ちゃんとお礼を言いました!
「とうちゃーーくっ!!」
ついに来た。やってきました五階層!
冒険者たちがパーティーを組んで挑む五階層。
俺はソロで立っている。
「……お、とと?」
視界がぐらりと大きく歪んだ。
強烈な立ちくらみに襲われ、一瞬立っていられなくなる。
たまらず近くの岩壁に手を突いて、どうにか身体を支える。
あかん。気持ち悪い…
胸のあたりがムカムカする。
これがネットでみた魔力順応?
周囲に注意を払いながら、しばらくじっと呼吸を整えた。
気持ち悪さが消えると、逆にいつもより身体が軽くなってきた。
「……おお」
もしかして、俺ちょっと強くなった?
んーまったくわかりません。
✳︎
気を取り直して周囲を確認。
天井が高い。目測で三十メートルくらいか?
とにかく広い空間が広がってる。
ところどころに、巨大な岩壁が張り出していているせいで視界が悪い。
これまでのダンジョンとはガラリと様子が違う。
こんな空間だと想像していなかった…
まずいな。非常にまずい。
あまり先まで見通せない。
『ダンジョンでは何が起こるか分かりません。』
忠告が思いだされた。
知っとるわ!
勝手に脳内再生すんな!出てくんな!
今回の目的は5階層への到達だ。
それはすでに達成した。
転移の腕輪作成の道はひらけている。
ただ、俺がソロで5階層の魔物に通用するかのか、少しでもデータがほしい。
俺は恐る恐る気配を殺し、奥に進んだ。
少し先に狐に似た中型の魔物がいた。
【ウィンドフォックス】
風のように素早く移動する狐型モンスター
急な方向転換を繰り返し、鋭い爪で相手を切り裂く。
まだこちらに気づいてない。
これはチャンス。魔剣を振った。
ゴウッ!
炎をまとった斬撃が走った。
狐も気づいて振り向いたが直撃。
狐の身体が吹き飛び、そのまま動かなくなった。
四階層より火力が上がっている気がする。魔力順応のおかげかな?
狐は、問題なさそうです。
✳︎
少し先の出っ張った岩肌に、今度はでかい鳥が止まっていた。
【ウィンドイーグル】
風を操る能力を持つ大型の猛禽類。上空から急降下して鋭い爪で攻撃し、羽ばたきで相手の体勢を崩す。
遠くから撃ってみる。
炎の斬撃が、暗闇を切り裂いて飛んでいく。
スカッ。
ウィンドイーグルはわずかに羽ばたいただけで、俺の攻撃をあっさりと回避し、さらに高い天井の奥へと上昇していった。
完全に軸をずらされた。
……。
もういっちょ。
追撃も綺麗にかわし、俺を敵として認めたようで、こちらを挑発するかのように旋回している…
……。
あれを倒すなら、盾役必要でしょうね。
はやいし。
鳥は無理。
このダンジョンも周回に向いてない。
「うんうん決定。はい撤収」
俺は迷わず転移石を利用し、すぐさま帰還した。
装備を手に入れ、ダンジョン踏破。データ取りも順調。
毎日こんなならいいのになぁ…
非常に有意義な午前中であった。
✳︎
帰宅した俺のニヤニヤは止まらない
ついに転移の腕輪です。
俺の爆速周回に更に磨きがかかる。
だが、その前に重要な確認がある。
『はい。正木です』
俺は通話履歴を呼び出して正木さんに電話をかけた。
「あ、もしもし。先程は装備ありがとうございました」
『あー君島さんどうしました?何か装備に問題など?』
「いえ全く問題ありません。親友も喜んでました。五階層へも到達できたようです」
『………は?まだお渡ししてから、2時間ですが…?」
時刻は13時を回っていた。
思ったよりも時間がかかってしまった。
遅いお昼になってしまう。
しょうがない。
「装備のおかげだと喜んでましたよ。それより正木さんに、友人のことでお聞きしたいことがあって」
「無事に五階層に到着したんですが、魔力酔いのような症状が体に起こったそうなんです。身体に問題はないですかね?」
「それと、合成石での作成って五階層に到達して魔力酔いを経験していれば、問題なく使えますかね?」
部屋で爆死は避けたいです。
『…ご友人。まだ合成石お持ちなんですか…?』
電話口から岩のようにゆっくりした口調で確認された。
俺は先ほどトイレから出してきた石達をちらりとみる。机に10個ほど転がっていた。
「ええ。この数日でまた一個落ちたそうです…狩り大好きっ子なんですよね」
『…そうなんですね…。先程のお話ですが、魔力酔いの身体への副作用はこれまで報告されてません。合成石の使用も魔力酔いを経験されているという事なので、問題ないとは思います。ご友人に伝えてあげてください」
よし!
『事故を恐れて、さらに確認をしたいと言うことであればギルドで調べることもできます』
『ギルドに登録者カードを提出していただき、カードに残っている残留魔力の記録から、合成石使用適応も判断することができます。少しお金はかかりますが、こちらの方が安全に鑑定はできるかと思います』
面白い仕組みだなぁ。いいこと聞いた。
「あーなるほど。以前、六階層のデータを聞いたときに、カードを出してくれと言うのはそういうことだったんですね」
お姉さんのかわいい笑顔を思い出す。
「僕も友達に援護してもらって、五階層に行ってみたくなったなぁー!行けたらギルドにも顔出しますね。ありがとうございました」
その後も社交辞令の挨拶を交えながら、正木さんに丁寧にお礼を伝え電話を切った。
ふむ。
今日はたいへん頑張ったので、明日作りましょう。
俺の部屋が絶対に爆発しないと確認できなきゃあぶなすぎる。
とりあえず五階層到達。手狭になってきたこの部屋から、引っ越すのもありかもしれない。
今日のお昼は頑張ったので、ちょっと遠いが人気のカモネギラーメンにすることにした。
✳︎
電話が切れた。
正木は、しばらくスマートフォンを耳に当てたまま動かなかった。
「…………は?」
ゆっくりと端末を下ろす。
二時間。
装備を引き渡してから、まだ二時間しか経っていない。
その間に、駆け出しの冒険者がソロで五階層まで到達したという。
「いやいやいや……」
思わず声が漏れた。
いくら装備が強力だったとしても、限度がある。
五階層だぞ?
普通ならパーティーを組んで、役割を分担して、それぞれが危険を補い合いながら進む場所だ。
それを、たった一人で?
装備を受け取ってから二時間で?
額を押さえた。
『友人が使っているんですよ』
友人。
……いるわけねえだろ。
どう考えても君島本人の話じゃないか。
あいつ、何を隠すつもりなんだ。
いや、そんなことより、
「合成石、また手に入れたって言ってたよな……?」
正木は椅子の背もたれに体を預けた。
合成石。
ダンジョンで手に入る希少アイテムの一つだ。
日本国内で年間に流通する数は、大体年間1000個に満たない。さらに、合成石は冒険者にとって有用なだけでなく、様々な魔道具や社会の実用、実需もあり常に供給不足に陥っている。
1人でも多く、『合成石を持って帰れる冒険者』を育てなさいと言われるほどだ…
ポイポイ出して良いものではない。
そんな状況で、あいつは合成石を何個持っている?
しかも、最近また一つ手に入れた?
「……おかしいだろ」
つい、独り言を漏らした。
あいつは一人でダンジョンに潜っていると言っていた。
大規模ギルドの支援でも受けているのか?
いや待て。
クランのような大きな組織が、何かの隠れ蓑として君島を使っている可能性はないか?
表向きは個人冒険者。
実際には、どこかの組織が裏で動いている。
いわゆるフロント企業ならぬ、フロント冒険者。
「……考えすぎか?」
そもそも、あいつの話しぶりからして、組織的な後ろ盾があるようには思えない。
それに、仮にそうだったとしても、あの装備を受け取った直後に五階層へ到達する理由が分からない。
眉間を揉んでみる。
いや、もっと根本的な問題がある。
冒険者登録カードだ。
ダンジョンの攻略記録は、登録カードに残る。
もし、君島のカードに本当に五階層到達の記録が残っていたら?
いや、カードの交換という可能性はあるか?
……それは防止できるように設計されていたはずだ。
本人以外のカードを使っても、正規の記録は残らない。
では、どうなっている?
「…………」
天井を見上げた。
考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
いったい、どうなっているんだ。
「……勘弁してくれよ」
正木は深く息を吐いた。
装備を手配したのは自分だ。
アイツの登録情報も俺が保護をかけた。
もし、あいつが何かとんでもないことをやらかせば、当然こちらにも話が回ってくる。
下手をすれば、上層部から説明を求められることになる。
「お前がとんでもないことばっかりしてると、
情報を守っている俺の立場が危うくなるんだよ……」
誰に聞かせるでもなく、ぼやいた。
ふと、先ほどの会話を思い出した。
『じゃあ、帰りにギルドにも寄っていこうかな』
「……は?」
まて。
来るのか?
また何か持ってくるのか?
合成石の鑑定か、それとも別の何かか?
頼むから、今日はもう何も起こさないでくれ。
「ニコニコ爆弾持って気軽に来るなよぉ……」
正木は机に突っ伏した。
あいつがギルドに来るまでに、少し頭を冷やしておこう。
「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援していただけると、
あなたの評価でこの作品の運命が変わります!
※第1話など途中のエピソードでは、システム上この場所に評価の星(⭐)が出現しません。その場合は、お手数ですが下記の作品トップ(目次)の一番下から応援していただけると非常に嬉しいです!




