第35話:地球の科学と錬金術師。
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読んで頂けて嬉しい限りです。ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします!
意気揚々とイェーネンさんの研究室に赴いたら…居なかった。
それもそのはず。新炉で鉄の試験サンプルを作った本日は、日曜日。…舞い上がっててすっかり忘れてました。
…俺、アホだわ…
残念な子レベルに磨きがかかってきた昨今に戦慄を覚えながら、やって来たその足でスゴスゴと帰宅した。
そしてちょっとだけヤケ酒飲んだ。
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明くる朝、月曜日。
「ソーマすまねえ。現状、オレにゃ無理だわ」
開口一番、イェーネンさんの“出来ない”発言。
万能の分析力保持者かと思っていたら、そうではないらしい。
「何故なんですか?」
「俺の分析スキル、“液体または気体のモノ”にしか効かないんだわ。だから、鉄の成分っつうのは効果の範囲外なんだよな」
「そうだったんですか…」
「すまねえな。役に立たんでよ」
俺の無茶振りがそもそもなんだけど、申し訳なさげに謝るイェーネンさん。
むしろこちらが申し訳ないです。
「しかしよぉ。鉄もガスだったら分析出来たのに残念だよなぁ、ソーマ。オレもコイツに興味が無くはないんだぜ?」
イェーネンさんは、実に残念そうに独り愚痴っている。
ん…?
鉄もガス…?
あった。ありました、方法が。
「ありましたよ、イェーネンさん! 分析の方法が!」
「うぉう!? どうしたソーマ!?」
俺の突然の大声に、イェーネンがビクッとしながらやや引いた。
「あっちでの学生時代、金属について濃度を測る方法がいくつかあったのを、思い出しました!」
「でかしたソーマ。で、どんな方法なんだ?」
「まずは、質量分析。これは、真空中で試料に高電圧をかけイオン化し、それを、磁力を作用させた空間で質量ごとに分離、検出する方法です」
「イオン化? 質量? …すまねぇ。専門用語の意味がわかんねぇ…」
しまった。
俺、イェーネンさんに写本を渡しただけだった!
「イオンはですね。…の前に。原子と分子の話からしましょう」
「よろしく頼むわ」
「はい」
俺は、机の上に紙を置いた。
「原子は、中心にあるプラスの電気を帯びた原子核と、周囲を回るマイナスの電気を帯びた粒、電子によって出来ています。原子核の中にあるプラスの電気をもつ粒、陽子と、マイナスの粒、電子の数は同じになってます。陽子の数は原子の種類によって違い、1つが水素、2つがヘリウム…という感じで“元素”とも呼ばれています。ええとですね…前にお渡しした冊子、出せます?」
「ああ、すぐ出せる。ちょっと待ってくれ」
「了解です」
待っている間、俺はイェーネンさんに原子の構造を説明するための模式図、中心に原子核をもつ幾重かの同心円を描きはじめた。
水素なら中心の円内に(H:1+)と書いて、1本目の軌道に電子を表す丸に横1本線を描いて、ヘリウムなら同じように中心に(He:2+)と軌道に電子を描いていく。
さらには、電子2個、8個、18個…と、ベリリウムの原子番号3からカルシウムの原子番号20まで描いて、イェーネンさんに見せた。
「この世界、宇宙、物質。すべてがこれらわずか約100種類の元素から創造されてるんですよ。そのなかでも、主要元素はその半分以下。これが、魔法のない世界の知識なんですよね」
元素の周期律表のページを開けて、手元に描いた図を説明すると、イェーネンさんは模式図をしげしげと眺め、頻りに頷いていた。
「そういう意味だったのか…」
「それでですね。話を進めますと、イオンはこの原子から電子が放出され陽イオンるあるいは電子を受け取り陰イオンと呼ばれる状態になったものです。陽イオンなら電気的にプラス、陰イオンなら電気的にマイナスという訳です」
「なるほど」
「さきほど話したとおり質量分析の場合、真空中の高電圧負荷で無理やり金属をイオンにして、発生したイオンを検出することにより測定できるんです」
「しかしよぉ。さっきの話ぶりから推測するに、まだ方法はあるんだろ?」
「はい。ありますよ」
俺は、イェーネンさんの言葉に頷いた。
「質量分析の方法なんですがね、理屈しか知らないんですよ、俺。機械はからっきしで」
普通の質量分析は無理かも、と正直なところを話す。
でも、こちらはイェーネンさんだからこそ可能な方法かもしれませんが、と前振りをする。
「外部から熱的に隔絶された空間が創れるなら、2つ目の方法が可能なんですが」
「…ってーと?」
「はい。内部温度をコントロールし、鉄が全て気体になったところで分析してもらう方法です。鉄の沸点は常圧で2862℃なんで、実験としてはやっぱり無謀ですかね…」
「いや? その条件なら出来んじゃねえの?」
どうかな~とは思ったけど、イェーネンさんたらサラッと出来ます宣言をした。
「鉄もキッチリ温度を上げりゃ気体になんだろ? なら、スキルでイケるはずだ」
「…ちょっ!? マジですか!」
「ああ、イケるイケる。いい線いくと思うぜ?」
「じゃ、成分分析、頼んでいいんですか?」
「炭素、窒素、酸素、ケイ素、硫黄。俺が存在を認識している元素なら、間違いない。知らねぇ元素は…残念だが無理だわ」
スゴいわ、イェーネンさん…。
「じゃ、今回は原料が酸化鉄と木炭、石英の粉、酸化カルシウムあたりなんで。炭素とケイ素の割合をメインによろしくお願いします!」
「よし。承ったぜ。…というわけだがよ、報酬はいいわ」
えっ!?
訳わかんないこの人!
「ちょっ…! なんで!?」
「今の話聞いて、オレのスキルが増えたんだわ」
「はい?」
この世界、スキルが変化すると体感がある。
異世界ネタでよくある、“天の声”は特に聞こえないが。
身体能力系だったら急に身体の動きが良くなったと感じたり、精神系だったら、急に理解力がついたりする。
イェーネンさんいわく、多分現代錬金術のスキルから異世界化学の知識が合わさって、上位スキルになったんだろう…ということだった。
それならいっか。
俺はイェーネンさんに礼を言うと、サンプルを託して部屋を出た。




