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144.狙い撃つ

 ニホニウム地下六階、今日も毒空間の中でポイズンゾンビを狩っていた。


 前回やってみた拳銃での狙撃練習を今日も続けた。

 今回は一撃で倒さないようにした。


 狙撃するくらい離れた距離から狙い撃つ。

 まずは腕、次に膝、それから耳……。


 当たっても倒さないように、弱らせるように狙撃する。

 正直こっちの方が難しい、当てて倒すより、当てて倒さない方がずっと難しい。


 それでもやる。なぜならただ狙撃で倒すだけなら追尾弾でもいい訳だ。あれは撃ったらモンスターの急所を狙って一直線でとんでいって、決して狙いは外さない。

 通常弾で急所を狙撃する練習をしても効率が悪いと気づいたのは今朝。


 それで今、倒さないように狙ってる訳だ。

 意味があるのかって聞かれると、そんなにないかも知れない。

 そもそもこうする事自体あまり意味ない。

 一回倒したモンスターなんて本来全部リペティションで済むことだ。

 それでもやってるのは、この先何かがあったときに困らないようにテクニックを身につけること。


 だからやる、あえて倒さない狙撃をやる。

 手足を撃ち抜いてから、最後にヘッドショット。

 それを繰り返していき。


 ちょっとタイムオーバーしたが、今日も無事知性をAからSにあげられたのだった。


     ☆


 転送部屋経由で一旦屋敷に戻ってきた。

 ニホニウムには魔法カートは必要無いから、午後のテルル行きのためにカートを取りに来たのだ。

 最近すっかりパターン化してきた生活、しかしパターン外の出来事が起きた。


「あっ、よかったリョータがいた」

「どうしたんだアリス」


 廊下の向こうから仲間のアリスが小走りで近づいてきた。


 アリス・ワンダーランド。

 ダンジョンで生まれたという経緯から、ダンジョンに入れば構造とモンスターが出る場所が直感で分かる女の子だ。

 同時に、モンスターを仲間にする能力も持ってる。


 彼女の肩に乗ってる三体のモンスター。

 プルプル、ホネホネ、ボンボン。


 いずれもダンジョンで倒して仲間にしたモンスターで、今はぬいぐるみの様なデフォルメされた姿である。

 普段はその姿だが、彼女が命じれば元の姿に戻って一緒に戦う。


 得意技をゲームの職業別に分けるとしたら、彼女はさしずめサモナーって感じだろうな。


 そんな彼女が珍しく、俺に何かをねだるような顔をした。


「リョータはこの後ヒマ?」

「いつも通りテルルに行くだけだから何かあったら手伝うぞ?」

「本当!? じゃあ一緒に来て!」


 アリスはそう言って先に歩き出した。

 俺が来た方向に向かって歩く、その先には転送部屋しかない。

 ダンジョンの用事かな……まあこの世界の大半の用事はダンジョンから生まれるのか。

 そうこうしてるうちに転送部屋の前についた。


「ダンジョンに行けばいいのか?」

「うん、あたしが先に行くからすぐに来てね」

「あー待て待て」


 転送部屋――ダンジョンに飛び込む寸前のアリスを掴んで引き留める。


「どうしたのリョータ、準備がいる?」

「そうじゃない、行く場所を教えてくれないと」

「そっか。ビスマスの地下七階だよ」

「麦か?」


 先日の一件がまだ尾を引いてるのかとアリスに聞いてみたが。


「ううん、そっちじゃない」


 そうじゃなかったみたいだ。


「実際にみて説明した方が早いとおもう」

「それもそうか。わかった」


 頷くと、アリスがまず転送部屋を使って、姿を消した。

 それをおって俺も転送部屋に入る。

 えっと確か……ビスマス地下七階だっけ。


 この転送部屋は一回いったことのあるダンジョンの階層に無条件で飛ぶことが出来る。

 それを知ったとき、仲間の中で一番ベテラン冒険者であるイヴに頼んで、全員でシクロのダンジョン全階層をブックマークしたのだ。

 なので、自力で攻略してないけど、俺もビスマスの地下七階に行ける。


 転送部屋を使って飛んだ。

 ビスマスの七階、そこはダンジョンスノー降りしきる階層だった。


 ビスマス結晶の床に降りしきる魔力の雪。

 結構幻想的な光景だった。


「リョータ、こっちこっち」


 先に来てたアリスが俺の手を引いて走り出した。


「待て待て、俺は逃げないから」

「あの子が逃げちゃうの」

「あの子?」


 どういう事なんだろうか。

 ふと、アリスの肩にのっかってるモンスター達が目に入った。

 プルプル、ホネホネ、ボンボン。

 可愛らしいアリスの仲間達だ。


 もしかして……。


「いた」


 アリスが急ブレーキを踏んで止まった、先を走る彼女にぶつかりそうになって慌てて俺も止まる。


「あれみてリョータ」

「あれ?」


 アリスが指さす先を見る。大分離れたところにモンスターがいた。

 離れすぎて姿形もぼやけてよくわからないくらい離れている。


「あそこにいるモンスターっぽいヤツのことか?」

「うん、トゲトゲ。あたしを呼んでるの」

「ああ、名前はトゲトゲなんだ」


 やっぱりそうだっておもった。

 そういう名前がつけられてるって事はやっぱりモンスターを仲間にするって話だ。

 今までにいた三体もそんな感じで、仲間にする直前にはもう名前がついてる。

 つまり今回も同じって事だ。


「なんでトゲトゲなんだ?」

「んとね、ここのモンスターってニードルリザードってモンスターだから」

「ニードルリザード……針のトカゲ。なるほど」


 何となく想像がついて、納得した。

 そういえば上の階はカメレオンだっけ。今までのダンジョンの傾向からして、ビスマスは全部が爬虫類ってことなのかもな。


 そんな推測をしつつ、アリスに聞く。


「で、俺は何を協力すればいいんだ?」

「トゲトゲを仲間にするには倒さないといけないんだけど、ニードルリザードの倒し方ってまずは体についてるトゲトゲをおってからじゃないとたおせないんだ」

「ここ地下七階だしな」


 シクロのダンジョンは地下六階以上モンスターの倒し方が特殊になる、そのため免許がいる。

 ビスマスの地下七階もそうみたいだ。


「でも近づくとトゲを引っ込めちゃうんだ」

「つまり射程外からトゲをやってから倒さないといけない、ってことか」

「うん。どうかな」

「……任せろ」


 練習してたのが早くも役に立ちそうだな。


 俺は二丁拳銃を抜く。そこに通常弾を込める。


「トゲって硬いのか?」

「うん、結構硬い。アルセニックの岩ほどじゃないけど」

「普通の通常弾じゃきついか……よし」


 銃を構えて、モンスターに近づく。

 近づいていくと、徐々に姿が見えてくる。


 ニードルリザード。

 ずんぐりむっくりで、背中にトゲを生やしている爬虫類。

 トカゲと言うよりはイメージとしてはドラゴンに近いのかも知れない。


「ストップ、これ以上近づくと引っ込められる」

「わかった」


 アリスの感覚に従って、その場で止まる。

 地面に膝を立てる、二丁の銃を構えて突き出す。


 片目をつむって、狙いを定める。


 狙撃。

 ここ数日練習してきた狙撃。

 ニードルリザードは止まっている、これなら当てられる。


 手にじわっと汗が滲む。

 失敗は許されない。

 いや許されるかもしれないが、アリスの仲間にするモンスターだ、失敗してどんな悪影響があるか分からない。


 だから、失敗は許されない。

 深く息を吸い込む、めいいっぱい集中する。

 まわりの景色が消える、降りしきるダンジョンスノーさえも意識からはじき出す。

 見えるのはニードルリザード――その角。


 ダンダンダン!


 トリガーを連続で引く。

 二丁拳銃から打ち出された通常弾は途中で融合し、貫通弾になって飛んでいく。


 回転しながら飛んでいく貫通弾――全弾ニードルリザードのトゲに命中した。

 本体には一切当たらず、トゲだけをへし折った。


「やったぞ」

「いってくる!」


 アリスは猛ダッシュで駆け出した。

 途中でプルプル、ホネホネ、ボンボンの三体も元の姿に戻る、仲間モンスターと一緒に、アリスはニードルリザードをたこ殴りにした。


 激戦の後、ニードルリザードは倒れ、一旦ポン、って消えて、それから姿を変えて再生した。


 ずんぐりむっくりのぬいぐるみ、背中のトゲ(触ったらプニってしそうな質感)が出たり引っ込んだりしている。

 アリスはそいつを――トゲトゲを抱き上げて、頭をナデナデした。

 トゲトゲもアリスに頬ずりをする。

 無事新しい仲間になったみたいだ。


 手を振りながら、アリス達が戻ってくる。


「リョータ! ありがとう! ほらトゲトゲもありがとうって」


 満面の笑顔のアリスと、愛嬌のある顔でトゲを出し入れするトゲトゲ。

 こうして、彼女の仲間がまた一体増えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今のところとても面白いです。面白いのですが、ムズムズとずっと段的に突然お話切り替わる感じがなんとも言えません。え!?そこで!?という場面が何度か……。スムーズに次に次に。と、リズミカルにトン…
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