色々な意味でぐるぐるしてみましたっ!
深夜2時、俺は静かな部屋の中でずっと考えていた。
目の前には、第五階層のマップを表示した画面。
大広間を中心に、放射状に四つの通路が伸びている。
そこには、これまでに観測されたモンスター配置パターンがびっしりと記録されていた。
一つずつ検証を重ねてきた。
侵入する入り口を変えたらどうかと、大広間に繋がる四つの通路をすべて試した。
だが、どこから侵入しても、結論は同じ。
クリスタルまでは届かない。
多少の数の増減だけで、結局は大広間にいる大勢の敵を相手にしなければならない。
オーガにミノタウロス…
もはや何体倒したかわからない。夢に出てくるほどだ。もう怖さも薄れていた。
だけど、あの状況では…
何度考えても、ソロ突破は想像できなかった。
第五階層…『冒険者の壁』
心が流されそうになる。
「いっそ転移の腕輪に頼って……特攻するか?」
無理だ。
口に出すのも虚しかった。
同時に襲いかかってくるあいつらを前に、あの距離を走り抜けるなんて全然現実的じゃない。
途中で捕まる。
もし仮に、運良く辿り着けたとしても、クリスタルの機動にも数秒かかる。
無防備に身を晒す……待っているのは、擦り潰されて死ぬ未来だ。
やはり最後の15秒が届かない。
『手詰まり』
この言葉が頭に浮かんでくる。
「…………」
……だったらどうするんだ?
誰かとパーティーを組むしかないか…?
一人がモンスターを引きつけ、もう一人がクリスタルを起動する。
それなら十分に可能性はある。
あるいは…どこかのパーティーに入れてもらい、自分の能力をひた隠しにしたまま、六階層に『連れて行って』もらう。
「役立たず」と罵られるのを受け入れて。
…ふざけろ。
ありえない。
俺は俺が楽するために…
俺が『楽してこの世界を知るため』に、六階層に行きたいんだ。
そんなの全然楽じゃない。
こんな状況で、誰かに協力を頼むなんて選択肢、ハナからなかった。
再びマップに目を落とした。
四つの通路。
大広間。
そして徘徊するモンスターたち。
繰り返し配置を見つめる。
「……まだだ」
考えろ、考えろ…
絶対に何か方法があるはずだ。
俺は頭の中のパズルを組み立てていった。
今の装備で、この戦力で、六階層へ行く方法。
ひたすらに考え続けていた。
✳︎
浮島ダンジョン第五階層 『大広間』
「……七体か」
俺は広間の様子を確認し、モンスターの数を数えた。
合計七体。
最も少ない配置パターンだ。
「ようやく出た……」
俺は笑った。
ずっとこの状況を待っていた。
「これで無理ならどうしようかね…?」
俺は魔剣を握り直した。
「まあ、やってみるしかないね」
俺は一番手前のオーガに見つかるよう、大広間の入り口へ姿を見せた。
さらには石を投げつけて挑発する。
「おらっ! こっちだよ!」
気づいたオーガは怒りの咆哮を上げ猛然と突進してきた。
ドドドッ!
深緑の巨体が凄まじい勢いで迫ってくる!
それに気づいた周囲のモンスター達も、遅れて突進してきている!
「そうそう。こっちこっち」
俺は、通路の奥へと少し下がり、オーガを誘い込む。
怒り狂ったその巨体が、通路へ入り込んでくる!
その刹那、
俺は魔剣を振り抜いたっ!
ズドッ!
爆音とともに、魔剣の斬撃波がオーガの太い脚を捉える。
「よしっ」
巨体は大きな音を立て、石埃を撒き散らしながらその場に倒れ込んだ。
だが、致命傷ではない。
他のモンスター達も怒気をあらわにし、物凄い地響きと共に突進してくる!
それを横目に、俺は目の前のオーガにそのままトドメを…
刺さない。
脚を斬られたオーガは、その場で這いつくばっていた。身長三メートルにも届く深緑の巨体が、広間の出口を塞いでいる。
「うんナイスそのくらい」
遅れて駆け寄ってきた後続のモンスター達は、倒れたオーガの巨体が邪魔となり、なかなか通路へ出てこれない。
「おら!もう一体、来い!頑張れ!出てこいよっ!」
更に挑発された一体の鼻息荒いミノタウロスが、倒れているオーガの脇を無理やりこじ開け、通路に出ようとしている。
怒りに染まった顔で、俺を擦り潰そうと、狭い空間に体躯を捻じ込み必死になっている。
俺は、そのミノタウロスに向けて冷静に魔剣を振り抜いた。
更に通路が塞がるように。
魔剣の一撃はミノタウロスの脚を正確に斬り飛ばし、その巨体を地面に沈めた。
「完璧です」
広場の出口は二体の大型モンスターのその巨大な体躯で、今や完全に塞がれていた。
広間の中では、通路へ出てくることができないモンスター達がそれぞれに咆哮を上げている。
目の前では脚を飛ばされたミノタウロスが苦痛に呻き、涎をだらしなく垂らしていた。
俺はそこまで確認すると、くるりと元来たルートを戻っていった…
別のルートを通り、今度は反対側の大広間の入り口へと顔を出した。
「どこ見てんだよっ! こっちだよ!」
再びモンスターたちが反応し、我先にと駆けてくる。
「はいはい、待ってたよ!」
最初に出てきたオーガを広間の出口付近まで誘い込み、再び脚を狙って魔剣を振り抜いた。
狙うは一番狭い場所。広間と通路のくびれとなるその境目。
ズドドォーン!
一体目が倒れ、二体目も同様に処理した。
大勢のモンスターを同時に倒せないなら、相手の巨体を利用して、俺のための肉壁になってもらう。
また通路を戻る。
迂回ルートから三度目の大広間。
顔を出し音を立てると、残ったモンスター達はこちらに気づき、突進してきた。
馬鹿の一つ覚えのように……
こっちはお前らに勝つために、死ぬ気で考えてきたっていうのに。
ズガガンッ!
巨体が崩れる。
這い出てきた二体目も倒れる。
三つ目の通路も塞がった。
俺は俺の目的を達成するためなら、お前らをも利用する。
「よし、最後」
五階層に挑戦してから、失敗は百を超えた。
だが、ようやくだ。
俺は最後に残った四つ目の通路から、大広間へと足を踏み入れた。
大広間には、最後の一体が残っていた。
三つの出口では、無力化された大型モンスター達が重なり合って足掻いている。
互いの巨体とダンジョンの冷たい壁に挟まれ、抜け出すこともできない。
それでも身体をよじり、俺を睨めつけ咆哮を上げていた。
「いやいやお怒りはごもっともだが、俺も散々味わってきたんだわ。おあいこだろ?なぁおまえもそう思わない?」
目の前に立つ最後の一体。
血走った目で睨みつけるオーガの威嚇など、気にも留めずに俺は話しかけた。
「……なかなか長かったわ」
攻略開始から1ヶ月が過ぎていた。
「なんなら、ちょっと心も折れそうだったわ」
オーガが棍棒を握りしめ、こちらに向かい吠えている。
「俺はさぁ、一対一だったらお前に勝てると思ってんだけどね、なぁおまえはどう思う?」
当然、返事はない。
「……まあ、答えられないよな」
俺は魔剣を構えた。
オーガが雄叫びを上げ、渾身の力で棍棒を振り下ろしてくる。
だがその攻撃は知っている。
これまで何百と戦ってきた相手だ。
攻撃の軌道も、間合いも分かってる!
当たるわけがないっ!
俺は攻撃をかわし、自分にとって最も有利な距離から魔剣を振り抜いた。
ズバッッ!
中距離から放たれる魔剣の斬撃波がオーガの身体を捉える。
油断はしない。最大火力を叩き込む。
もう一撃、魔剣を振り抜く。
オーガは為す術もなく、倒れ込んだ。
そして、トドメ。
「だから言っただろ。一対一なら負けないって」
オーガの巨体がよろめき、光の泡となって消えていった…
俺は周囲を見渡した。
脅威になる相手はもういない。
俺は、倒す必要のないモンスターは倒さない。
「ようやくだわ!大広間ソロ攻略!」
大型モンスターが密集していた大広間…
最初に来た時より広く感じた。
剣をしまい、転移クリスタルへ向かう。
身動きの取れない大型モンスター達が睨む中、俺は一歩ずつ歩いていく。
急ぐ必要はない。
走る必要もない。
俺はゆっくりと歩く。
そして、クリスタルの前にたどり着いた。
十五秒…
俺はクリスタルに手を伸ばし、そして起動する。
第六階層への転移が始まった。
第五階層ソロ踏破。
今は最高に気持ちいい。めちゃくちゃ楽しかった。
「ああ、楽しみだな。第六階層」
この先には、まだ見ぬ第六階層が待っている。
俺はまた魔力酔いかなぁと苦笑しながら六階層へと転移した…
五階層突入編 〜fin〜
五階層突入編、最後まで読んでいただきありがとうございます!
次話からは「第六階層 絶望のボス攻略編」が始まります。君島の本当の覚醒が描かれるストーリー!!
次話は、11/7(土)の19:00に投稿予定です。
引き続きよろしくお願いします。
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