148.最強の使い魔
セレンダンジョン、地下七階。
ダンジョンスノーが降りしきる無人のダンジョンの中を、一頭の馬が我が物顔で闊歩していた。
ただの馬ではない、頭に二本の角を生やしている、このダンジョンの主にして最悪のモンスター。
ダンジョンマスター、純潔を汚すもの、バイコーン。
バイコーンは周囲の能力を低下させるオーラをだしながら気持ちよさそうに歩いている。
それを、一階から地道に降りてきた俺とアリスが見つけた。
「いたねー、探すの大変だったよ」
「階を跨ぐからなダンジョンマスターは。転移でさくっとは行かないし」
「あたしが追っかけても途中で階層移動しちゃうしね」
転送部屋の意外な限界が露呈した。
いったことある階層なら何処へでも飛べる屋敷のオプションの転送部屋だが、ダンジョンマスター相手だとどの階にいるのか確定しないから今ひとつ使いづらい。
俺たちは転送で一階に飛んで、そこから地道に降りてきて、七階でようやくバイコーンを捕捉した。
バイコーンもこっちに気づいた。すわった目で俺たちを睨んでる。
「怒ってるね」
「確かもう冒険者が挑んで返り討ちになってるんだっけ」
ダンジョン協会から急に入って来た依頼の内容を思い出す。
セレンでダンジョンマスターが現われた。第一次討伐隊を差し向けたが返り討ちにあった。
長引くと生産や物流に悪影響が出るので早めの討伐が望ましい。
「さくっと倒してしまおう」
「あたしが行くね」
「危険だと思ったらすぐに介入するぞ」
「大丈夫大丈夫、あたしたちにお任せ」
目の前で横ピースで決め顔をしつつ、アリスはバイコーンに向かって行った。
「まずは小手調べ。ホネホネ、プルプル、ボンボン、トゲトゲ」
名前を呼びながら、仲間モンスターを召喚。
彼女の肩に乗ってた四体のぬいぐるみが本来のサイズで、デフォルメされた姿に戻って、バイコーンに攻撃をする。
スケルトンのホネホネとスライムのぷるぷるが前衛で殴りかかって、小悪魔のボンボンが後ろから魔法で、ニードルリザードのトゲトゲが背中のトゲを飛ばして援護射撃。
前衛2、後衛2というオーソドックスでバランスのいいパーティーだ。
連携もいい、大半のモンスターは歯が立たないだろう。
だが相手はバイコーン。ダンジョンマスター。
「純潔を汚すもの」で相手の能力を低下させ、角と後ろ足で四体を蹴散らす。
四体はそれでもめげず更に挑みかかるが、実力の差は歴然だ。
「やっぱだめか。しょうがない、奥の手いっちゃおう」
アリスはぐぐぐぐって溜めて、ぱっ! とガッツポーズする。
「りょーちーん!」
アリスの召喚魔法。空間が割れて、中からデパートの屋上にいそうな感じの着ぐるみが出てきた。
着ぐるみは一言で言えば俺だ。俺をデフォルメ化して、可愛らしくした感じの着ぐるみだ。
「やっちゃってりょーちん」
りょーちんは無言でバイコーンに飛び込んでいった。
銃を――ではなくまずは手をつきだした。
魔法が使われる、手をかざした瞬間バイコーンに雷が落ちた。
雷の魔法、ライトニング。
轟音と放電をまき散らす先制の魔法、しかしバイコーンにはきかなかった。
二本角が光った後体のまわりに球体のバリアがはられて、それが雷を弾いたのだ。
「そんなもんか」
つぶやく俺、初級魔法のライトニングが弾かれたのは意外じゃない。
それよりもライトニングが使えたのが大きかった。
ダンジョンマスターが出現する直前に調達した魔法の実で覚えたライトニング、それをりょーちんがつかえた。
りょーちんの強さはアリスが魔法を覚えた時点で固定するんじゃなく、俺の強さとリアルタイムに連動してるみたいだ。
「ライトニング」
手をかざして俺もそれをうった、まったく同じ規模の魔法がバイコーンを襲って、同じようにバリアに弾かれる。
「リョータ! 今はあたしの番!」
「わるいわるい」
アリスに怒られたので謝っとく。
テストは出来た。
俺が放つ威力はりょーちんのと同じだった、そしてりょーちんがいないときと同じだった。
ポータブルナウボートでも能力を確認する、どこか減ったとか下がったとかはない。
アリスがりょーちんを召喚する事で俺のデメリットはゼロみたいだ。
メリットばかりの召喚魔法である。
唯一デメリットと言えば。
「りょーちん、リペティションだ」
りょーちんは手をかざして魔法を使った。
一度倒した相手を問答無用で倒す、リペティション。
前にバイコーンを倒したから俺ならそれはきくはずだったが。
リペティションをうっても、バイコーンはピンピンしていた。
「だめかあ」
アリスも予想はしてたみたいだ。
リョータは倒した事があってもりょーちんは倒した事がない、そういうことなんだろう。
戦闘は続く。
りょーちんはきぐるみのずんぐりむっくりな格好ながらも、風にも勝る超スピードでバイコーンを翻弄した。
俺と同じスピード、速さSS。
バイコーンを圧倒的に上回る速度で翻弄していた。
通常弾で弾幕を張りつつ、突進して首を捕まえる。
至近距離から銃弾を連射――二本角が音を立てて折れた。
「今だよ! ホネホネ、プルプル、ボンボン、トゲトゲ」
角が折れて、バリアが消えた。
アリスの号令と共に四体のモンスターが再参戦する。
りょーちんと一緒に、四体でバイコーンをたこ殴りにする。
面白い光景だった。まるでゲームだ。
全員がSDキャラっぽい感じがするデフォルメされたキャラ、そういう2Dのキャラが戦うRPGの戦闘画面みたいに見えた。
しかし能力は折り紙付き、りょーちんを筆頭に、五体の仲間がバイコーンをたこ殴りにした。
バイコーンは倒れ、もがいて起き上がれない。
そこにモンスターが群がってたこ殴り。
ちょっとだけ同情する光景だ。
「げげ、やば」
アリスがいきなりそう言った、どうしたんだって思っていると、
「もう時間が無い! りょーちんトドメを早く!」
アリスの命令で、りょーちんが二丁拳銃を同時に突き出した。
左から火炎弾、右から冷凍弾。
それを連射して、消滅弾を連発した。
そして、パン、とはじけて消える。
最初からそこにいなかったかのように消えた。
最後っ屁の消滅弾をバイコーンは必死によけようとしたが。
「ナイスみんな!」
残った四体の仲間がバイコーンを押さえて、逃げられなくした。
バイコーンは消滅弾をしこたまぶち込まれて、体中に穴を開けて、同じように消滅した。
「あっ、ドロップタイミング見計らうの無理だった」
口惜しそうにいうアリス。もう一つリョータとりょーちんの違いがわかった。
この世界であげた能力はりょーちんにそのままコピーされるが、多分外から持ってきた――俺だからこそのドロップSはコピーされなかった。
召喚時間ギリギリまで戦わせたアリスはドロップさせられなかった。
「まあでも、倒せたならいいじゃないか」
「うん! リョータのおかげ。ありがと」
こうして無事依頼を果たし、ダンジョンのドロップを全て止めてしまうダンジョンマスターを討伐したアリス。
ファミリーにソロでダンジョンマスターを倒せるものが二人もいると言うことは瞬く間に広まり。
リョータファミリーが更に有名になっていくのだった。