125.イヴの記憶
いきなり現われた俺にも驚かず、機械的に襲いかかってくるスケルトン。
リペティションで瞬殺して、タネをポーチにゲット。
改めてまわりを見る。やっぱりニホニウム地下一階で間違いないみたいだ。
鍾乳洞の様な洞窟は見覚えがあるし、耳を澄ませば遠くからマーガレットとその仲間たちの声が聞こえる。
俺以外でニホニウムに定期的に通う珍しい人間、きっと空気狩りをしてるんだろう。
その声がここはニホニウムだと確信させた。
更にまわりを見ると、俺の腰くらいの高さのところに光点が見えた。
サイズはビー玉くらいの、豆電球程度の光を放つもの。
こんなものは今まで見た事がない。
一応警戒しつつ触れると、光が溢れ俺を包み込む。
まぶたを閉じて目の前に手をかざす。
光が収まると、屋敷の部屋に戻ってきた。
「ヨーダさん!」
部屋の外からエミリーが俺の名前を呼んだ。ちょっとだけ心配そうな顔だ。
「よかったです、ヨーダさんが戻ってきたです」
ホッとするエミリー、俺はポーチの中にHPの種がある――さっきのは幻覚とかじゃない事を確認しつつ、部屋を出てエミリーの前に立った。
とっくにクズ弾は消滅したが、開きっぱなしのドアは俺が出た瞬間パタンと閉じた。
誰か中にいるときは開きっぱなしなのか、と思いつつエミリーに聞く。
「さっき俺は消えたのか?」
「はいです。どこに行ってたですか?」
「うーん、説明するよりも実際にやってもらった方が早いかもな」
そういい、俺はもう一度クズ弾を撃ってドアを開けた。
「エミリー入ってみて」
「? 実際にやって見ると分かるですね?」
「ああ」
「分かったです」
エミリーは開いたドアの向こうに足を踏み入れた。
「はえ? だ、誰なのです?」
「なるほどこんな風に見えるのか」
部屋の声は外にいる俺には聞こえなかった。傍から見ればエミリーは一人で慌てて、困惑しているように見える。
しばらくして、エミリーが消えた。
どこかのダンジョンに飛んだんだろう。
そのままじっと待った、クズ弾が消えてもドアは閉じなかった。
やっぱり使ってる間は閉じないのかも知れない。
更にしばらくして、エミリーが戻ってきた。
手にニンジンを持った状態で戻ってきた。
「た、ただいまなのです」
「大体分かったか?」
「はいです。この部屋すごいです」
ニンジンを持ったまま部屋を出て俺のところに戻ってきた。ドアがパタンと閉まった。
「どうやらダンジョンに自由に行き来出来るみたいだな。エミリーはテルルの地下二階にいったんだな?」
「はいです。後でイヴちゃんに美味しいニンジンスープを作るです」
「ふむ……もうちょっと試してみるか」
クズ弾を撃ってドアを開ける、中に入って、今度はアウルム地下一階と指定。
一瞬でアウルムに飛ばされてきた。あっちこっちに金目当ての冒険者がいる中、俺はダンジョンの外に出た。常時中が変わるダンジョンだからちょっと苦労したけど無事外にでた。
ちゃんとインドールの村だった。
インドールは前に来たときよりも更に発展していた。
新しい建物が次々と建つようになって、店先に品物が溢れ、人々に活気がある。
全部アウルム――金のパワーだな。
もうちょっと見ていきたかったが、ダンジョンの入り口で「次の入場時間です」って管理する人間が言ってたからまずは戻った。
アウルムはローグダンジョン、人間が入るたびにダンジョンの中が変わるから、中にいる人間があまり困らないように入る時間を決めてある。
これを逃すとしばらく戻れなくなる。
アウルムをじっくり見るのは次の機会にして、他の冒険者に混じって一階に入り、あれこれさまよって光点を見つけ、屋敷に戻った。
エミリーだけじゃなく、セレストとアリスの姿も見えていた。
「お帰りなさいリョータさん。話はエミリーから聞いたわ」
「すっごいね! こんな部屋があるなんてすっごい屋敷だね!」
「どこに行ってたですかヨーダさん」
「アウルムだ、ついでに外――インドールの村にも出てから戻ってきた」
「インドール!? 一瞬であそこに行けたの?」
驚いたのはアリス。インドール出身者である彼女は距離を知っている分驚きも大きかった。
「ねえねえ、あたしもインドール行きたい」
「わかった、今ドアを開ける」
「わたしも使ってみていいかしら」
「いいぞ。むしろ同時に使えるかのチェックを一緒にやってくれ」
クズ弾でまた門を開けた。
一応開けた事のあるもんだから「リペティション」を使ってみたけど意味はなかった。
倒すと開ける、じゃ違うみたいだ。
わくわくして部屋に入ったアリスとセレスト。
まずはアリスが消えた、その次にセレスト――。
「あっ」
「どうしたんだ?」
「その階層は行ってないから行けないって言われたわ」
「その階層はいけない?」
「ええ、名前は聞いててずっと行きたかったウランというダンジョンがあるのだけど、そこは行ったことがないからダメだって」
「アウルムは?」
「えっと……やっぱりダメみたいだわ」
「ニホニウム地下1階は?」
「それもダメ」
「テルルの地下5階は?」
「それは――」
セレストが消えた。
さっきのエミリーやアリスと同じような消え方、部屋に飛ばされたのだ。
「どういう事なのです?」
「部屋が飛ばしたことのあるなしじゃなくて、飛ぶ人間が行ったことあるかなしかで判別するみたいだな」
「なるほど、だからニホニウムはダメでテルルは飛べたのですね」
「そういうことだな」
大体分かった、ドアを一回開けると複数人が使えることも確認できた。
次は。
「協力してくれエミリー」
「はいです」
二人一緒に部屋に入る、『ダンジョンと階層を指定してください』という声が聞こえてくる。
エミリーは俺を見あげる、どうすればいいのかという顔だ。
あごを摘まんでやり方を考えたあと、エミリーの手をそっとつないだ。
「ヨーダさん?」
「じっとしてて」
「……はいです」
エミリーは言われた通りじっとした。
気持ちうつむき、俺の手を握りかえしてきた。
彼女と手をつないだまま、アウルムの地下一階を指定。
俺は行ったことがあって、エミリーはいったことがない場所だ。
そして、手をつないでる。
これならどうだ?
次の瞬間またアウルムに飛んだ。
そして。
「ここはどこなのです?」
手をつないだエミリーは一緒に飛ばされてきた。成功だ。
「アウルムの地下一階だ。どうやら誰か一人でも行った事があると飛べるみたいだな」
「なるほど! ますますすごいのです」
光点に触れて、屋敷に戻ってくる。戻りも一緒で問題はなかった。
「あとはデメリットがあるのかどうかと……ものを持ち運べるかどうかだな」
「それは大丈夫なのです、さっき私がニンジンを持って帰ったです」
「そういえばそうだ」
部屋の機能とルールが大体分かってきた。
そして次の目標が決まった。
「仲間で手分けして、とりあえずシクロの全階層をブックマークしよう。いける様になると便利だ」
「はいです」
「話は聞いた」
物静かな声でイヴが登場した。
自前と着ぐるみの二重うさ耳が可愛らしい。
そしていつになく、彼女はちょっとドヤ顔をしているように見える。
「うさぎ、シクロの5ダンジョン制覇してる」
――!
仲間に一人、ベテランの冒険者がいたんだった!