150.制限ダンジョン・サルファ
「リョータさん大変です!」
朝、おきた俺が部屋を出て洗面所に向かおうとしたら、慌てた様子のエルザに呼び止められた。
立ち止まって振り向く、エルザは小走りでこっちに向かってくる
「どうした、何があったんだ」
「またダンジョンが生まれました!」
「そうなのか?」
驚く俺、寝起きのぼんやりが一気に吹っ飛んだ。
「シクロになのか?」
セレンのことをおもいだして、まずはそれを聞く。
「はい! シクロ7つめのダンジョンになります」
「となると他の街との取り合いにはならないな」
「セレンの時は大変でしたね」
「そのおかげでセレストと出会えたんだよな」
セレンダンジョン、シクロとヘテロの二つのまん中あたりに生まれたダンジョン。
地理的にちょうど街の真ん中あたりに生まれたことで、シクロとヘテロの争奪戦が起きた。
この世界では第一次産業のダンジョンは重要な税金源だ、シクロもヘテロもダンジョンの所有権を得るために争った。
そんな中、俺はシクロダンジョン協会長のクリントに依頼されて、ダンジョンを攻略してセレンをシクロの管轄下にした。
大分昔のことのように思えてくる。
「シクロのダンジョンになるんなら争いはないな」
「はい。それでクリント会長から連絡が」
「来たか」
「はい! リョータファミリーにダンジョンの調査依頼です。成功報酬は1000万ピロだそうです」
「そうか」
この世界に来たときに傍観者だったダンジョンの調査。
その依頼が真っ先にこっちに来て、俺はちょっとだけ嬉しくなった。
☆
シクロ郊外、新しいダンジョン前。
まだナウボードもつけられていないそこに、リョータファミリー総出でやってきた。
俺、エミリー、セレスト、アリス、イヴ。
ダンジョンに潜る冒険者部隊の5人だ。
「さて、どんなダンジョンかな」
「名前はサルファ。今のところ分かっているのはそれだけだわ」
「サルファ……燃える石か」
「知ってるのリョータ!?」
ファミリー一の知恵袋、セレストが驚く。
「名前を聞いた事があるだけだ」
サルファ、番号で言えば16番のヤツだ。
匂いがきついダンジョンだったら周回つらいなあ、何となくそんなことを思った。
「他に何もわからないのです?」
「分からないわ。私たちが最初の調査部隊よ」
「イヴちんは何か知らない?」
「沈黙はうさぎ」
金みたいな言い方だな。
「やっぱり名前以外何もわからないか」
「どうするのリョータさん。何も分からないというのは危険よ」
「そうだな……」
俺は少し考えた。
「アブソリュートロックの石を使おう、それで何かあってもとりあえずやられる事はないはずだ」
「そうね、それがいいわ」
「その上で俺が一番手で入る。その次にエミリー、アリス、セレスト。最後はイヴ」
「うさぎが最後、何故?」
「最初と最後は強さと経験のあるヤツの方がいざって時に対応出来るから」
「わかった。ニンジン三日分」
「オーケーだ」
入り方、入る順番を決めたあと、仲間達は各々自分の装備をチェックしはじめた。
全員が持っている絶対防御のアブソリュートロックの石、その上でエミリーはハンマー、セレストはバイコーンホーンと、皆がそれぞれの武器や道具をチェックした。
それが一通りすんだのを確認して。
「行こう」
俺が言って、みんなが頷いた。
アブソリュートロックの石で無敵モードになってから中に入った。
ダンジョンの中はだだっ広い、コロシアムの様な場所だった。
ドームと言えばいいのか? とにかく広くて、無駄に広い場所。
下に続く階段はない、一階だけか?
まわりを見回していると、早速モンスターが現われた。
人型のモンスター、成人男性とほぼ同じサイズ。
体は緑色で、顔面にでっかい眼球が一つ。
「サイクロプス、か?」
知識の中で合致する名前があった。
イメージではもっと巨人のはずだから、合っているか分からなかった。
まあいい、とにかく倒そう。
俺は銃を抜こうとした――なかった!
戦闘の主軸である銃がなかった!
どこに行った! 落としたのか!?
そんな事を思ってるとサイクロプスが襲ってきた、のっしのっしと迫ってもっているこん棒を振り下ろす。
ガシッ! と手をあげて受け止めた。振り下ろされるこん棒を掴んだ。
サイズ通りのパワーだから苦もなく受け止められた、こん棒は鈍器だから手のひらがヒリヒリする――ヒリヒリ!?
よく見れば無敵状態じゃなかった、アブソリュートロックの石もなかった。
それだけじゃない、何もない。
武器とかアイテム類は何一つない、着ている服以外何もなかった。
「……持ち込み不可ダンジョンか?」
知識の中にそれがあった。
持ってるアイテムを一切持ち込めないダンジョン。攻略を難しくさせるダンジョン。
……それだけじゃないようだ。
未だに誰も入ってこない。
俺が中に入って一分以上立つのに、仲間の誰も現われない。
持ち込み不可の上にソロ限定か?
アウルムのことを思い出した、ローグダンジョンのあそこも結構面倒なところだ。
「ぐおおおおお!」
考え事で集中が切れてしまって、サイクロプスは俺の手からこん棒を強引に引き抜いて、更に振り下ろしてきた。
それをよけて、思いっきりパンチを叩き込む。
ボディブローの一撃はサイクロプスを腹から引き裂いた。
どうやら……力SSはそのままみたいだ。
サイクロプスは消えて、その場にトウモロコシ一本がドロップした。
トウモロコシ一本、100ピロ程度か。
そして、もう一つ現われた。
扉だ。
何もなかったところに扉が現われて、扉の向こうに外が見える。
見覚えがある、このサルファの外だ。
「点滅してる……時間内に出ろ? って事か」
俺は少し考えて、一旦外に出ようと思った。
トウモロコシを持って外にでる、ダンジョンの外だった。
「ヨーダさん!」
「大丈夫だった?」
エミリーとセレストがそこにいた。
「二人とも大丈夫だったか」
「はいです! すっごく慌てたです」
「慌てたってことは、ハンマーを持ち込めなかったってことか」
エミリーの手元にはハンマーがある、そして俺も腰に銃と銃弾がある。
持ち込めないだけで、戻ったらちゃんと元に戻るみたいだ。
「はいです! 相手のこん棒を奪ってどうにか倒して戻ってきたです」
「道具は持ち込めないのか……じゃあセレストのバイコーンホーンも?」
「ええ、それともう一つ」
「なに?」
「インフェルノが使えなかった。魔力が足りなかったの」
「え?」
「ファイヤーボールは使えたから」
「……レベルもリセットか」
すぐにピンと来た。
持ち込み不可と来れば、よくセットでついてくるのがレベルリセットだ。
どれだけレベルが高くても、ダンジョンに入ったら1からやり直し。
確証はないが、多分そうだ。
そうしてる内に、今度はイヴが出てきた。
彼女は頬と肩にかすり傷を負っている。
「大丈夫かイヴ」
「屈辱」
「え?」
「うさぎが低レベルになった」
「ああ、やっぱりそうか」
原理は聞いてないが、イヴはパッと見ただけで相手がどれくらいのレベルなのか分かるようだ。
「その言い方だと、入ったらレベル1になってしまう、でいいのか?」
「その通り。うさぎは二度とここに入らない」
「わかった。後は任せてくれ」
レベル1からやり直し、ってのがはっきり分かるだけで充分だ。
それと合わせて情報がもう一つ出来た。
俺の能力は下がってなかった。
レベル1に戻されるダンジョンで、俺はもともとレベル1だから能力は下がってなかった。
ある意味、おれ向きのダンジョンだが。
「ドロップがしょっぱいのがな、一体で100ピロ程度の稼ぎはな」
「二回目は増えた」
イヴが不機嫌な顔のままいう。
「増えた? というか二回目」
「ちょっと強い一つ目が現われた、倒したら一回目の倍のドロップがでた」
「へえ……」
「三回目は更に倍だった。いやだからそこで抜けた」
「えっと……つまり……?」
首を傾げていると、イヴはドサドサ、とネギを地面に放り出した。
俺とは違うドロップ、ネギ。
その量は……。
「700ピロくらいか」
「それくらいなのです」
「そうね。誤差はあるかも知れないけど」
エミリーもセレストも同意してくれた。
みんな結構ダンジョンに潜ってきたから、ドロップもある程度の目算が出来るようになってる。
「俺はトウモロコシだ、100ピロ分」
「私はキュウリなのです、同じく100ピロ位なのです」
「こっちは椎茸……やっぱり100ピロ分よ」
「つまり倍々で強さとドロップが増えていく訳か」
「そうかも知れないわね」
「よし、俺が潜ってくる」
「大丈夫なのです?」
「俺は最初からレベル1だからな、能力は低下しなかった」
「なるほどなのです!」
「さすがリョータさん、うってつけのダンジョンね」
「低レベルのくせに生意気だ」
みんなに見送られて、もう一回ダンジョンに入ろうとした、その時。
「たっだいまー。すごいよすごいよ、りょーちんすごいよ」
アリスがものすごく興奮しながら、山ほどのトマトとともに戻ってきた。
「アリス? その量はどうした」
「りょーちんすごいよ、一人で完全攻略だよ」
「完全攻略したのか?」
「うん! リョータって武器がなくても強いね!」
アリスはものすごく興奮していた。
りょーちん、アリスの召喚魔法で、俺とまったく同じ強さのコピーを召喚する魔法。
「改めてもぐる必要がなくなったわね」
「さすがヨーダさんなのです」
意外な形で検証がすんだ。
俺ならダンジョンをクリア出来るのと。
「ドロップは……モンスターは何回でた?」
「9回」
アリスははっきり答えた。
トマトの山、そして9回のドロップ。
今までの法則と、その二つの情報ですぐに計算が出来た。
100から始まって倍々を九回、その合計
「一回で約五万、ってことか」
割がいいのかよくないのか、さらなる検証が必要だな。