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俺だけの完璧なダンジョン


「あった……!! ついに見つけた!」


俺はダンジョンに足を踏み入れ、すぐ目の前に二階へ続くクリスタルを見つけた。


「最高だ!」


思わず声が弾んだ。


町外れの線路の高架下を抜けた先。鬱蒼とした手入れされていない木立の奥に、黒い結晶で縁取られた巨大な門が口を開けている。


門の脇には、冒険者ギルドが設置した金属製の案内板があった。


『初心者向けチュートリアルダンジョン』

『全三階層』

『単独、または少人数での探索を推奨』


案内板の情報は古い。


最後に更新されたのは、もう何年も前らしい。


町から遠く、浅い階層しかない。出現する魔物も弱く、目ぼしいドロップ品もない。


わざわざ足を運ぶ冒険者が少ないのも当然だ。


けど、俺にとっては違う。


ここは、俺が探し求めていた理想のダンジョンだ。


            ◇


「お前の記録、もう必要ないんだよ」


かつて所属していた探索パーティーのリーダーは、実にあっさりとそう言った。


当時の俺は、剣士、魔法使い、盾役、そして俺という駆け出し冒険者四人組でダンジョンを探索していた。


俺の役割は、戦闘そのものよりも情報の記録。


俺のスキルは《観測記録》。


一度観測した対象や現象を記録し、後から見返して比較できる。


……うん。


説明してみても、地味だ。


剣の威力が上がるわけでもない。魔法が使えるようになるわけでもない。身体能力が強化されることもない。


敵の能力が自動的にわかるわけでもなければ、弱点を教えてくれるわけでもない。


初めて見る魔物が相手でも、俺にできるのは観察して記録することだけ。


ハズレスキル。


世間一般の評価としては、まあ、妥当なんだろう。


俺だって、できることならもっと格好いいスキルが欲しかった。


剣聖とか、魔法創造とか、そういうの。


……まあ、今さら言っても仕方ない。


「情報ならギルドで買える。俺たちが欲しいのは、魔物を倒せる奴だ」


リーダーの言葉に、俺はうなずいた。


そりゃそうだ。


命懸けでダンジョンに潜っているんだから、戦闘で役に立つ仲間が欲しいに決まっている。


俺だって、こんなスキルを持った奴が仲間に入ってきたら、ちょっと考える。


「でも、前回と今回じゃ魔物の配置が違う。最初に動く個体も変わってる。そこを比較すれば――」


とりあえず言ってみた。


俺にも意地があったのだ。


「だから、それが何になるんだ?」


……。


うん。


そら、そう。


めちゃくちゃ正論だった。


俺もうっすら気づいてた。


あかん、これ寄生だって。


魔物の配置が違うから何だというのか。


最初に動く個体が変わったところで、それがどう戦闘に役立つのか。


その場で説明できなければ、意味がない。



結局、俺はパーティーを追い出された…



彼らの判断は、全然間違っていない。


だけど、自分のスキルまで無価値だと認めるつもりはなかった。


パーティーを追い出されても、俺は記録を捨てなかった。


どうせ役に立たないと言われたものだ。


だったら、役に立つところを自分で見つけてやればいい。


……まあ、見つからなかったら、そのときはそのときだ。


            ◇


ダンジョンで起きることは、すべてが完全な偶然というわけではない。


少なくとも、俺が記録を比較した限りではそう見える。


同じ階層でも、魔物の出現位置は違う。


最初に動く個体も違えば、動き始めるまでの時間も違う。


戦闘中の行動にも差がある。


そして、戦闘が終わった後に残されるアイテムも。


普通の冒険者は、いちいち気にしない。


魔物を倒して、アイテムを拾って、次へ進む。


珍しいアイテムが落ちれば運がよかった。落ちなければ運が悪かった。

それで終わりだ。


俺も最初はそうだった。


けれど、記録が増えるにつれて、気になることが出てきてしまう。


以前と似た配置。

似た行動を取る魔物。

そして、似た結果。


偶然にしては共通点が見えてくる。


もちろん、一度や二度の一致で法則があるなんて言うつもりはない。


それじゃあ、ただの思い込みだ。


だから記録を見直した。


別の探索結果と比較した。


仮説を立てて、実際の結果と照らし合わせた。


そうしているうちに、少しずつ見えてきたのだ。


ダンジョンの魔物の配置や行動には、一定のパターンがある…


そして、そのパターンはドロップするアイテムとも無関係ではない…


……これは、もしかしたらもしかする?


特定の条件を満たせば、希少アイテムが手に入る確率を高められるんじゃないか?


もし本当にそうなら、話は変わってくる。


希少アイテムは高く売れる。


自分で使えば、装備や道具の強化もできる。


資金があれば、今は手が届かない装備だって買えるかもしれない。


戦闘能力が低いなら、装備を整え、金がないなら、稼げばいい。


……うん。


言うのは簡単。


でも、少なくとも試す価値はある。


俺のスキルは、答えを教えてくれない。


比較し考え法則を見つけるのは俺自身だ。


だったら、自分のやり方でやってみよう。



            ◇



最初に考えたのは、探索を繰り返せる場所探し。


人の集まるダンジョンは、俺には向いていない。


ダンジョンは入るたびに、そのパーティーを別々の異次元に飛ばしてくれる仕組みになっている。

内部で他のパーティーに会う事は無い。


だけど、短時間に浅い階層で何度も出入りを繰り返していたら、何をしているんだと思われるだろう。


まして、希少アイテムを何度も持ち帰ったら?


どうやって手に入れたのかと聞かれたら困ってしまう。


わざわざ自分の知識を他人に教える理由はない。


俺の記録なんて必要ないと言われたのだ。


なら、必要ないものがどう役に立つのか、わざわざ教えてやる義理もないだろう。


……性格が悪い?


うるさい。


自分で見つけたものを自分で使うだけだ。


俺は、ギルドの公開情報や古い探索記録を調べた。


様々なダンジョンについて調べ、情報がなければ自分の足で現地へ赴き、地区を変え自分の理想のダンジョンを探し続けた…


ようやく見つけたのがここだった。


全三階層。チュートリアルダンジョン。


初心者向けで、魔物も弱い。


他人が見向きもしないからこそ、繰り返し探索するにも都合がいい。


俺の記録を使って試行錯誤する時間を確保できる。


完璧じゃないか。


今の俺にとっては理想的な場所である。


            ◇


俺は改めて、目の前のダンジョンを眺めた。


ここで稼ぐのだ。


希少素材を手に入れ、金に換え、


そして強くなる。



戦闘能力で勝てないなら、別の方法を考えよう。



俺は自分の可能性を他人に決めさせたくない。



そのための場所を、ようやく見つけた。


「ここなら、やれる。俺だけの完璧なダンジョンだ」



俺の成り上がりは、ここから始まる。



ところで、どんなモンスターがいるのかな?




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