第29話:依頼の品が魔改造されてた件。
短めですが。キリの良いところまで出来次第、上げていきます。
では、どうぞ。
「…なんということでしょう」
研究室として、ガロさんが自宅の一角を貸してくれることになって、1か月。
あの日の帰り道、舞い上がった俺は勢いで石英を集めまくり、ガラス工房の主人であるオーディスのおっちゃんに細々とした注文を付けたガラス器具をかなりの数量で依頼した。
素材持ち込みということで費用を割安にしてもらったものの、出来た品は、予想外にめっちゃ高かった…。
俺の総資産は金貨20枚ほどに増えて生活に潤いが出てきたが、ガラス器具の異世界価格を甘くみていた。
蒸留に使うためのリービッヒ冷却管なんか、太いガラス管の中にらせん状に曲げた細いガラス管を通す複雑な構造だからだろう。この1品だけで金貨1枚がふっ飛んだ。
地球時代、理化学機器のカタログで価格を見たことがあるけど、やっぱ高いわ…。
俺ったら昔、冷却管を洗ってる最中にうっかり落として割ったんだよね。
積算破損価格が5,000円、15,000円、25,000円…と設定額を達成するたびに、研究室共用のコーヒー豆(200g)かクリームパウダー1袋を提供するなんていうゼミ伝統のルールがあったりしたのが懐かしい。
…俺、研究室に配属されてから、何品提供したっけかなぁ…。
オーディスのおっちゃんに作ってもらったのは、リービッヒ冷却管のほかに、大中小取り揃えての三角フラスコ、同じくナス型フラスコ、各フラスコ対応の穴あきコルク栓、ガラス管など多岐にわたる。
おっちゃんには注文は計画的に寄越せと苦言を呈されたが、リービッヒ冷却管の設計を説明すると職人魂が刺激されたようで、最初から快く…とはいかなかったが最後は全品まとめて引き受けてくれた。
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…そして、話は元に戻る。
「なんということでしょう。匠はとんでもないものを創り出しました」
『何を言ってるんだお前は』
「ああ、いや、ね。すごく良いものが出来ましたよね、コレ?」
『おう。難易度は高かったが、作り甲斐があったぜ? 職人として腕が鳴るってもんよ』
「あはは…」
ここで俺が何が言いたいのかというと、次の一点だ。
出来あがった冷却管は、内部構造が単純ならせんではなく“二重らせん”になっていた。
…なぜこうなった? 解せぬ。
『いやな? お前に聞いたところ、冷やすためってもんだったから俺なりに効率重視の形になるようアレンジしたんだが…ダメだったか?』
「いやいや、構造的には大正解だとおもいますよ? 俺の財布は涙に濡れてますが、完璧じゃないですか?」
はっはっは…と、互いに乾いた笑いが漏れる。
おっちゃん、どうするよ?
『…そうだよなぁ。まぁお前さんは大口のお客様だからな。銀貨1枚まけて納品ってことで…ダメだよなぁ?』
「俺はべつに構いやしないですけど。性能的には是非買いたいし。でもおっちゃん、その職人魂の暴走は気をつけたほうがいいんじゃないかなぁ? …俺も人のこと言えないですけど!」
『次は気を付ける!』
「互いに気をつけましょう!」
まぁ俺の知り合いは、大概残念な属性持ちなのだけどね。
…主に、ぐうたら火竜とか、リーサルウェポンとか、リーサルウェポンとか。
戦闘力やら心理的破壊力やらは半端無いんだけどね~。
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総額、金貨3枚と銀貨2枚。
日本円のお札にしたらすごい枚数になるよね的な、総額32万円の大金をおっちゃんに支払うと、羽毛と布で作った緩衝材でガラス器具を包み、肩掛け鞄に詰めていく。
割れたら泣ける。なので、ここは慎重に…。
俺がガラス器具を仕舞っていると、おっちゃんが話しかけてきた。
『そういえば。発注してくれたときに、“ゴムの樹の樹液があればコルク栓の代わりにゴム栓が出来て便利だ”とかボヤいてたよな?』
「ああ、確かに言ってたかも」
『手掛かりはあったぞ?』
「えっ? マジ!?」
『多分間違いないと思う』
おっちゃんの話によると、この国のずっと南方にある常夏の王国マリージャで、似たような性質をもった樹があるのだという。
樹液は、粗い目の布で滓などの不純物を濾したのち香辛料や香草と混ぜて固められ、最終的にはガムのような形の嗜好品になるらしい。
あとは輪っかに加工して、髪を束ねる用途つまりヘアバンドにするとか。
いかんせん、覚えたこの世界の地理からいうと、マリージャは直線で1200kmほど、日本でいうところの“東京―博多間”くらいは離れているという問題で、簡単には行くことができない。
しかも、途中には標高800mを超える高原があり、両国を隔てている。高原を越えると、麓には亜熱帯雨林が広がり、その林を抜けて、マリージャの市内へやっとの到着となる。
俺らの住むアルナイル王国とは文化も言語も完全に異なるので、マリージャは、なかなか縁遠い国なのである。
しかし。
うちには火竜様が居るじゃない?
行けなくはないはずだよね?
「おっちゃんさ、俺、行けたら行ってみるわ!」
『ぅええ!? 本気か!?』
「ああ。身内に伝手はあるから…一応」
『無理はするなよな?』
「大丈夫だって! でも、OKが出るかはわからないけどね」
俺は荷物を担ぐと、おっちゃんに暇の挨拶をした。
良い買い物に、興味深い新情報。
俺はホクホクしながらガロさん宅の第2研究室へ向かうのだった。




