第27話:再始動、俺流モノ作り。
ルビが大量ですね。
金額は、小銅貨10円・銅貨100円・黄銅貨1000円ってな感じで。
『ソーマ・ヴォルフマンさまですね。アルマリオは席を外しておりまして…。どうぞ、こちらでお待ちください』
アルマリオさんのところにお邪魔したら会議中だとかで不在。個室に案内されましたよ。
応対してくれたのは秘書さんだろうか? 美人のお姉さんである。
「あ、いや。お構い無く。お茶、美味しそうですねぇ。ありがたく頂きます」
アセトアミノフェンの錠剤が入った瓶とサリチル酸メチル入り軟膏の瓶を応接室の机に置いて、淹れてもらったお茶をいただく。
半発酵茶かな?
緑茶と烏龍茶の間の子のような複雑な風味が爽やかなお茶、充分楽しませて頂きました。
「いやはやお待たせしたね、ソーマ君」
「そうでもないです。出していただいたお茶、市販品だったら買いたいのですが分かりますかね? 秘書のお姉さんが出してくれたんですけど」
「ああ、彼女がか! わかった。後で訊いておくよ」
よっしゃ。ウマウマな茶葉ゲット!
アルマリオさんとちょっと茶葉談義をしたあと、本題を切り出した。
「それで、この薬なんですがね」
「おお、新しい薬かね!?」
以前、ぶっ飛んだ超回復薬を作ってしまった経緯があるため、アルマリオさんは興味津々の様子である。
あまりの超絶性能のため、市場価格のバランスを考えた結果、金貨数枚という価格に。
誰が買うの? …という値段だったが、貴族や上級狩猟者さんにこぞって買われていった。
「いや…それがですね」
俺は、話を切り出した。
今回の薬は効果は“地球では民間の薬局で売っていたレベルである”ということ。
費用は格安だがそれなりの効果が望めるというレベルであること。
万が一の副作用が、魔法と違って存在するということ。
「なるほど…副作用ねぇ」
「何億人も使っていて、ときどき報告される感じですがね」
「何億人!?」
いやいやアルマリオさん、驚きすぎですって。
「いやまぁ、地球の人口はたしか70億人以上でしたけどね、一般薬を気軽に買える人口でいうと二割といなかったはずで」
「70億人… ソーマ君、この大陸の人口は知っているかい?」
「いいえ?」
「統計調査の結果だが、公表ではおよそ2500万人だ。正しいかは不明だがね。ちなみにこの街は大都市の分類に入る。今の人口は、およそ52万人だ。ソーマ君が来た頃は、40万人を超えたくらいだったが」
「へぇ…」
「そのなかで、上質の薬を買える人口は35人くらいだろうね。北がごたついているから流民の増加で、今やこの街も貧困層の人口率が3割まで増えてしまってね。安く買える薬、個人的には良いとおもうよ。しかし薬師組合と商業組合には話をしておく必要があるねぇ。ま、前みたいに話を通しておくよ。」
「良かったー。よろしくお願いします。ありがたいです!」
あとは、承認の可否を待つのみ。
俺はホッと息を吐き、冷たくなってしまったお茶をすすった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、3日後。
「ソーマ君、お邪魔するよ」
アルマリオさんが、研究室に来た。
「新しい薬の市販についての話だがねぇ、限定条件付きで可、ということになったよ」
「限定条件?」
「“街の中”で販売することは不可とする、だってさ。人工合成での薬なんて、前代未聞だからね。組合が薬の副作用によるクレームが出ることを嫌がる形になったね。」
「そうですか…。で、可能な条件はなんでしょうね?」
まあ不可な理由は考えていたけど。
部分的に可能とか、なんだろ?
「流民及び低所得者居住区なら可、との回答を得たよ。つまりは、怪しげな薬は下々の人体で試験してから使わせろ、って腹だろう。わざわざ“街の中”と言っているあたり、まったくしょうもない」
「別にいいんじゃないですか? 利益より実益の薬ですし。俺は異世界知識で儲けるとかそういう野暮ったい考え方は嫌いなほうですし、役に立ちゃそれで良いんですよ」
「でもねえ… 小馬鹿にされてるのがあからさまで、ワタシのほうが納得いかんねぇ」
「放っておけば良いんじゃないですか?」
「…そうかねえ」
なんだか逆転しているやりとりに、思わず苦笑いしてしまう。
笑っている場合かなぁ、とか苦言を呈されたが、別に俺は拘ってない。
なんとなくペンダントを弄りながら考える、俺が良いと思った案なのだ。
役に立てば、それでいいさ。
俺はアルマリオさんを宥めると彼と別れ、かわりに兄貴に貧困街を案内してもらい、街のリーダーを名乗る男のもとに連れていってもらった。
行くというと兄貴は渋ったが、薬を売るためだというと耳にタコができるほど苦言を呈しながらも付き合ってくれた。
ありがとう、兄貴。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なんだ貴様は」
兄貴に連れていってもらった家の中。
俺は、家の木床に胡座をかいた強面のおっさんに睨まれていた。
金褐色の瞳は、肉食獣のようにギラついている。
背丈は俺と同じくらいだろうか? 推定180センチから190センチかな。甚平のようなつくりの衣を着たその身体には、筋肉がミッチリ付いている。
「薬師、というか技術者です」
俺は、負けないように視線をあわせる。薬が陽の目を見るかどうかは、こちらのお方にかかっている。
「ふん、その技術者とやらが何の用だ」
「平たくいえば、熱冷まし、痛み止め、それらの薬の売り込みに来ました」
この御仁に回りくどさと隠し事は禁忌。そう予測した俺は、要点だけに絞って話す。
「…値段は」
「解熱鎮痛の丸薬のほうは、朝昼夕食後1日3回1粒ずつ服用の錠剤。12粒で銅貨6枚、消炎鎮痛の塗り薬のほうは、1日何回か塗る軟膏。小瓶1つで銅貨6枚と小銅貨8枚です。小瓶をお持ちいただければ小銅貨8枚分安くします」
「丸薬が1粒で、小銅貨5枚だと…? 貴様…俺を愚弄する気か…?」
「いいえ、本気です」
男の眼に剣呑な光が宿る。
猜疑心を持つのは、仕方ないだろう。だって、おれだって原価の安さに驚きの感を否めないのだから。
この世界の薬は、生薬が基本。採取に手間がかかるし、野獣の跋扈する森林・草原、その他色々に行くのは危険を伴うし、採取量的にも限界がある。
人件費や加工費用、技術料などを加味すれば1回分の薬で銅貨2枚から黄銅貨1枚にまで薬価が跳ね上がり、なかなかの高級品と化すのだ。
懐の探りあいが嫌いな俺は、自分の存在をぶっちゃけた。
異世界育ちで、刃傷沙汰が嫌い。
既得権益に興味がないし、巻き込まれたくもない。
自由奔放に実験してるが、いざ異世界で売れている現状で安く作れる良い製品を、この世界のパワーバランスとか文明バランスとか諸々について崩さないレベルで世間の役に立とうと思ったら、大人の事情に巻き込まれた、など。
経緯というか愚痴も混じったが、あまりのぶっちゃけぶりに、男が唸る。
「貴様は… お前、馬鹿だろう?」
「はい、俺はバカですがなにか?」
ふんす、と鼻息荒く開き直りを見せると、男は頭をがしがしと掻いて苦い顔をした。
「買う買う。買ってやるよ! 俺だから良いがよ、あまり異世界だとか知らねえが。べらべら軽々しゃべるんじゃねえ。下手したら、飼い殺しされるぞ?」
「じゃあ、買ってくれますか?」
「飼うってオマエ…! お前を買うなんざお断りだ」
「俺じゃなくて、この薬のほう!」
「ああ、それな。安いし試しだ。買ってやる」
「ありがとうございます。まずは、初回のサービスで試供品をどうぞ。こちら、製品と同じ丸薬12粒と製品サイズの軟膏の小瓶です」
多少アレな会話だったが、まぁいいか。
俺が購入の意思にあっさり応えると、男は驚いていた。
“試供品”というサービスは初めてだったようだ。
どうやらお試しやオマケという存在は、街の中だけ存在するようだ。
男に錠剤と軟膏の試供品を5セット渡すと、症状に合った患者にお試しで使ってもらうよう頼んだ。
もちろん、飲み薬を絶対飲ませてはいけない人はちゃんと伝えた。
飲み薬を飲んで重篤なレベルで具合が悪くなったら研究室まで急ぎで連絡をもらえるよう、非常時の算段も立てた。解毒するためにはどうしても研究室対応になってしまうので。
「俺の名はガロ、だ。家名は、棄てた」
「俺はソーマです。ガロさん、改めてよろしくお願いします」
「ガロでいい。さん付けされるとうすら寒いわ」
「じょあ、ガロ。良い結果が出ることを祈るよ」
「貴様という奴は…。貴様のような愉快な馬鹿に会ったのは久々だ。街の奴等は大概気に喰わんが、お前は良い。…効き目が無かったら覚えていろよ」
「まぁ、お試しの品だからお金的な損害はないですし大丈夫!」
「馬鹿馬鹿しくて話にならんわ」
どうやらガロには気に入ってもらえたらしい。
次に来るときには、貧民街近辺で俺に害を為す人間は恐らく居ないだろう、とガロが言った。
ガロが仕切っているとも言えるエリアだから、当たり前か。ありがたい。
俺はお試しの品をガロに託すと、兄貴と共に街へ帰った。




