第34話:俺とクログさんと還元鉄。
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第34話、投稿いたします。
誤字脱字などありましたら報告よろしくお願いいたします~。では。
酔いも醒めてきた深夜。
炉の様子を確認してみると、内部の鉄はオレンジ色(橙色)に光っていた。色を見た感じから、内部温度は1700℃から1800℃くらいと推測する。
これは色温度というもので、1200℃くらいでは赤、2000℃を超えてくると黄色、さらには白、青、可視光から紫外線へと変遷していく。白はもはや10000℃を優に越える世界。黄色ですら鉄の沸点を迎えてしまうので、鍛冶としての実用温度はオレンジ色から橙黄色くらいまでかと考える。
もうひとつの懸念事項であった、過剰なガス圧を逃がす簡易弁も、うまく働いてくれているようで安心した。
鉄の融点は常圧で1536℃、沸点は2862℃。
原料から直接溶鋼を得て鋼塊にする方法である溶融還元製鉄法を試すため、1600℃以上を目指していたが、今回はどうやら上手くいったようだ。あとは、鉄のなかの炭素量が最終的にどうなるか。
“一酸化炭素/二酸化炭素”のガス分圧平衡があるから、酸化鉄の還元反応から発生した二酸化炭素を塩基性の吸収槽を使ってガスから除去することで、酸化鉄+一酸化炭素→鉄+二酸化炭素の反応が進み、炉内のトータルの炭素量が減っていく。
純鉄では性質的に実用化しにくいから、うまく調整出来たらいいなぁ…。
溶融してるから残存炭素の分布は均されているのかな?
翌朝に検証…ということにして【温度制御】の魔法陣を使い、炉の温度を維持させると、自分の部屋に戻って寝た。
- - - - -
翌朝。
日曜日だが、午前9時を少し過ぎた頃に炉へとやって来ると…そこにはクログさんが居た。
炉内温度を確認するために設けた観測孔を覗いていたクログさんだったが、俺に気付いてこちらに顔を向けた。
「おはようございます、クログさん。どうしました?」
「お早う御座います、ソーマ殿。炉の温度…ちと高く御座いませぬか?」
「ああ。それでいいんだよ。いま試してるのは“溶融直接還元法”っていうやつでね。鉄鉱を一気に鋼塊を作る方法なんだ」
「ほう、興味深く御座いますな」
ガロ宅で借りている部屋の軒下、掃き出しのところに俺が座り、座らないかとクログを誘うと、彼も腰掛けてちょっとした世間話をした。鍛冶に絡む話が世間話かどうかは微妙だが。
「一般的な鍛冶は製造法でいうと“直接錬鉄製造法”ってやつです。炭で焼いた鉄を鎚で鍛えながら不純物を搾り出す、お馴染みの方法です」
「ほうほう、なるほど。某の知る鍛冶はそのような名で呼ばれているので御座いますか」
「まぁ異世界時代の資料による知識なんで、興味があったら大陸標準語に翻訳した写本を差し上げますよ。クログさんは標準語、読めますよね?」
「修練中に学びましたゆえ、大丈夫に御座います。写本についてで御座いますが、技術向上のために是非頂きたく存じまする」
「了解。待たせない程度に1項目ずつ内容を纏めて渡していくから」
「よろしくお願い申し上げます」
「いやいや礼には及ばないよ。仕事仲間なんだから」
クログは恐縮しきり…といった感じだが、ぶっちゃけ、俺は社長でも上司でもない。
そもそもこの世界に転がり込んだのは21歳の年末。
現役合格で大学入学した夏生まれの俺は、当時大学 3年生。3年次の6月から卒業論文作成に向けて研究室に配属となるシステムだった我が母校は、比較的珍しい制度をもっていた。
医学部、薬学部、工学部、農学部、理学部と、理系5学部でできていた我が校には、何故か文系の学部がなかった。
そして補則に、卒業要件である136単位のうち10単位については“3年次修了迄に、他学部開講科目から選択しなければならない”という縛りが付いている。つまり、3年生の後期までに他学部から10単位を取れなかったら留年するよ? …ってわけだ。
普通、無いよね? こんな大学。
これにより、
興味の沸いた科目として農学部から“食品微生物学(菌やカビ、発酵食品についての話)”と“食品微生物学実習(発酵食品作りの実践)”を、薬学部からは“初級薬学講座(市販薬の話)”と“漢方薬学Ⅰ(漢方薬についての話)”を、理学部からは“地球学概論Ⅰ(主に地殻活動と資源についての話)”を選び、10単位獲得した。
工学部での単位以外にも他学部からこれだけ取ったから、今になって知識が役立ってるんだよね…。
異世界に来て。醤油や味噌、日本酒を頑張って作る話はよく異世界モノで読んでたけど。
ありました、普通に。
よく考えてみたら、俺だけじゃなくて色んな人たちがこの世界には記憶持ち転生してるんだよね。
こっちに来てこの半年ちょいで、何人かに会った。
『異世界から来ました』って話はオフレコで…という暗黙の了解はあるけど、研究所の知り合いが味噌汁をお裾分けにくれたときはビックリした。
時空の歪みが産み出した奇跡、8年前の転移当時86歳(現在ピチピチの23歳)というオハナさん。彼女がこちらの世界の豆と麦で田舎味噌を作っていた。
なんでも、味噌は自分で手作りするのがいいんだそうだ。他にもぬか漬けとか、まさに奇跡の人だと思いました、はい。
転移したとき、腰が抜けたそうな。86歳が知らん世界で突然15歳になったら…そりゃ驚くわな。
話はずれたが。とにかく俺は、大学3年次のときから少し異世界で経験がプラスされただけであって、まだまだ研究者や上司というには烏滸がましい立場である。
だから、クログさんにももっと気楽に接してほしいと思っている。だって俺、まだハタチいくかいかないかの若造だしね。
「なんか敬語だと距離がある感じで悲しいからさ、仲間に話す口調でお願いするよ、クログ」
「む… そうで御座ったか。この標準語の話し方は祖父譲りゆえ、勘弁」
「じゃあ、お国言葉は? 俺、スキルに言語理解があるから試してもらえるかな?」
試しにクログに振ってみた。
「ううむ…それでは…」
『俺は水龍を始祖にもつ蜥蜴人族のクログ。昔、東にある湖沼の縁に住んでいた俺達の部族だったが、魔獣に土地を追われていつしかこの街に身を寄せた。このような感じになる。…ソーマ殿に上手く伝わるといいが。いかがかな?』
おお。言い回しが分かりやすくなった。
ていうか、時代劇っぽい話し方が薄れた。主語が俺になった。
「うん。すごく聞きやすい蜥蜴人語だったよ? 竜語のほうがもうちょっと聴きにくいかなぁ。多分、お祖父さんの時代の人たちが標準語を頑張ったんだね。種族的に発音しにくい言葉を言い換えたら、ちょっと分かりにくい言い回しになってたんだろうね」
『えぇ?! 竜語がわかるのか?!』
『わかるよ。火竜の知り合いが北の山に一人いるし。表現的に一人でいいのかなぁ?』
クログに蜥蜴人語で返事する。
『ええ?! 蜥蜴人語が話せるのか?!』
『頑張れば話せるよ。喉元の構造上、発音は汚いけど。やっぱ、言語理解のスキルってズルっこいよね』
『話しにくいこととかあったら、蜥蜴人語で相談してみてね~』
「ソーマ殿は、変わった方ですなぁ」
クログが苦笑いしながら、人族語で言葉を返してきた。
まぁね~、と俺は頷いてみせる。
ふたりで駄弁りながら、そろそろ作業しますか、と、炉の状態を確かめにいった。
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孔から中を覗くと、色温度からして鉄は融けているようだった。
出来上がった溶鋼を安全に取り出すため、まずは現在の溶融状態から半溶融状態へと温度を下げなければならない。
目安は1200℃から1500℃。色温度でいえば赤。
厚い皮革を二重袋の構造にして断熱性をもたせたグローブを手にはめて、炉体上部の穴を塞いでいる煉瓦をすべて取り外す。
このとき、炉内から出た一酸化炭素を吸い込まないように魔法で気流を下から上へと操作するのを忘れない。
炉床の空気穴に填めた煉瓦も取り外すが、今回は原料が少なかったために意味を成さない出滓口は閉じておく。
小さな孔から涼しい外気を少しずつ取り込み始めた炉内は炭素の燃焼はあれど次第に冷やされ、輻射熱もゆっくりと和らいでいく。
待つこと数十分。
覗き孔から中を確認すると、鉄の色味は赤く変わっていた。
「それじゃ、取り出しますか!」
出銑口の下に、前もって製作しておいた金床を設置する。
合図とともに俺が出銑口を開けて、クログが粘性を帯びた焼けた鉄の塊を炉内から金床へと掻き出した。
鉄に纏わりついた、融けたスラグ。これが飛び散って火傷しないように注意しながら鉄を金床にすべて移すと、金槌で鉄を叩いてスラグや不純物を搾りだしつつ塊に整形していく。
鍛鉄したあと内部に残留応力があると、製品にしたときに歪みの原因となるためあまりよろしくないが、ここは実験用。
出来た鉄の一部を切り取り、変態的分析力(当社比)をほこる錬金術師のイェーネンさんのところに、分析用サンプルとして持って出掛けた。




