合成石で考えます!
三階層のキラービーを燻製ハメで全滅させ、お目当ての『合成石』を手に入れた俺は、少し早い時間だったが、スーパーでご褒美のビールとツマミを買って帰宅した。
ベッドにドサリと横たわり、鈍く光る不思議な石を天井に透かして眺める。
「…さて。こいつ、一体いくらになるんだろ?」
ダンジョンのレアドロップは、とにかく頭がおかしいくらいに出ない。
冒険者たちの間の噂では、レアドロップの出現率は『階層を進めば進むほど、エグいほど渋くなっていく』と言われている。
ただ、誰も正確な確率は分かっていない。
みんな「とにかく出ねえ、クソゲーだ」と愚痴るばかりだ。
俺の体感としては、一階層のスライムの時点で十分に絶望的な渋さだった。
完璧なパターン解析超効率周回で1日10時間。これを、数日間繰り返してようやく5本手に入ったレベルなのだ。
そして、二階層のゴブリンからは、まだレアドロップができていない。
そんなクソ泥沼みたいな確率を越えて、三階層目のキラービーから引き当てた『合成石』。
以前、冒険者ギルドで教えてもらった事を思い出す。
俺はパソコンを起動して専用サイトを開いた。
オークションサイトで、検索窓に『合成石』と打ち込みエンターキーを叩く。
画面に表示された現在の入札価格を見た瞬間、俺の思考は完全にフリーズした。
「……は? せん、にひゃくまん……?」
画面の中でリアルタイムに高騰を続けていた価格は、驚天動地の『1200万円』を突破していた。しかも出品数は1件のみで入札240件。
「やばい…」
腰が抜けた…
放心状態から覚めて自分を取り戻した俺は、頭の中の電卓を激しく打ち散らかしてみた。
これを出品して売るだけで、欲しかった最新の機材も、美味い飯や、カップラーメンや生活に必要なあらゆるものが一瞬で手に入る。
一気にお金持ちの仲間入りだ。
マウスを握る指が、歓喜と興奮で小刻みに震える。
出品ボタンを押そうと、カーソルを動かしかけた、その時――画面の「ある記述」に目が留まり、脳裏に冷や水がぶっかけられたような感覚が走った。
このオークションサイト、出品者も入札者もすべて『実名開示』がルールだった…
画面に並ぶ入札者の履歴。そこには、テレビや配信で何度も見たことがある、国内トップクラスの有名クランの代表者たちの名前がズラリと並んでいる。
あいつらが、この1個の石を巡って狂ったように札束を叩き合っているのだ。
「……いや、待て。普通にやばいだろ、これ」
俺はカーソルを止め、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
ギルドに水色の聖水を持っていった時、かわいいお姉さんは『どこで手に入れたんですか……?』と、明らかに不審そうな、探るような目を向けてきた。
ただの低ランクで、名前も売れていない、一般冒険者の俺が、いきなり1200万円の超激レアアイテムを出品する…
そんなことをしたら、間違いなく裏で出所を調べられる。
下手をすれば、悪質な高ランク冒険者やヤバい組織に『超高額レアの乱獲方法を知っている雑魚』として目をつけられ、夜道で襲われて口を割らされるかもしれない。
まずい…非常にまずい…
この世界では、強くなるにはダンジョンの上の階層へ上り、その濃密な魔力環境に適応していかなければいけないと言われている。
ダンジョン攻略を進めている有名な高ランク冒険者達と、一階層や二階層のぬるい環境に引きこもっていた今の俺ではお話にならないのだ。
そんな状態で悪意に晒されたら、身を守る術なんてこれっぽっちも無い…
「…こんな大金、今の俺が持ったら逆に命が危ない」
ぐぬぬぬ。楽してお金儲けれると思って攻略見つけたのに、お金もらうためには、強くならなきゃ危ないですとか、ふざけんなおい。
荒れた。荒れ狂った。
ビールとツマミ食べた。
落ち着いた。
はー。美味しい…
✳︎
俺は静かにオークションサイトの画面をそっ閉じした。
結論は、まあ売れない。この石を現金化するのは、自殺行為だ。
それに、売るのがもったいない理由がもう一つある。
もし、ダンジョンを登れば登るほど噂通りにドロップ率が渋くなるのだとしたらーー。
うん。幸い生活費には困ってない。
もう少し様子を見てみよう…
だかしかし、手元にあるこの『合成石』をただ眺めているだけでは宝の持ち腐れだ。
これはどうやって使うものなんだろうか?
はて?
俺は大手検索エンジンを立ち上げ、専用の検証サイトや個人冒険者のブログを片っ端から読み漁った。
「へえ、なるほど……基本的には、武器をベースにして『魔石』や『魔物の固有素材』を掛け合わせることで、新しい特性や属性を付与するのが一般的、か」
画面をスクロールしていくと、ベースとなる装備品と素材の組み合わせ次第で可能性は無限に広がるらしい。
だが、同時に恐ろしい注意書きも目に飛び込んできた。
『【警告】上の階層での肉体強化を経ていない者が、過剰に強力な素材を無理やり合成しようとした場合、拒絶反応による魔力の暴走で大爆発を起こします』
画面の光に照らされながら、俺はゴクリと息を呑んだ。
「危ねえ……。テンションに任せて手持ちの魔石を適当にぶち込まなくて本当に良かった。今日だけで2回も地雷踏みそうになった。危なすぎるレアドロップ」
どうやら今の俺では、この三階層の奇跡である合成石を扱うにはリスクが高すぎるようだ。
ネットの情報を見ても、具体的な成功確率や、俺の《観測記録》とどう噛み合うのかまでは、もっと深い検証データを集めない限りは分からない。
「焦る必要はないか」
俺はパソコンの画面を閉じ、手の中の合成石をそっと机の引き出しの奥へと仕舞い込んだ。
売るのもダメ、今すぐ適当に使うのもダメ。なら、やるべきことは一つだけだ。
「まずは明日、いつも通り一階層のスライムから地道に見回り周回を再開しよう。ゴブリンデートさえ攻略できれば、あのダンジョンは最高効率だ!」
ベッドに入り、目を閉じる。
目まぐるしく変わる日常が嘘のようだ…
しかし、大金を前にしてもブレない、徹底した効率厨としての自分の判断に満足しながら、俺は静かに眠りへと落ちていった…
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