詠ってみました!
転移の腕輪の情報を得た俺は、その日からまた周回修羅モードに入った。
・鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス
ピッと振ってバーン!
ピッと振ってバーン!
あかん。俺は、確率のブレを舐めていた。
全く出ない……。
何百周回しただろう…。
初期配置のゴブリンの動きから、ほぼほぼすべての行動パターンが読めるようになってしまっていた。
最速で魔剣を振るい、爆速で連続爆破。
ボン◯ーマンかな?
だが出ない。全く出る気がしないのよ。
なんならスライムは2個聖水落としました。
だが出ない。ゴブリンお前ほんとに落とすんか?
お?
・鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス
人生石の上にも、3年…
ここが、勝負どころや。
毎日、毎日、ゴブリンの牙と魔石を持ち帰る日々ーー。
俺の殺風景な部屋は、ゴブリンの牙でいっぱいになってきた…
こえーよ!
ゴミ袋にまとめてるんだけど、18袋やで?
45リットル袋に18袋やで?
ゴブリンの牙、こんなに集めてどうすんだよ…
・鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス
もうゴブリンの牙拾うのやめる……
あいつは、魔石を落とす棍棒として扱うことにする……
無である。
はぁ…タルタルチキンラーメン食べよ。
✳︎
周回が700回に迫るころ、またまたわかったことがある。
多分レアパターン以外のほぼ全てが埋まった。
スライムの時には初期配置、1体目の初動のパターン、次の動き、最後に反対のスライムの動きを見れば75%でレアドロップパターンの判別ができていた。
実際目視しながら観察記録スキルで確認すれば、パターン判定はすぐできるのだけど、暗記してる目視確認の方が早かった。
そして、ゴブリンデートでは逆だ。当たりパターンの動きがわからない以上、最後まで狩り続けなければいけない。
同じパターン生成で、ハズレと重複してるかもしれないからね。
だが、基本的に全てのパターンが出尽くしてしまった。
全部のパターンは128通りだった。
今は127通り把握している。
もし、大当たりパターンの初動が特徴的な動きをしていたら、ほぼ数体の情報さえ分かれば判別できるようになってしまった。
この気持ちを何に例えよう?
絶対出てこないワ⚪︎ワ⚪︎パニックのワニを狙ってるような気持ち?
頭の中では転移の腕輪の事でいっぱいだった。
移動時間が優遇されているこのダンジョンですら、転移の腕輪があればタイパは桁違いに上がるだろう。
10秒短縮も1000回やれば約3時間変わる。
何より毎回爆速でクリスタル操作する、あの苦痛から解き放たれる。
✳︎
周回数がついに大台の1000回を超えた。
数えるのも途中で馬鹿らしくなった頃、ようやく俺の手元には、青白く光る結晶――『転移石』が転がっていた。
「……やっと出た……!」
脳汁が頭皮を突き抜けて蒸発するかと思った。
これで「転移の腕輪」を錬金合成するための第一段階の素材の大当たりパターンは、すべて揃ったことになる。
いつもの俺なら浮かれてるところ。
だが…
俺の頭の中の冷徹な電卓は、不吉なノイズを上げながら、ある一つの最悪な計算式を弾き出していた。
俺は急いで荷物をまとめると、自室へと全力で引き返した。
部屋に戻り、ビールとツマミを机にドンと並べる。
パソコンを起動し、《観測記録》のログをデータにして画面に並べる。
「……やっぱり、そういうことかよ」
ビールを喉に流し込みながら、俺は画面に突きつけられた冷酷な数式を睨みつけた。
俺は身をもっての荒業で、二階層におけるゴブリンの全行動パターンが、128通りだと全通り潰しきることで証明した。
そして、総周回数が1000回を超えたところでドロップしている。
もし128分の1の乱数テーブルというのが全階層共通で、世間の冒険者たちが口を揃えて「上の階層に行けば行くほど、レアドロップの確率はエグいほど渋くなっていく」と愚痴るあのクソゲー仕様の噂が――。
綺麗にシステム上の『2倍(倍々)』のインフレで設計されていたとしたら、一体どうなる?
一階層では同じ回数試行して聖水が合計5個手に入っている。
そして三階層では1度もドロップできなかった。
確率を逆算しての仮説ではあるが、この二階層における大当たりの純粋なドロップ率は、およそ『512分の1』といった極小の乱数の中に設定されているのではないか?
ここまではいい。問題は、ここからだ。
俺の体験とログをベースにして数式を組み立てると、最悪の仮説が浮かび上がってくる。
一階層 : 256分の1
二階層 : 512分の1
(今回の1000周回のリアル)
三階層: 1024分の1
……なるほど。これなら、この前三階層の蜂を燻製ハメした時に、奇跡的に『合成石』が1発でポロッと落ちたのは、ただの天文学的な上振れ(豪運)だったってことだ。
そして、この倍々インフレの因果律をさらに進めると…
四階層: 2048分の1
五階層: 4096分の1
六階層: 8192分の1
七階層:16384分の1……
背中を冷たい汗が伝う。
何も知らずに、そんな泥沼の確率の五階層に突っ込んだら、確実に詰む。
目当ての素材が出る前に心が折れるか、魔物にすり潰されて物理的に人生が終わるわ。
ただの趣味のゴミだと叩かれていた『転移の腕輪』を死ぬ気で自作しなければならない…
大当たりパターンは全て掴んだ。
残りの素材は転移石3つと合成石2つ。
転移石は最悪、購入したとしても合成石は自力だな。
久々に酔えない苦々しいビールだった…
あぁ…もうほんと、この牙どうしよ…?
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