95.光ってる
光だった。
正確には、光属性の魔力。しかしその質が、改良版の刻印を通ったことで跳ね上がっていた。ルベルドは肌でそれを感じた。加護を得た直後のダリアが炎を展開した時と近い——いや、それよりもずっと出力が上だ。
(……この刻印は、本当に出力が上がっている)
「では、始めましょうか」
アップが言った。その体から光の粒子が散り始めた。光属性の攻撃をまるで胞子でも放つように無数に出したのだ。
そして眩い光が一斉に爆発した。
ルベルドは防壁を三重に展開した。
(……軽い?)
爆発した瞬間そう思った。見た目程の威力が無い。攻撃を目的にしたのでは無い、と気づく。
目を開くと視界から消えた。次の瞬間には、右後方にいた。光の槍が三本、側面から来た。
ルベルドは右腕の防壁に集中させた。
衝撃が来た。防壁が一枚、砕けた。衝撃が腕に残った。しびれる。
(速い。レオニードの雷より速い。ただし——)
ルベルドは光属性の加護を持つ強敵とは既に戦った事がある。確かに速さは本物だ。しかし動き方に癖がある。光の移動の後、一瞬だけ実体が止まる事がある。光の速度で動く時、その長さに比例して加速していく。メリットだけではない。加速した分だけ次に止まった瞬間に反動が現れるのだ。そして光が収束したタイミングであれば叩ける。
(その一瞬が、狙える窓だ。だがリライトで触れるには——)
「どうですか。綺麗でしょう?」
眩い光を放ちながらアップが言った。また消えた。
今度は頭上から来た。光の螺旋が三重に巻かれた槍。密度が高い。これは防壁では耐え切れない。
ルベルドは横に跳んだ。地面が抉れた。砕けた岩の欠片が足に当たった。
(……リライトを使うには、流れに触れなければならない。アップの速度では、触れる前に攻撃が来る)
練習での感覚を思い出した。スルクの攻撃をずらす時、流れが見えてから触れるまでに一拍の余裕があった。しかしアップの光は、見えてから当たるまでの時間が、その一拍より短い。
(速さで上回られている。通常の間合いでは触れられない)
「思ったより粘りますね。でも——」
アップが手を広げた。光の球体が膨らみ始めた。大きな一撃の前兆だ。
ルベルドは前に踏み込んだ。
距離を詰めた。
アップが少し眉を上げた。
「なるほど。近距離に来れば、俺の光の広域攻撃が使いにくい。賢いですね」
「誰でも考える」
「そうかもしれない。しかし——」
アップの手が動いた。至近距離での光の直打。面ではなく点に絞った、高密度の光の束が来た。
ルベルドは防壁を一重にして受けた。防壁が崩れた。衝撃が胸に来た。後退する。
(……それでも出力が高い。近距離でも威力が落ちない)
(リライトで触れる方法を考えろ。流れが見えてから触れるまでの時間が足りない。ならば——)
ルベルドは一瞬、目を閉じた。
ズームの時もそうだった。見て動いた訳じゃない。
「……見てからでは遅い」
独りごちた。
「えっ、なんですか?」
アップが少し首を傾げた。笑顔のまま。
ルベルドは答えなかった。
代わりに、意識の持ち方を変えた。目で追うのをやめた。視覚で捕えることを前提にするのをやめた。
皮膚で感じる。
魔力の流れは実際に目に見える訳じゃない。しかし感じることはできる。図書棟でズームの攻撃を無意識にずらした時、ルベルドは見ていなかった。コゴメが危ない、という感情が先にあった。そしてその後、体が動いた。
(……感情が引き金だ。スルクがそう言っていた)
コゴメのことを思った。
学園の中庭で待っている。医務室のベッドで目を覚ました時の顔を、ダリアから聞いた。ルベルドがいなくなってから、何を考えているか。
あの石のお守りは、まだ上着の内ポケットにある。
(……帰る場所がある。それを守るために!)
アップが動いた。
光が来た。
今度は——流れが、触れるより先に分かった。
方向ではない。速度でもない。攻撃が生まれる前の、その輪郭だ。まだ光になっていない、力の集束の感触。
ルベルドは動かなかった。
光がルベルドの体に当たる、その瞬間。
指先を、その流れに合わせた。
触れた。
一点だけ、ずらした。




