないマミーだったが、全力で蹴るというか押し出すと、俺を掴んでる腕はそのままに、肘からちぎれて体がすっ飛んでいった。
それでも俺を掴んで離さない腕をもいで投げ捨てて、蹴り飛ばしたマミーに火炎弾をぶち込んで倒す。
今まであれこれ練習してきてよかった。
リペティションが使えなくても、弾丸の種類が制限されてても。
それでも俺はまだまだ戦える。
三体目のマミーを消滅弾で瞬殺出来る程。
苦もなく、戦えるのだった。